三十一話 その3
「おぉ……一瞬だね」
「すごぉい……」
エリーゼさんに弾丸や魔石の破片を取ってもらい、傷を治すとエリーゼさん、シルフさんからそんな声が漏れた。
「左腕は動くかい?」
「治したんで」
ぶんぶんと振り回したら止められた。何ともないのに、心配症だなぁ。
「じゃあ包帯巻くからね。手ぇだしな」
「はぁい」
今回、私が怪我をした場面を見た人間が多いことから、しばらくの間私は両手に包帯を巻くことになった。まぁ手袋するから隠れるけど、一応。
「それにしてもフィオーレはよく動けましたね。貴方のいた場所からじゃあの子供は見えなかったでしょう?」
「第一王子が動いたので。子供のことはあとから認識しました」
「首輪は?」
「子供がずっと首に手をやっているのでこれは何かあるなと」
私に付き添っているエルくんからの質問に答えていく。事実だけを、余計なことを言わないように。
「なるほど。シルフ、どうですか」
「たぶん自爆装置だねぇ。フィオーレくんが魔石だけ壊してくれたから判断しやすいやぁ。ありがとうねぇ」
「いえいえ」
包帯の巻かれた両手に手袋をはめて、また外す。手袋には弾丸と魔石の破片のせいで穴が空いていた。弾丸は言わずもがな手袋を貫通したし、破片も勢い良く割れたせいで手袋を超えて私を刺してきた。これはもう使えない。
「自爆ですか……」
「酷いことするよねぇ」
本当にな。
ちなみにこの首輪は小説でも出てくる。だからこそ私はその知識があったわけだ。
包帯を巻かれ、動かしづらくなった両手を開いたり閉じたりしていると部屋の扉が叩かれた。ご来客のようだ。
「どうぞ」
この部屋の主たるエリーゼさんがそう言うと扉をあけてバルドさん、カルトスさん、エルミオさんが入ってきた。
「フィオーレ、無事か?」
「フィーちゃん大丈夫?」
「少佐、魔石の破片、できる限り集めました。それと参加者は皆各々の家へ無事帰ったそうです」
カルトスさんに持ち上げられながら心配そうに声をかけられる。バルドさんはエルくんに破片の入っているであろう袋を渡して報告していたが。
「さ、フィーちゃんは部屋に戻りましょう」
「? エルミオさんたちは?」
「あんなことがあったから警戒を強めなくちゃいけなくてね。これから仕事よぉ」
「え、私は!?」
「フィーちゃんは今両手が使えないことになってるから、仕事はできないわね」
そりゃそうだ。え、じゃあ私このあとぼっち?? さみしい。
「ば、ばるどさんも……?」
「あぁ」
「バルドさんちょっと左右に分裂しません? 片方ください」
「無茶言うな。死ぬわ」
まじかぁ。仕方ないか……。あんな騒動のあとだもの……。大人しく部屋に引きこもろう。
バルドさんたちと別れてトボトボと自室へと戻っていると、もっくんと出会った。もっくんも私と似たような服装をしている。
「あ、もっくん! こんなところでどうしたの? 仕事は? っていうかもっくんもその服装なんだね! 私と同じで服に着られてる感じするね! 仲間だねもっくん頭蓋の軋む音がするぅぅぅう!!」
「何か言ったか、おチビ」
「すみません謝るんで私の頭蓋を鷲掴みにしているその手を離してもらっても良いでしょうか」
私が懇願するとあっさり手は離された。
「怪我したんじゃなかったのか」
「え、もっくんもしかして心配してくれたの? 優しいなぁ」
「もう一回握られたいか?」
「照れるなよもっくん! ……怪我は大丈夫。両手が使えないから今日は仕事できないけどね」
包帯の巻かれた手を見せればもっくんは顔をしかめる。凄い。罪悪感が凄い。包帯巻いてるけど実際にはもう怪我なんてないから、騙しているようで辛い。
「……無茶はすんなよ」
「時と場合によるかなぁ」
「そこは嘘でも頷くんだよ、馬鹿。じゃあオレ持ち場に戻るから。安静にしてろよ」
「もっくんも仕事かぁ。もっくんちょっと二人に増えたりできない? 暇だからお話しよ」
「できるわけねえだろ。大人しく寝てろ」
「はぁい……。大人しく春画見てる」
「いや、馬鹿だろお前」
「最近ハマってるのはガチムチの春画だよ」
「なにそれ?! ガチムチ!?」
「カルトスさんやルヴィンさんみたいな筋肉モリモリの人たちのヌード」
「それ……面白いのか……?」
「いや別に。今度カルトスさんに見せてみようと思ってる」
「何考えてんだお前は……。ほら、さっさと部屋入って休め」
「なんだかんだ部屋の前まで送り届けてくれた上に話し相手になってくれるもっくんは優しいと思う」
「少しだけ時間があったからな。じゃ、今度こそオレは行く。しっかり休めよチビ」
もっくんと別れ、部屋に入ってベッドにダイブする。意外と疲れていたらしく、すぐに眠気がやってきた。
意識が落ちる直前、あの子供がどうなったかが気になった。




