三十一話 その2
国王は結構若い。
彼の父親である前国王が病に臥せってしまったことで早めに国王となったからだ。そしてイケメン。因みに前国王もイケメンだったらしい。国王はイケメンという縛りでもあるのか。
まぁともかく、そんな国王が壇上に立っている。
同じく壇上には彼の子供四人と王妃が。皆正装で、きらびやかです。眩しい。
そしてそれを見つめる会場のお偉いさん方。こちらもなんともまぁ華やかなものである。
それに対して警護に当たる私達。正装ではあるが、如何せんピリピリしているので中々辛い。
因みに私はずっと第一王子を見続けている。国王を庇ったなら、何かしら動きがあるはず。たぶん。きっと……! 自信ないけど。
そうやって壇上にいる第一王子を見続けること十数分。彼はやっと動いた。
国王が話していて、会場の大人たちが国王に釘付けになっている中、ラウロ王子が視線を会場の方へ向け、目を見開いたのだ。
今まできっちりと佇んでいた彼が体勢を変えた瞬間私は駆け出した。
幸い、私は壇上から然程離れていない壁際に立っていたから、すぐに壇上の方へと移動できた。
王子が国王を庇うように前に出る。私はそれを庇うように走り込み、そして先程王子が見ていた方に視線を向けた。
小さい子ども。
壇上に釘付けになっている大人たちの中に小さな子どもが紛れ込んでいる。
その小奇麗な服を着た、顔を青く染めた子供が拳銃を手にしていた。
その震える手が静かに引き金を引く。
破裂音と一拍おいたあとに響く悲鳴。
私の左手に直撃した弾丸は突き抜けることはしなかった。が、直撃した次の瞬間、左腕が痺れたように動かなくなる。血をダラダラと流しながら動かなくなった腕。どうやら雷魔法がかけられていたらしい。腕以外は動くから範囲は広くないがその分威力が強い。これを心臓の近くにでも撃ち込まれたら即死だ。手でよかった。
「お二人とも、ご無事ですか」
「私と父は無事だ。それよりも君……手が……!」
「あ、平気です」
そのうち治る。いや、しばらくは放置するけども。それに弾丸が埋まったままだ。取り出さなければならない。
それよりも、と壇上から小さな子どもを見下ろす。大人に捕らえられて武器を取り上げられた子供は虚ろな瞳で何かぶつぶつと言っているようだった。
武器を取り上げて捕縛するだけなのはそれが小さな子どもだからだろうか。
「フィオーレ!」
「少佐」
「今すぐ治療を……」
「それよりも国王陛下や他の方々の方を先に」
「そちらは他の方がやります。だから」
子供の様子が気になって外らから目を離さずにエルくんに対応する。子供は先程よりも顔色が悪くなっていた。そして、武器を取られてからずっと首に手をやって、祈るように何かを握っている。
「……」
「フィオーレ?」
私は壇上から降りて子供のもとへ向かう。
「ちょっと失礼」
「ヒェッ」
子供の前に立って、目線を合わせてから一番上までしめてあったシャツを無理やり開いた。ボタンが飛んだのは気にしないことにする。
「フィオーレ!?」
「フィーちゃん!? え、あなたそういう!?」
断じて違う。
取り敢えず誤解を解くのは後にして、子供の首にあるそれを確認した私は舌打ちをした。
子供の首には魔石が組み込まれた首輪がはめられている。
しかも魔石が……というより首輪が嫌な音を立てているではないか。
ガタガタと震える子供の首から無理やりそれを外して、魔力を込めれば私の手の中で魔石は砕け散った。その際、私の右手に魔石が刺さって私の手が血だらけになったがそれは気にしなくても良いだろう。
「他に何か持ってるか」
私の問いかけに子供はプルプルと頭を横に振った。一応簡単に身体検査もしたが何も出なかったので他の近くにいた部隊に子供を渡す。
「フィオーレ、医療班のところに行きますよ」
「はぁい」
たぶん後で色々聞かれるんだろうなぁ。
子供が首につけていたのは一種の自爆装置だ。
ただし、有力種限定の。
魔力をある一定量込めれば魔石が大爆発を起こすよう、首輪内に仕込まれた機械で調節されている首輪。だから魔力のない通常種が身につけても全く持って問題がない。
ついでに、許容量を超えた魔力を一瞬で込めると爆発する前に魔石が魔力に耐えられなくて壊れる。ちゃんと壊れてくれてよかった。




