二十九話 その4
「んぐ……!」
「…………」
男どもを縛り上げてから十数分。私達はすでに疲れきっていた。
「………………おっもい!!!」
私の身長を超える男を持ち上げて山道を歩いているのだから当たり前だと思う。引き摺ってやろうかこいつ。いやまぁ既に足は引きずっているわけだけど。
「投げ飛ばしたい……」
「落ち着くんだもっくん」
私だって投げ飛ばして放置して行きたい。無駄に筋肉ついてるから余計に重いぞこいつ。あ、こいつの武器捨てたら軽くなるかな。だめか。
そんなこんなで自分より大きな男を持ってよたよた歩いている私達の耳にもう聞きなれた草木をかき分ける音が届いた。
もしこれでまた熊だったらこいつらおいて逃げようかな……。
音の方を見るとそこに立っていたのは男が一人と女が一人。二人の腰には魔石が組み込まれた武器。
……。
私は持っていた男を地面に捨てて走り出し、驚愕の表情を浮かべる女の胸ぐらをひっ掴んで投げ飛ばしていた。
もっくんは同じように男を地面に落としてから走って、男にアッパーを決めていた。
2人の不審者はそれだけで気絶した。
「もっくん、縄」
「ちゃんと縛れよ」
任せろよ。
「まさか4人とも捕まえてくるとは……」
「お手柄だな!」
息も絶え絶えで地面に突っ伏す私達にそれぞれの班長が声をかける。
不審者を縛り上げた私達は今度は一人で二人ずつ持って山道を歩くこととなった。正直放置したかったけど、放置してる間に逃げられたりしたらたまったもんじゃない。
しかし考えてほしい。もっくんにチビと呼ばれる私とそんな私とあまり大差ない身長のもっくん。発展途上なピチピチの15才が恐らく良い大人であろう自分より高さのある人間を二人も持って山道を歩くのだ。キツイに決まっている。
なので、今現在私達は会話もままならないほど疲れている。
「大丈夫ですか、フィオーレ、モナ」
「っ…………だ……じょ……で、す……」
「…………いける……」
小さく、弱々しい声で答えると苦笑いが返ってきた。当たり前だ。立つことすらできないんだから。
「フィーちゃんもモナくんも頑張ったわねぇ。はいお水」
「……」
エルミオさんとフードをかぶって顔を隠したキドさんが水を手渡してくれる。とても美味しい。水って素晴らしいね。
兎にも角にも、今日の仕事は無事終了したわけだ。よかったよかった。
で終わるわけもなく。
「もっくん報告書書けたー!!?」
「書けたと思うか?」
「一緒にやろうぜ! 見てこれ真っ白!」
「何してんだお前は」
施設に戻り、着替えてから白紙の報告書を持ってもっくんの部屋に突撃したら医務室に行ってきたのかあちこち包帯を巻かれたもっくんが部屋にいた。彼も報告書を書いているらしい。
今回、不審者を捕縛したのは私達なのでその事についてエルくんに報告書を提出しなければならないのだ。しかし一人で書くのも寂しいのでもっくんに突撃。
「私こういうの書くの苦手なんだ」
「オレも」
「一緒に頑張ろー」
「……おう」
仕方ねぇな、と言う感じのもっくんと一緒に報告書と向き合う。なんだかんだもっくんも優しい。小説通りだ。
そういえば、被害者の人たちはどうだったんだろうか。
報告書を提出した後、自室で寝る準備をしている時にふとそんなことが気になった。
エルくん書き終わった報告書を提出したら魔法武器を持った相手に素手で挑むのは危険だと、連絡はちゃんとしなさいと少しだけ怒られたが、それ以外は何も言われなかった。犯人を四人とも捕縛したことは褒められたけれど、被害者の安否などについては一言も言われなかった。
……私が聞かなかったからか。エルくんたちには特に変わった様子はなかったし、気にするほどでもないかな。
少し考えたけれど、うまい答えも見つからず、そんな風に納得して私は眠りについた。




