二十九話 その3
「もっくんこれは?」
「甘いけど毒あるぞ」
「まじかよ」
「これは?」
「根っこを揚げると美味い」
「持って帰ろう」
「俺達仕事中だぞ」
「これは知ってる。魔力の循環を乱すやつだ」
「食うと滅茶苦茶苦いらしいぞ」
「へぇ〜」
先々にある木の実や葉っぱを手にとってきけばもっくんからは食べられるか否か、美味いか不味いかが答えとして返ってきた。よく知ってるな。
「にしても中々辿り付けないね」
「そうだな。おっ、川」
「ほんとだ〜」
歩いていれば緩やかに流れる川に行き着いた。水がとてもきれい。
あ、魚。
「この魚は食べられる?」
「うまい」
「そっかぁ」
……後ろに2人いるな。けど遠い。
少し離れたところから聞こえる小さな足音に注意を向けながら、素知らぬふりをする。
「だけどまだ太ってないな。もう少ししたら脂が乗ってさらに旨くなる」
「なんでそんなことまでわかるの?」
まだ遠い。
「昔住んでたところの近くにもいたからな。自分で取って食べてた」
「草も?」
あと少し。
「草も。結構何でも食ったな」
「熊も?」
「あぁ」
ーーーきた!
カサリと落ち葉を踏む音が真後ろで聞こえると同時に振り返り、その勢いで後ろに居たやつに回し蹴りを食らわせた。そしてそれによってバランスを崩した男の後頭部を掴み、顔面に膝を入れる。鼻から血を流し気を失ったソイツは地面に倒れ伏した。
「死にかけたけどな」
「まじかよ」
もっくんはもっくんで男の顔面に拳を叩き込んだあと鳩尾に膝蹴りを入れていた。
「にしてもお前えっぐいな」
「もっくんに言われたくないなぁ。ところでこの人たち例の不審者かな?」
「この山には今俺達しか入ってこれないはずだし、被害者の中にはこんな男いなかったからな。たぶんそうだろ」
「じゃあ持ってく? あと二人はいるよね」
「取り敢えず指示を仰ぐか」
もっくんが無線で指示を仰ぐ間、私は荷物の中から丈夫な縄を取り出して男たちを縛る。さて、どう縛るかな。亀甲縛り……いやいや、今は仕事中だ。ちゃんとした縛り方にしよう。
手首と足首をがっしりと、絶対に取れないように結んでから、男たちを地面に転がしてもっくんを待つ。ここに油性ペンがあったらこの男たちに落書きでもしていたところだ。
「その男たち連れて行くぞ」
「どうやって?」
「どうって、そりゃあ持ち上げて……」
不審者二人を改めて見たもっくんはそのまま固まる。
不審者2人は明らかに私達よりも大きいし、ガタイもそこそこ良い男だった。しかも気絶中。
要するに、私達ではそんな簡単に持ち上げられないのだ。背も足りないし、筋肉も足りない。
それに気がついたのだろう。もっくんの顔から表情が抜け落ちた。怖い。
「こいつらバラすか」
「駄目だよ!?」
結局、頑張って持ち上げて行くことになった。足は引きずるが勘弁してほしい。




