二十九話 その1
「もっくんと仕事嬉しいな〜!」
「お前元気だな。チビだからか」
「だから私ともっくんそんなに身長違わなぎゃんっ」
殴られた。
今日は王都から少し離れたところにある山に出た不審者の確認、捕縛が私達の仕事である。
少し前から山に入った人間が帰ってこなくなったらしい。そして同時期に不審者の影が見え始めた。その不審者はどうやら複数人いるらしく、尚且つ武器を持っていたという。その武器が魔法武器かもしれないということで私達が使いに出されたというわけだ。相手の武器の詳細などがわからないため危険度か高いとみなし、第六部隊全員で向かうことになった。人数については4人組だという話だ。
そんでもって、今は二人一組になって探索中である。不審者を発見した場合即無線で連絡を取るよう指示されているし、二人で突っ走って戦闘するな、とも言われている。
「なんでオレとチビが組まされたんだ」
「魔法の相性じゃない? あとは年が近いからとか」
「あぁ……」
山の中には燃えやすいものが大量にあるし、火魔法なんか使ったら一発で山火事である。なので火魔法は使えない。対して私の持ってる短剣は土魔法が使えるということになっているので、土だらけのこの山の中では優秀なのだ。
「つまりもっくんは今回役立たずだということだね!」
「ほっとけ」
「まぁ不審者に遭遇するとは限らないし! 見つけてもすぐ連絡しろって……」
話しているとガサリ、と草を掻き分ける音がした。目的の不審者かと、二人で振り返る。
つぶらな瞳。
暖かそうな、茶色い毛皮。
鋭い爪をもった、太い足。
どう見ても熊ですありがとうございます。死ぬ。
唐突な熊の出現に、私は熊と視線を合わせたまま固まった。距離はそこそこある。しかし視線があったのであちらもこっちを視認している筈。敵とみなされれば攻撃される。
「絶対後ろを向くな、騒ぐな、動くな」
静かにそう言うもっくんの言葉に頷く。本当は目線も合わせないほうがいいんだよね。知ってる。でももうバッチリ目と目があったからそれは無理だ。
「魔獣でもない動物への手出しって……」
「許可されてねぇよ。それに……」
「それに?」
「熊肉は匂いが強いから、食べるための処理に手間がかかる」
なんでそんなことを知っているんだろう。
疑問はあったが、それはまた安全が確保できてから聞くことにする。その前に熊だ。
「でも熊の胆は高く売れるんだよな……やっぱ捌くか……」
「いやいや、だめだって言われて……」
なにやらおかしなことを言い始めたもっくんに苦言を呈していると視界に捉えていた熊が動き出した。
「げっ」
熊が突然地面を蹴り、こちらに向かってくる。うわめっちゃ速い!
「あいつオレらのこと狩るつもりだぞ!」
「もっくんが捌くとか言うからじゃない!?」
「あの熊人語解するのかよやべえな!!」
そんなことを叫びながら走る。熊との距離がだんだんと狭まっていくのがわかった。
「熊速いな!?」
「まてそっちは!!」
熊から逃げるため走り出してすぐに私の足元から地面が消えた。嘘だろ!?
「が、崖!?」
「チビ!」
私はこちらに伸ばされたもっくんの手を思いっきりつかむ。そして、二人揃って地面へと落下していった。




