二十八話
ちょっと下品な話かもしれない。
さて、頼れる先輩であるバルドさんに私の性癖……じゃねえや性別が露呈したわけだが。特にそれは問題ではない。バルドさん口固いから。
「バルドさーん!」
「おう。取り敢えずお前はノックをすることと、家主の許可を得てから入室することを覚えろな」
「お宝持ってきました!」
ある日の休日、私は朝からバルドさんの部屋に押しかけていた。え、ノック? 知らね。それより実はずっとやりたかったことがあってだな。
私はお宝の入った袋を雑に逆さまにして中身をぶちまける。
「……何だこれ」
「春画です! 男といえばこれかと!」
「男をなんだと思ってやがる」
え、違うの? 男子の言うお宝ってエロ本のことじゃないの?
私は今現在一応男としてここにいる。まぁまだ子供と大人の境目なので健全な生活を送らせてもらっているわけだが、そのうち仲間たちと下世話な話をするかもしれない。しかし、女子として生活していた私にはこういった事への免疫がない。なので免疫をつけるついでに、ちょっとこういったことも楽しみたいのだ。女子でエロ本囲って猥談とかあんまりしないし。あと地味に他人の趣向が気になる。
「え、だって男はこういった本読んだり花街に行ったり美人さんをナンパしたりするもんでは?」
「人によるだろ……」
「バルドさんしないんですか?」
「しねぇよ」
「え、嘘!? バルドさん本当に男ですか!?」
「お前は女としての慎みをどこに置いてきたんだ?」
たぶん、母親のお腹の中。
はぁ……と深いため息をつくバルドさんに詰め寄り、春画を見せる。肌色面積の多いお姉さんたちがいっぱいだ。
「バルドさんはどの子が好みですか?」
またため息をついたバルドさんはパラパラも本を一通りめくってから、あるページを開いた。
「……このこ」
巨乳だ。
「へぇ〜」
「へぇ……」
……声が一つ多いな?
後ろから聞こえた声に振り返ればそこには紙の束を抱えたエルくんがいた。興味深そうに春画を覗いている。
「なるほど、バルドは巨乳好きでしたか」
「は!? え、いや、しょうさ!? なんでここに!?」
「次の仕事の資料を届けに。鍵開いてましたよ」
「ありがとうございます……???」
「フィオーレのぶんも……フィオーレ?」
私に資料を渡してくるエルくんをじっと眺めてから、春画を掲げて口を開く。
「少佐はどの子が好みですか?」
「お前何聞いてんの!?」
いや、知りたいじゃん? 気になるじゃん?
ちなみに、小説の中でエルくんと結婚したのは黒髪美人である。
「この子ですかね」
本を見たエルくんはさらりと答える。なるほど美乳か。
「因みに、カルトスは自分と張り合えるくらい強い女性が好みらしいですよ」
「もうそれ人間やめてません?」
ゴリラがお好みなのかな。
「エルミオは老若男女問わないそうです」
「守備範囲広いですね〜」
私達がそんな会話をする傍らでバルドさんは「何やってんだろ、俺……」と窓から見える空に目をやって現実逃避していた。
あ、そうだ。今度もっくんの部屋にも持っていってみよう。




