二十七話
「はぁ〜……美味しい!」
ある日の夜。仕事を終えて、汗を流すためにシャワーを浴びた私はのどが渇いたので冷えたお茶を飲んでいた。美味しい。あぁでも牛乳もいいよなぁ。今度買っとこう。
そんな阿呆なことを考えていたらガチャリと音を立てて部屋の扉が開かれた。
「フィオーレ、この書類書き間違えて……」
「……」
時が止まった。
バルドさんの晴れた空のような青い瞳と、視線がかち合う。
そういえば、鍵をかけた覚えがないなぁ……。
一瞬の静けさの後、バルドさんは顔を真っ赤に染め上げた。
「ーーーーっーーーー!?」
ところで今気がついたが、私は全裸である。
「ちょっと服着てきます」
服を着て戻ったらバルドさんがまだ書類を持ったまま立っていた。適当に座ってくれてよかったのにね。
「お待たせしました。紅茶飲みます?」
「……………………お前、女だったのか?」
「そうですねぇ」
「…………そうか」
椅子に座ったバルドさんは頭を抱えてしまった。そんなに気にしなくても良いのに。
頭を抱えたバルドさんは黙ってしまい、再び部屋が静かになる。
「気にしなくても良いですよ? 隠していたのはこちらですし」
「……なんで軍に……」
「やりたいことがあるので」
紅茶を淹れて、それを机の上にバルドさんの分も置く。
「そうか……」
「おや、何も言わないんですね」
もっと何か言われると思ってたよ。
女子供は守るべき、という風潮があるこの国だ。女と知れれば前線から退けと言われると思っていたが、バルドさんは何も言わない。ただ淹れられた紅茶を眺めるだけだ。
「女で……15……」
「えぇ」
「…………せめて、18になってからじゃ駄目だったのか」
「駄目ですねぇ」
それでは間に合わない。
私の年齢はこの国の第二王子の一つ上だ。第二王子は物語の中で主人公と同い年。主人公が学園に入り、暫くすると様々な問題に巻き込まれ始めて、2年の時には戦争が始まる。つまり、学園に通ったりしたら、私が軍に入る前に戦争が始まってしまうのだ。それではエルくんを救えない。
「そうか。………………うん。なら仕方ないな」
「えっ」
「人間秘密の一つや2つあるしな。仕方ない。ところでこの書類」
「それでいいんですか!?」
やけにあっさりしてない!?
なにやらすっきりした顔のバルドさんは書類片手に私が淹れた紅茶を飲み始めた。くそ、無駄に様になってる。
「いいんじゃないか? 別に不利益ないし」
「ないけども!」
「あ、でも、自分のためにもそのことは秘密にしとけよ」
「勿論です」
「ん。で、この書類な。ここ、間違ってる」
あ、ホントだ。あぶね、これ提出するところだったよ。バルドさんに見てもらって正解だったな。
バルドさんはとても頼れる先輩である。




