二十六話 前半
今日の仕事は王宮の警護です。
今回は外回りを頼まれたので、外にいる警護の方と軽く話をしながら見回る。相変わらずぼっち。
「こんにちは〜」
「おや、こんにちは。見回りかな?」
「はい。何かありました?」
「ないかな。平和だね」
警護の人は私達のように動き回ることはせず、決められた配置についてずっと見張りをする。基本二人一組だが、ずっと同じ場所にいるのも暇なのか、大体の人が話しかければ返してくれるのだ。勿論長話はできないけれど、挨拶くらいはできる。
周りに気を配りながら警護の人と軽く話をしていると、視界の端によたよたと歩くご老人が入った。その両手には大荷物を抱えている。
「あの方は?」
「あぁ、庭師の方だよ。もう一人若いのがいる。毎回二人して大荷物を運んでいるから手伝いたいんだが……私達は持ち場を離れられなくてね」
なるほど。今見えるところにその若い人はいない。あとから来るのか、先に行ったのか。どちらにせよその人も大荷物を持っていたらあのご老人はあの大荷物を一人で運ばなければならなくなるのか。よし。
「見回りついでに手伝ってきます〜」
「いってらっしゃい」
警護の人に別れを告げて、おじいさんの方へと駆け寄る。おじいさんは年の割には筋肉がついているようだけど、それ以上に荷物が重そうだ。
「そこの方。もしよろしければお手伝いさせてください」
「それはありがたいねぇ。魔法軍の方かね」
「見回り中です。行く方向同じなので手伝いますよ」
「ありがとうねぇ」
人好きのする笑顔を浮かべたおじいさんから荷物を半分ほどもらう。ずっしりとした重みが腕にのしかかって一瞬よろけてしまった。おじいさんこれ何入ってるの? ぎっくり腰になるかと思ったよ?!
私ら滅茶苦茶重い荷物を持っておじいさんの後について、庭へと足を進める。
「ここでいいよ。ありがとうねぇ」
「いえ〜。では私はこれで〜」
荷物を置き、おじいさんと別れる。さてさて、つぎは玄関の方を見に行かないと……。
「カルヴィーノさん!!!」
一歩踏み出した私は突然訪れた衝撃にズベシャと顔から転んだ。
え、なに? なんで私転んだの? あとなんか背中に感じる重みは一体……。
「カルヴィーノさん! こんにちは!」
地べたと仲良くする自分の体の上から聞こえたのはまだ声変わりも来ていない幼い子供の声。
「こんにちは?」
残念なことに顔面から地面に激突した私はうつ伏せで、相手は私の背中に乗っているため顔が見えない。私の首の可動域はそこまで広くないんだ。横目でギリギリ見えるのは美しいブロンドの髪だけである。
「リエト! いきなり走ったら危ないわよ!」
「クラディア姉様!」
「取り敢えず退きなさい、何時までも人の上に乗るものではない」
「はい、ラウロ兄様!」
凄く、聞いたことのある単語が聞こえた。リエトというのは第三王子、ラウロは第一王子、クラディアは王女の名前だ。嘘だと言ってほしい。
「君大丈夫? 僕の弟がごめんね」
体の上から重みが消えて、起き上がった私の目の前には上質な服を着た、一人の少年がしゃがみこんでいた。
「…………」
その少年は、私のひとつ下で、小説の中では主人公とくっついた、この国の第二王子のクラウス王子だった。




