二十五話
ガキン、と鈍い音を立てて持っていた剣が折れる。それは、本来ならば折れるはずのないもので、なぜそんなものが折れたかといえばそれは目の前にいるゴリ……カルトスさんのせいである。
「逃げてても終わらんぞ!」
「待って! 待ってカルトスさん! これ見て!!! 剣折れてるから!!」
主にあんたの重すぎる一撃のせいで!!
私を追いかけ回すカルトスさんから逃げながら叫ぶが、カルトスさんは止まらないし、それを眺めるエルくんたちも止めない。
「フィオーレ、剣が折れたらどうするか知ってるか?」
「はい!?」
必死で走る私の後ろを余裕綽々と追ってくるカルトスさんが真面目な顔をして何かを言い出した。本当あんた余裕だな!?
カルトスさんは走りながら剣を握っていない方の手を握る。
「拳だ」
「無茶言わんでください!!!」
鬼に金棒状態のカルトスさんに素手で挑めと!? それ即ち死を意味するんですよ! 魔法無しの訓練だから魔法使えないし! 私に死ねと!?
「トーナメントでは素手でいったんだろう?」
「あれはまだ未熟で隙だらけな相手だったからですよ! カルトスさん隙ないじゃないですか!」
「そんな褒めるなよ」
「くっそ!!!」
結局、追い回された挙句叩きのめされました。まじ容赦ない。
「うぅ……ひどい……」
半泣き状態でエルミオさんが用意してくれたご飯を食べる。これ絶対明日筋肉痛だよ……。
「お前はよく動けてる方だと思うぞ」
「バルドさんが優しい……」
「よしよし」
隣に腰掛けたバルドさんが優しく頭をなでてくれる。もっと。もっと私を労ってください。
今日は特に仕事もない休みの日なので、皆で訓練と洒落込んでいる。意味がわからない。ちなみに今はお昼休憩中。
「いや、お前はよくやってるぞ。俺にあそこまでくらいつけるのはあまりいないからな!」
「さいですか……まぁ、カルトスさんのしごきは鬼みたいにヤバイですからね」
「フィーちゃんは確か師匠がついてたのよね。その人は優しかったの?」
はいお茶、と温かいお茶を手渡してくれるエルミオさんの言葉に、私は師匠に課された修行を思い出した。
頭上から降り注ぐ火の球。
見えない風の刃。
突然割れる地面。
地面をえぐるレベルのスピードで飛んでくる水。
突然の雷。
……。
「カルトスさんのほうがやさしい……」
「あれで……?」
私の言葉にバルドさんがドン引きしていた。
魔法の訓練を行うからと、きちんと国に申請を出し、許可を貰い、領主からも許可を得た師匠の訓練はやばかった。魔法による攻撃の繰り返し。何度死を覚悟したことか。幼子にも容赦はなかった。
「フィオーレの師匠はどんな方なんですか?」
「どんな……」
エルくんの質問に答えるべく師匠のことを思い浮かべる。ふむ。
「なんか、スゴい人?」
「すごい人……」
「俺より強いか?」
「魔法を使えば、たぶん」
体術だけならカルトスさんの方が強いと思われます。まじで。あの人も体術凄かったけど、カルトスさんほどじゃないと思う。
魔法使わせたらは異常なまでに強いけど。
「一度会ってみたいものですね」
「はは………………」
エルくんの言葉に私は曖昧に笑うことしかできなかった。




