二十話
シルヴィアのところから帰った私はその足でシルフさんのいるであろうラボに向かった。それにしても研究所からラボまで少し遠いな。
ラボについたのは日が沈み始めてからだった。
「シルフさーん」
「んん〜? フィオーレくんじゃなぁい。どぉしたの?」
「空飛びたいです」
「唐突な自殺願望?」
「違いますよ!?」
ラボに入って要件を告げたら斜め上の勘違いをされた。
「飛び道具作ってくださいな〜」
「難しいこと言うねぇ」
私の要求にシルフさんはうーんと考え込む仕草をした。
なんでなんでと言いながらそのへんにある椅子に座る。
「まず魔法ってのは基本的に火、風、水、土、雷の5つの属性にわけられるんだよぉ。で、そのどれにでも分岐できるのが無属性ね」
唐突に始まったそれにふむふむと頷く。
「ここに氷とかの亜種が入ってくるわけだけど……まぁそれは置いておいて。人間が魔法を使うには明確な式とかは無くて、頭でイメージすることでそれを使用できる。ここまではいいかなぁ」
「なんとなく」
「素直でよろしい。じゃあフィオーレくん、君、空を飛ぶときのイメージってどんな」
「どんな………………」
こう、ふわっと。
「明確なイメージはできる?」
「浮いてるだけですね!」
「どんな属性の魔法をどんな風に行使してるか、想像できる?」
シルフさんに言われて改めて考える。ふむ。全くわからない。飛行機ってどうやって飛んでいたんだろう。
「人には羽がない。だから鳥のようには飛べない。炎で飛ぶことは可能だけれど、操作が難しいしずっと魔法を使い続けるから魔力の消費がどうしても大きくなる。風魔法もそう」
「だからね、今の技術では人間は飛べないんだ」
説明し終えたシルフさんはテーブルに置いてあったクッキーを1つ食べた。
空を飛ぶのは難しいかぁ。空が飛べたら楽しいだろうし、戦力的にも助かると思ったんだけど。というかシルフさん普通に話せるのか……。いつも間延びした言葉遣いなのに。
「……でも、君なら飛べるんじゃないかなぁ」
「ほぇ?」
唐突なそのセリフに間抜けな声が出た。シルフさんは大きすぎる白衣のせいで指先まで隠れている手で何やら装置を手に取った。その装置には魔石と思しき石が組み込まれている。
「これは作りかけの魔法道具。人間は保有できる魔力量が凄く少ないから、こうやって魔石で増強させるんだよ。その際に魔法属性が固定されてしまう」
「ふむ」
「魔石の殆どはさっき挙げた5つの属性に分類されるから、ワタシたちが使う魔法もこの5つの属性になる。だから空を飛ぶ道具を作るときもそのどれかに魔法を落とし込むしかない。それが結構難しいんだ。どの属性をどんな風に使うか、イメージが固まったあとはそれを再現する機械を作らないといけないし、さっきも言ったように色んな問題が浮上してくる」
「ふむふむ」
「でも君は違うでしょう?」
「ふむ?」
「君は希少種だ。魔石も魔法道具も必要ない。だから魔法属性を固定されることもないし、魔力量だって無尽蔵に近い」
「そうですね?」
「そうだねぇ……じゃあ今ここで少し浮いてみて。浮いている自分をイメージして、魔法を使ってみてごらん」
「?」
浮いている自分……ふわっと、宙に浮く感じで……。
イメージしたまま魔力を使えば地面から足が離れたのがわかった。閉じていた目を思わず開ける。
「浮いた!? なんで!?」
「君は無属性だから、その魔法が何属性なのかわからなくても、その魔法を行使できるんだよ。これは無属性の特権だねぇ」
「ホェ〜」
空中を漂いながら感嘆の声を漏らす。私凄い。そしてシルフさんも凄い。なんで今まで飛べないと思ってたんだろ。……飛ぶ必要もなかったからだな。あと周りに飛んでる人がいなかったから、できると思ってなかったのか。
私が浮きながらそんなことを考えているとガチャリと音を立てて部屋の扉が開いた。
「シルフ〜。あんたそろそろ健康診断……」
部屋に入ってきたのはエリーゼさんだった。




