十七話
「……えっと、特大サイズの飛び蜥蜴を連れてくると聞いていたのですが」
研究所についた私達を出迎えた研究員さんが発っした言葉はそれだった。やっぱりこの子蜥蜴じゃないよね。
「この子は」
「どう見ても竜ですね」
「ですよね」
魔法が解け、自由になったシルヴィアは地面に寝そべってダラダラしている。やっぱり竜かお前。
「少々お待ちを」
そう言って去っていく研究員さんを見送ってシルヴィアと向き合う。気持ちよさそうにダラダラしやがって。
「君竜らしいよ」
「そのようだな」
シルヴィアの胴体を背にして私も地面に座る。するとバルドさんも隣に座った。
「疲れた」
「お疲れ様です」
「ご苦労だったな。おかげで快適だった」
「そりゃどうもー」
ヤケクソ気味に返すバルドさんは本当に疲れているようで今すぐにでも寝そうなくらいぐったりしている。
「二人とも」
「カルトスさん?」
「少佐の後ろに隠れてろ」
「「?」」
渋い顔をしたカルトスさんに言われ、研究所の入り口を見ているエルくんの後ろに二人して移動する。流石に隠れるのは無理です。
「いいですか。今から来る男は頭のネジが飛んだ人間です。危ないと思ったら逃げなさい」
「あ、はい」
「わかりました」
頭のネジが飛んでる人……。
少しだけ警戒心を強めてエルくんの制服の裾を握る。ん? ていうか私今すごく良い立ち位置にいない? エルくんの真後ろ。部下をかばうエルくんかっこよすぎかな。エルくん最高。エルくんの勇姿を記録するデジカメとか欲しいなぁ。誰か開発してくんないかな。
「来たわよ〜」
そんなエルミオさんの言葉とともに、土煙を立たせながら何かが走ってきた。え、こわ。
「竜が来たってマジ!? っていうかエルベルトくん久しぶり! それに新人が入ったって聞いたけど! ちょっと調べさせてくんない!?」
むちゃくちゃ騒がしい人が来た。
「竜であるシルヴィアさんはそこにいます。お久しぶりですねアーベルさん。それと新人には近づかないでもらえますか」
「うっわ本当に竜だ! まさか生きてるうちに拝めるなんて!」
騒がしい人、アーベルさんはシルヴィアさんの近くに膝を突き、天に「神様ありがとう!」と祈りを捧げ始めた。……もしかして心の中の私ってあんな感じなんだろうか。これからはエルくん関係で良いことがあってももう少し大人しくしよう……。
「二人とも。彼がこの研究所所長のアーベルさんです。ド変態なんで、近づかないでくださいね」
エルくんが辛辣すぎる。
「バルトさんもあったことがないんですか?」
「おう。今までこの研究所に来たことないしな」
「へぇ」
この研究所は王都にあるのとは違い、野生の動物などを研究する施設だ。王都のは武器などの研究、開発。
「あんな人間がいたとは思わなかったな」
「テンション高いですよね」
「な」
「そりゃ竜を見たからね!」
エルくんの後ろでコソコソ話していると真後ろから声が聞こえた。
アーベルさんの声が。
「だから嫌なんですよ。貴方に会わせるの」
そう言ってエルくんが自分の持っていた短剣を私とバルトさんの間から後ろへ向けた。こわっ。っていうかアーベルさんいつの間に移動したの?
「つれないなぁもう」
「離れなさい変態。この二人は私の部下なんですから、勝手に手を出さないように」
「はーい。二人とも名前は?」
「バルドです」
「フィオーレです」
「そっかぁ。二人とも自分の限界を超えてみたくない?」
この人は何を言っているんだろう。
「手を出すなと言ったはずです」
「あー! 目が! 目がぁ!」
淡々とした動作でエルくんがアーベルさんの目を潰した。目潰し……。
「あの、少佐、大丈夫なんですか?」
「あれくらいなら問題ありませんよ。あの変態は治癒魔法を使えますから」
えっまじで? なんでこの人研究所にいるの? 医療班とかでよくない?
私の困惑は顔に出ていたらしいようで、エルくんがゴミを見るような目で地面をのたうち回るアーベルさんを見下ろして口を開く。
「この変態が治癒魔法覚えた理由『多少手荒い実験しても治せば問題ないよね! 治癒魔法使えるようになろ!』ですからね」
それは酷い。
ちょっと待って。それってつまりこの人は治るならいくら実験しても良いっていう考えの人で……私のことバレたらまずくない? 私傷つけられてもすぐ治せるよ? 狙われそう。
「酷いなぁ! そんな酷いことは自分の身体とか、その生物の了承を得ない限りやらないよ!」
「……」
「本当だよ! もう! で、あの竜はこちらで預かっていいの?」
「シルヴィアさんに聞いてください」
「嫌だと感じたら暴れて逃げるが、多少の研究には付き合おう」
「よっしゃぁぁぁぁあ!」
アーベルさんの雄叫びが響きわたった。
因みにこのあとシルヴィアは「飯さえ出るならここの守りをするぞ」と言い出し、その研究所の番犬ならぬ番竜となった。




