十四話
「おや、ずいぶんとかわいらしい子だね」
医療班に行ったら肝っ玉母ちゃんみたいな人がいた。エリーゼさんというらしい。
「この子がフィオーレです」
「なるほどね」
じぃーっと私を上から下まで見てくる肝っ玉かあ……じゃない、エリーゼさん。視線が痛い。
医療班は清潔そうな建物の中にあった。消毒液のにおいがする。私の目の前にいるエリーゼさんは医療班の中で一番偉い人らしい。
「この子本当に軍人かい?」
「正式な私の部下ですよ」
「ふぅん」
「どうかしましたか」
「いいや。ちょいと、あんた。フィオーレだったね。希少種なんだって?」
「あ、はい」
「あたしも希少種は診たことがない。まずいくつか質問させてもらうよ」
そこに座りな、と椅子を指さされたので素直に座る。エル君は壁にもたれかかってこちらを見守っていた。なんだろう。病院の診察についてきた親っぽい。
「治癒魔法は使えるのかい」
「使えます」
「どのくらい。自分にもかい」
「骨折とかならすぐに治せます。自分の傷はもう反射的に治してます」
「それはまずいね」
「まずいですね」
私の言葉にエリーゼさんだけでなくエル君も反応した。え、なに。なんで二人とも真面目な顔してるの。
「軍に入ってから大きな怪我はしたかい」
「してないです」
「もし怪我したらすぐここにおいで。あたしのところにだ。いいね」
「え、何でですか?」
自分で治せるのだから自室で構わないはずだ。っていうか怪我した瞬間治し始めてるから、エリーゼさんのところに行く前に治し終わると思う。
「フィオーレ、軍は団体行動が基本です。今のメンバー以外と行動することだってあり得るんです。その場合、貴方が大けがをして、それを自力で治していたら、それは自ら『希少種です』と言っているようなものなんですよ」
「?」
「治癒魔法はね、生き物にかける魔法だからその分修練が必要になるんだ。それに、骨折なんかの大怪我を治すにはそれ相応の魔力が必要になる。そうだね……綺麗に折れた骨をくっつけるのにも三人くらいで交代しながら魔法をかけ続けるんだ」
知らなかった。
「だから、前線で戦う軍人が一人で怪我を治すなんて普通はない。だからあたしのところに来な。いいね」
「頑張ります」
大怪我したら治さないよう注意しなきゃならんのか。きついなぁ。
「本当にわかったかい?」
「はい」
「もっと元気よく!」
「はい!!」
よし! と許しを得て、医療班を後にする。何だろう、なぜか疲れた。
「エリーゼさんは優秀ですから、彼女のもとに行って大怪我が治っていても誰も疑いませんよ」
「そうなんですか」
「えぇ。治癒魔法には魔石が存在しませんから、人間が持っている魔力をそのまま扱うことはわかってますね?」
「はい」
私に魔法を教えた師匠も治癒魔法には石を使っていなかった。
歩きながらエル君が言葉を続ける。ところで、私はエル君についてきているけど、どこに向かっているんだろう。
「彼女は有力種の中でも希少種に近い魔力量なんですよ。あと少しでも魔力が多かったら希少種になっていたのでは、と言われるほどに」
「そうなんですか」
「ですからある程度の大怪我なら彼女だけで治せます」
だからエリーゼさんのところに行って怪我を治しても怪しまれないのね。なるほど。状況にもよるんだろうけど。
「口も堅い方ですし、貴方に害をなすことはないと思いますよ」
さすが肝っ玉母ちゃん。エル君に信用されてんね。というか紹介された二人はどちらもエル君に信用されているんだろう。
「ところで少佐、どこに向かっているんですか?」
寮はあっちですよ、と指をさすとエル君は私を見てほほ笑んだ。あ、今の笑顔とてもいい。写真に収めて額縁に飾りたいくらい。祭壇作りたい。
「折角ですから、外に食べに行きましょう」
今日が私の命日かな?
エル君が連れて行ってくれた店の料理は絶品でした。エル君は結構小食だった。可愛い。食べ物を食べるエル君可愛い。餌付けしたい。




