十一話
「私、何かあったら指示を仰ぐように言いましたよね」
「すみません……」
無表情のエル君がとても怖い。
王子を助けた後、吐きそう……という王子を急いで王宮内に連れていくと、見回りをしていたエルミオさんに遭遇した。エルミオさんが王子を医務室に連れて行ってくれたので私は庭に放置した男を回収。それをもって王宮へ向かうとエルミオさんに報告を受けたらしいエル君が庭の入り口で待ち構えていた。エル君はカルトスさんに男二人を任せ、私を連れて控室的な部屋へ。そして説教の始まりだ。
「今回は王子が無事なのでいいですが……」
うん。なんか気持ち悪そうにしてたけど無事でよかった。
「……もし向こうが凶悪な人間だったらどうするんですか」
「とりあえず殴ります」
「即答しないでください」
「すみません」
凶悪な敵だったら、か。魔法を使えば何とかなるだろうけど。
「私の許可がなければ魔法は使えませんからね」
私の思考を読んでいるかのようにエル君がそういってきた。
私たち魔法軍は許可がない限り魔法を使うことが禁止されている。魔法は強力な武器だ。むやみやたらに使っていいものではない。基本的に上司の許可がなければ使えない。
「あ、そういえばあの男二人、魔法を使っていました」
「魔法、ですか」
「はい。魔法具がないのか、威力も持続時間もそれほどではありませんでしたが」
「……」
私の言葉にエル君が何か考えるように口元へ手をやった。様になるね!!!
「わかりました。報告ありがとうございます」
「では私は仕事に戻ります」
「はい。今度はちゃんと指示を仰いでくださいね」
「う……はい……」
善処します。
まぁそうだよね。指示仰いで、ちゃんと対処しないとエル君にも迷惑かかるよね。頑張ります。
そう心に決めながら私は部屋を後にした。部屋を出るとき、ちらりとエル君を見たけど、まだ難しそうな顔をしていた。そんな顔もかっこいいね!
「フィオーレ」
「バルドさん」
部屋から出るとバルドさんが壁際に立っていた。
「昼休憩の時間だから、飯食いに行くぞ」
「わーい。どこにですか?」
「王宮の厨房」
「はぇ?」
バルドさんは呆ける私の手を引き、すたすたと歩きだす。え、待って。なんでそんな迷いなく歩いてるのバルドさん!
昼食は本当に厨房で食べた。なんか余った食材で作ったものらしいけどすごくおいしかった。次の時も作ってくれるらしいし、楽しみだなぁ。
なんだかんだで勤務時間を終え、寮に戻り、シャワーを浴びる。
あの後は本当に平和そのものだった。警備員のおっちゃんたちとも軽く話をすることができたし、ご飯美味しかったし、良い仕事だね。またやりたい。次いつかな。
シャワーを浴び終えたので服を着て、髪を拭きながら部屋に戻る。明日は朝早めに起きてカルトスさんと稽古してから仕事のはずだから早めに寝よう。
「こんばんは」
「あひゃぁっ!?」
部屋に戻ったらエル君がいた。本当、エル君はどこから入ってきてるの!? 部屋の鍵閉めたよね!? 窓も開いてないし……。
「どうしたんですか少佐……」
「いえ、伝え忘れたことがありましたので」
「?」
それなら明日でもよいのでは? 急ぎのことなんだろうか。
「今日はご苦労様でした」
「あ、はい」
「貴方のおかげで第三王子が攫われずに済みました」
呆けたまま立ったままの私の方へエル君が歩み寄ってくる。ところでエル君、いつもよりラフな格好だね。いつもは見えないのに、今は見えている首筋がとてもエロ…………いやらしいね! 眼福ですありがとうございます。本当、ここにカメラがないことが悔やまれるよ。
そんなアホなことを考えているうちにエル君が目の前にきていた。
「よくやりました」
そういってエル君がほほ笑んで、私の頭をなでる。
「昼間言うのを忘れていたので。では、ゆっくり休んでください」
エル君が部屋から出ていく。
今、エル君に褒められた!? 撫でられた!? え、うそでしょ!? 夢か!?
頭を壁にぶつけたけたらすごく痛かった。夢じゃなかった!!




