十話
暇だ。
初王宮警護の日、私は手入れの行き届いた庭で空を見上げていた。垣根が多く、少しばかり見晴らしの悪い庭だが、その垣根や生息している木々、花々は丁寧に手入れされていて、見事なものだ。
そんな庭がある王宮は本当に平和だった。門などには衛兵が立っているし、私たちは見回りをしているように言われた。暇だ。天気もいいしここで昼寝していたい。しかし万が一何かあったときは真っ先に現場へ行かなければいけないので寝れない。
さて、次は中の見回りだったな。っていうかボッチつらい。なんで単独行動なんだ。私を単独行動させるなんてエル君は私を信用しすぎじゃなかろうか。こちとら祖父お墨付きの馬鹿だぞ。誰かにあったら確実に粗相する。……あぁ、だから仕事の直前、エル君たちに注意事項を耳にタコをできるほど言われたのか。
「確か、姿勢はよくして、落ち着いて行動。何かあったら無線で指示を仰ぐこと。それから…………なんだっけ」
やばいぞ。絶対あと何個か注意されていたはずなのに、もう忘れた。まだ昼にもなっていないのに。私の頭は私の予想よりはるかに馬鹿だった。
まぁ、何とかなるよね。うん。
なんとか気を持ち直して、また前へ進む。それにしても、この庭本当にすごいなぁ。誰が手入れしてるんだろ。いや、庭師ですよね。知ってる。きっとガタイのいいおっちゃんとかが手入れしてるんだ。それかおじいちゃん。
そんなくだらないことを考えていると、庭の奥の方、死角になっている方からガサゴソと音がした。庭師の方かな。それにしてははさみの音も何も聞こえないけど。
いささか怪しい感じがするので確認だけしようと音の方へと足を進める。庭師の人だったら挨拶しよう。
近づいていくと小さなうなり声が聞こえてきた。子供の声、かな。
迷子でもいるのか、と少しだけ足を速める。この庭ひっろいな!!!
音のする場所の近くまで来ると子供の唸り声と布が擦れる音、それから小さな大人の声。何やら様子がおかしいので気配を消して近づく。垣根を一つ挟んだ向こう側に人の気配がある、というところで足を止める。
「おい、早くしろ」
「わかってる」
そんな男の小声と、子供の唸り声。隙間から覗けば、王宮にふさわしくない格好をした男が二人。それから子供一人くらいならすっぽり入りそうな麻袋が一つ。明らかに不審者ですありがとうございます。そしてその麻袋の中身は子供ですね。急いで口をふさごうとしてんじゃないよ。
気配を殺したまま、移動して、垣根の向こう側へと移動する。男の一人が私に気が付いた。うん。やっぱり相手は二人だけ。麻袋はごそごそ動いてるから、中身は人間だろう。そうでなくても生き物だ。王宮には珍しい生き物もいる。
「こんにちは。いきなりで申し訳ありませんが、お名前をお伺いしても?」
笑顔でそう尋ねた瞬間、二人は袋をもって逃走を図る。魔法が使えるのか、スタートダッシュが凄まじい勢いだった。
「逃げないでもらえますかね」
しかし魔法具は持っていないらしい。それ以降は普通の足の速さ。むしろ大きな荷物を持っている分遅いくらいだ。私は全力で走り、そのまま飛んで、荷物を持っている男の背中に飛び蹴りをかます。その衝撃で男が荷物から手を離したのでその荷物をキャッチする。ついでに近くで驚いた顔をしていた男の鳩尾を一発殴っておく。ちなみに荷物を持ってた方の男は今私の足の下にいる。
「よし」
二人の男が気絶したのを確認してから荷物を降ろし、口を縛っている紐をほどいた。ずいぶんと固く縛られていた。
「…………大丈夫ですか?」
「気持ち悪い……」
麻袋の中にいたのは第三王子だった。




