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第3章ー11

 この後のジョルジョ・ペルラスカの運命を手短に語る。


 ペルラスカは、この時の行動について、ずっと沈黙を守り続けた。

 本人曰く、

「何で語る必要があるのだ。当然のことをしただけだ」

 という理由からだった。


 一方、この時のスペイン大使館の行動により、ハンガリーからの出国に成功した多くのユダヤ人は、事の真相(スペイン政府の命令に背いていたこと)を知った後、ペルラスカを命の恩人として探し求めた。

 50年近い捜索の後、ようやくペルラスカは見いだされ、世界に名を知られることになったが、その4年後にペルラスカは亡くなり、イスラエルは「諸国民の中の正義の人」に彼を選んでその恩に報いた。


 話を戻す。

 アラン・ダヴー大尉とフリアン曹長は、ペルラスカと別れた後、ウィーンでハンガリーのユダヤ人の出国について、フランス軍上層部に報告書を作成して提出した。

 そして、そこでハンガリーを出国してスペインに向かった後のユダヤ人の運命について、二人は聞かされた。


「それは本当なのですか」

「ああ、本当だ。スペインに入国したユダヤ人はほとんどがパレスチナに向かわされたらしい」

 報告書を受け取った上官の言葉が信じられない余り、フリアン曹長は沈黙し、ダヴー大尉は思わず言葉を荒げて問いただしていた。


「内戦の傷がスペインでは癒えていないのは、君も知っているだろう。だからスペインでユダヤ人を養う余裕はないということだ。その一方で、パレスチナをユダヤ人の手に取り返そうというシオニズム運動は、ナチスドイツやハンガリーでの迫害もあって強まるばかりだ。その二つが結びついたら、どうなるか、君達の頭脳なら自明の理ではないかね」

「それは」

 上官の言葉を聞いたダヴー大尉とフリアン曹長は顔を見合せたまま、沈黙してしまった。


 二人は想いを巡らせた。

 スペインとしてはユダヤ人の難民に速やかに国外に出てほしい、シオニズム運動の推進者達は少しでもユダヤ人の移民をパレスチナに向かわせたい。

 そして、着の身着のままでユダヤ人の難民が向かえる場所となると。

 二人は暗澹とした想いのまま、スペインに向かうしかなかった。


 さて、その頃のスペインのバレンシアでは。

「全く気に食わないけど、希望者は受け入れますよ」

 カサンドラ・ハポンは半ば悪態をついていた。

「悪いな。精々厚遇してくれ」

 ユニオンコルスの人間はそう言って、連れてきた若い女性3人をハポンに引き渡して去って行った。


「全く。スペイン語もろくに話せないのに稼げるものかね」

 ハポンはそう言うと、若い女性3人に向かい、身振り手振りを交えて指示を与えた。

「青師団に志願している若者の相手をしてくれ」

 女性2人は何となくわかったらしいが、1人はすぐに分からなかったようだ。

 だが、他の女性2人がその1人に説明し、それぞれの部屋に向かって行った。


 ハポンは溜息を吐くしかなかった。

 青師団に志願した若い男性の慰問に、自分の経営する娼館の娼婦が駆り出されている。

 勿論、その費用は軍なり、市当局なりが持ってくれるので、自分からすればトラブルなく金が入るボロい商売ではあった。

 だが、そのために集められた女性と言うのは。


 かつての共和派支持者の女性が身を落としたというのもある。

(元国民派の自分にしてみれば、同情するどころか、当然の報いだった。)

 また、この世界大戦の大渦に呑まれた末に、外国からここまで流れ着いた女性までいる。

 先程の女性3人は、連れてきたユニオンコルスの人間によれば、西スラブ系の民族出身で独軍の娼婦に強制的にさせられ、それを恥じて故郷を捨てたとのことだった。

「ああ嫌な話だ。身につまされるよ」

 ハポンは、そう吐き捨てるように小声で独り言を言った。

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