第2章ー13
それを支援する海空戦力も史上空前の規模だった。
戦艦だけで30隻を超え、海上の重要戦力と認められた空母も同様に20隻を超えている。
それに言うまでもなく、それを支援する巡洋艦や駆逐艦等が加わることになる。
また、艦上機、水上機を含めての数字になるが、軍用機も約3万機を超えようとしていた。
これほどの規模の侵攻作戦は、人類史上最大としか言いようが無かった。
だが、裏返せば、これだけの戦力を整えて、尚且つ維持しようとすると、幾ら米を始めとする連合国の国力を振り絞っても困難なのは否定できない話だった。
そして、正面戦力が劣勢だった場合、後方かく乱で対処するのは軍事史において常識である。
ソ連には民主ドイツという味方があり、更にドイツ民族に対する迫害が欧州で巻き起ころうとしている以上は、ソ連は欧州にいるドイツ民族に抵抗運動を呼びかけるだろう。
その危険を避けるためには、どうするのが最善か。
ペタン首相にも、土方勇志伯爵の言いたいことが、徐々に染み渡ってきた。
「成程、私にナポレオン1世の愚行をしてはならない、と言いたい訳ですな」
「そうです。ロシア遠征に伴う過大な負担は、欧州に仏に対する反感を高め、仏を崩壊させました。あのようなことを避けるべきではないでしょうか。それに、卑俗な言葉を敢えて使いますが、ひな鳥ではろくに腹の足しになりません、大きくなった鳥だからこそ腹の足しになるのです。ひな鳥を食べては、親鳥からも恨まれますよ」
土方伯爵は懸命に説いた。
「確かにお言葉には一理あります。では、独をそれなりに安定させる方策はあるのですか。それなくしては、私も他の閣僚等を説得できません」
「私の考えは、次のようなものです。独全土を速やかに間接統治下に移行します。そして、軍需工場の再開を認めるのです。それで、バーター取引により、独を復興させます」
「それは」
土方伯爵の考えは、ペタン首相にしてみれば、思いもよらない奇策で、一瞬、絶句させた。
今後、独の脅威を永久に無くすために、独の完全非武装化を求める仏国民の声は強い。
それに真っ向から反する方策ではないか。
とは言え、土方伯爵も考え無しにそんなことを言った訳ではない。
特使団で知恵を絞った末、これが一番、無難な方策ではないか、という考えで特使団の多数意見が一致したのである。
「独の軍事産業を仏に保護しろ、ということですか。とても呑めません」
「違います。あくまでも一時的な移行期間を設け、その間だけ認めるという事です。いきなり、軍事産業を民間部門に転用させるにしても、すぐには転用できません。また、その間に独の人々の働く場所を確保せねばならないと私は考えるのです」
ペタン首相の非難するような口ぶりに、懸命に土方伯爵は反論した。
「それに、対ソ戦においては大量の兵器が必要です。後方警備にも兵器が必要なのです。独にもそれを作らせるべきです」
「確かに」
苦い毒をあおらされているかのような口ぶりで、ペタン首相は土方伯爵の言葉に一部の道理があることを認めざるを得なかった。
「そして、独で生産された兵器と外国からの輸入食料を基本的にバーター取引で独の国民に渡します。それによって、独の食糧事情の改善も図るのです。更にこれにはもう一つの利点があります」
土方伯爵は思わせぶりに言った。
「どんな利点でしょうか」
ペタン首相は問いかけた。
「ポーランドやチェコスロヴァキア領内から追放されてきたドイツ民族の人に対し、職を与えることになるという事です。少なくとも彼らにとって希望が持てます」
「確かに」
独本国に行けば仕事がある。
それを想えば独本国への移住を東欧に住むドイツ民族もしやすくなるだろう。
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