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第2章ー10

 その後、趙襄子は智氏と不和になり、智魏韓の三氏連合軍に攻められることになった。

 その際に趙襄子は父の遺言に従い、晋陽に籠城して抗戦した。

 3年に及ぶ水攻めにより、晋陽の民は我が子を殺すのに忍びず、子を取り換えて食べる惨状に至ったが、先代からの保障のことから、民は趙襄子を裏切らずに抗戦を続けた。

 趙襄子はこのような民の現状に鑑みて、降伏を検討するようになったが、張孟談の言葉を入れ、一縷の望みを託して魏韓の両氏の寝返りを働きかけて、両氏を寝返らせることに成功し、逆に勝利を掴んだ。


 千恵子は暗にその故事を引用することで、義祖父に対して、独の人民の安定を図り、それによって後代の安心を図るべきだという事を進言していた。

 土方伯爵も義理の孫娘の言いたいことを察した。


「先の世界大戦の際に締結されたヴェルサイユ条約は、独を繭糸にしたようなものです。あの時に保障で行動していれば、今回の世界大戦は上手くいけば起きなかったのではないでしょうか。今回の世界大戦では、その反省を生かすべきだと思います」

 千恵子は義祖父を説得するかのように更に語った。


「戦時賠償を独にさせようにも、ある程度は独が復興して、独に支払能力があるようにしてからではないと、お互いに不満を高めるだけになります。独は支払え、と言われても先立つものが無い。賠償を受け取る側も何故に支払ってくれないと。今の独は自国通貨に信用が無く、タバコ等が通貨代わりに使われる惨状です。日本からついてきた官僚も、こんな状態ではまともな収税ができない、と口々に言っています。独の復興をまずは考えるべきです」

 千恵子は更に言った。


「それに私のエゴと言われそうですが、これ以上、戦争で家族を失うことに私は怯えたくないんです。父は先の世界大戦の際にヴェルダンの土になりました。夫や義父、弟は今も世界大戦で出征しています。この世界大戦が終わったら平和な中で暮らしたいんです。子どものためにも。これは多くの世界の人々の願いではないでしょうか」

 千恵子は義祖父を懸命に説得するかのように話した。


「うむ。そうだな。ところで、千恵子、話を変えるが、欧州で初めてお前が食べる野菜があるのに気づいているか」

「ええ、見慣れないカブに似た野菜があるのには気づきましたが」

 土方伯爵は、千恵子にいきなり違う話を始めた。


「あれはな。ルタバカという野菜だ。西洋カブともいう」

 土方伯爵は、少し遠くを見やりながら更に言った。

「わしが子どもの頃にいた屯田兵村では、家畜の飼料だった」

 千恵子は愕然とした。


「所変われば、というところで、ここ欧州、それも北の辺りでは普通に人も食べるものだ。だが」

 そこで、土方伯爵は言葉を切って、少し躊躇いながら言葉を続けた。

「基本的にいよいよという際に食べる物で余り人が食べる物ではない。特にここドイツでは先の世界大戦の食糧難を思い出させるという点でも不人気な食べ物だ。今日、農水省から派遣された人間が、食糧状況についての簡易報告をまとめて出してきたが、その中で指摘していた。ルタバガに主食をまた頼る状況にドイツは陥りかねないとな」

 千恵子は、義祖父の言葉に、ドイツの状況の厳しさをあらためて骨身に感じた。


「わしも中国の言葉を引用させてもらおうか。恒産無くして恒心無し。渇しても盗泉の水を飲まず、と言う言葉もあるが、それは自らを律する言葉で、普通の人間に求めることではない」

 土方伯爵は千恵子にそう言った。

「ドイツの国民が普通に暮らせるようにまずせねばならない。そうしないと、どうせ死ぬのなら、と民主ドイツ支持者を増やし、敵を増やすことになる」

 義祖父の言葉は、千恵子の心の奥底に響いた。

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