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第6章ー29

 ちなみにカニンガム提督が、ここスカパ・フローに集めたのは、戦艦15隻を主力とする英海軍の総力を挙げたものといってよい艦隊だった。

 英海軍の最新鋭戦艦、キング・ジョージ5世級戦艦4隻がここに集っている。

 この場にいない英海軍の(巡洋)戦艦は、レナウン級2隻だけだった。

 レナウン級は、電探の改良、対空砲火の強化等の改装の為に、入渠中だったのだ。


 それに対して、日本海軍は、高雄級戦艦2隻を除く8隻の戦艦、大和級戦艦2隻、扶桑級戦艦2隻、金剛級戦艦4隻をこの場に派遣していた。

 なお、高雄級戦艦2隻を、この場に日本海軍が派遣していないのは、大和級戦艦の就役に伴い、入れ替わるように高雄級戦艦の電探の改良、対空砲火の強化の為の改装が行われることになったためだった。


 そんなことは、間もなく始まる対ソ欧州本土侵攻作戦に伴うバルト海沿岸への上陸作戦を済ませた後に行えばよい、と言われそうだが、何しろ日本から欧州へと派遣されるのだ。

 往復するだけで、約4か月は掛かるとみなければならない。

 そして、高雄級戦艦は就役以来、上陸作戦時に艦砲射撃の支援を行う等、容赦なくこき使われていたために完全なオーヴァーホールが必要である、と技術士官の多くが判断する有様となっていた。


 そうしたことから、高雄級戦艦の欧州派遣は遅れることになったのだ。

 ちなみに、高雄級戦艦を護衛する必要から、軽巡洋艦「酒匂」を旗艦とする第3水雷戦隊の欧州派遣も見送られる羽目になっている。

 そのために。


「シンデレラのように、酒匂の乗組員が拗ねそうだな。この軍艦達の晴れの舞台、史上最大の観艦式といえるこの場に、阿賀野、能代、矢矧の3隻がいるのに、酒匂だけがいないのだから」

 第二水雷戦隊司令官の木村昌福提督は、周囲に集っている各国の艦隊を見回しながら言った。


「本当に史上最大の観艦式といっても、過言ではありませんな。戦艦だけで30隻以上が集っている。しかもロンドン軍縮条約が廃棄された後に建造された戦艦で、この場にいないのは高雄級戦艦2隻だけだ。高雄級戦艦2隻もこの場に連れてくるべきでした」

「矢矧」艦長の森下信衛大佐も、そう半ば独り言を言う有様だった。


 実際、ロンドン軍縮条約破棄後に建造された戦艦で、就役済みにも関わらず、この場にいない戦艦は高雄級戦艦2隻だけだった。

 それ以外の全ての戦艦が、この場に集っている。

 そして、各国の空母も、鳳翔等の極一部を除いて、この場に集結している。

 これほどの規模で、各国の戦艦や空母が集うのは、文字通り、空前絶後の話だろう。


 勿論、これだけの規模の大艦隊が、ここスカパ・フローに集結したのは、観艦式のためではなく、来るべき対ソ欧州本土侵攻作戦において行われるバルト海沿岸への上陸作戦支援のためなのだが、実際にこの場に集った各国の海軍軍人の胸の中で様々な思いがよぎるのは、ある意味で当然の事だった。


 そうした中で、多くの軍人の胸の中で去来した想いが。

「この作戦が戦艦の最後の花道になる。戦艦の時代が終わろうとしている」

 という想いだった。


 実際、日本は「武蔵」で戦艦建造を終えることになっていた。

 米もアイオワ級戦艦、英もライオン級戦艦で戦艦の建造を事実上終了しようとしている。

 第二次世界大戦において、各国の海軍は空母や艦載機の増勢を図らねばならなくなっている。

 そうした事情から、他の国でも戦艦の建造を終了させようという動きが強まっているのだ。


 大和級戦艦をこの場で見た各国の海軍軍人の多くが心の中で想った。

「おそらく大和級戦艦が、史上最大の戦艦として歴史に名を遺すことになるだろう。その姿をこの目で見られて、本当に今生の思い出ができたものだ」

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