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第6章ー20

 散々悩んだ末に、土方歳一大佐は、まずアイゼンハワー将軍の説得から行うことにした。

 まず、トップが合意すれば、下も従わねば、という雰囲気が醸し出されるはずだ。


 アイゼンハワー将軍の説得は、土方大佐の予想よりも容易だった。

 アイゼンハワー将軍の最大の美点は、各国軍の間の調整能力の高さにある。

 そして、土方大佐が北白川宮成久王大将の支持を得て提案した各国軍を分けての連合国軍の各軍集団の編制は、アイゼンハワー将軍自身の調整能力に基づいて導き出された腹積もりとかなりの部分で合致していた。

「その日本の提案で、各国軍の調整を図ってくれたまえ」

 最終的にアイゼンハワー将軍は、そのように土方大佐の提案を後押しまでしてくれた。


 その後で行われた各国軍への対処は、それなりに難航するものになった。

 各国軍なりの論理、感情論が噴出したからだ。

 それに各国の軍が、どこまで前面に立ちたがるか、という問題もある。

 例えば、半ば無理やりソ連欧州本土への侵攻作戦に派兵せざるを得なくなったハンガリー軍に至っては、完全に後方警備にしか出ないと主張する有様だった。

(もっとも、米英仏日等も、これまでの対ソ戦への参戦に至った経緯から、ハンガリー軍については、本音では人質としか考えていなかった。)


 意外と積極的なのが、伊軍(というよりムッソリーニ)だったが。

 これは、後から連合国として火事場泥棒的に参戦した、と他の連合国諸国に見られている引け目から来る反動だ、というのが、他の国々の政府、軍上層部にも分かっていた。

 それに先の世界大戦でのカポレットの失態や、今回の世界大戦でも中々、ウィーン方面への侵攻作戦が上手くいかず、仏軍の支援を仰ぐ羽目になったという事実がある。


 口の悪い石原莞爾参謀長やパットン第3軍司令官には、

「伊軍が先鋒を務める?任せたがる他国軍の司令官がいるものか」

 と半ば公然と言われる始末で、対ソ連欧州本土侵攻作戦において、引き続き総司令官を務めることになったグラツィアーニ将軍自身も、

「伊軍が先鋒を務めるというのは困難ですな」

 と自認してしまう有様だった。

 

 他の国も、それぞれの事情から、積極的な国と消極的な国に分かれた。

 例えば、ポーランド軍は、かつての19世紀のナポレオンのロシア遠征や17世紀のロシア・ポーランド戦争の時のようにモスクワを目指すのに積極的だった。

 その一方、オランダ軍やベルギー軍は、遥々とソ連欧州本土へと侵攻することに消極的だった。

 この2か国にしてみれば、もう第二次世界大戦を終わらせる時が来ていたのだ。


 とは言え、アイゼンハワー将軍が内諾した以上、米が日本の提案の後押しをしてくれるようになったという事実は大きかった。

 どの国も、長引く第二次世界大戦の戦禍によって疲弊しており、多かれ少なかれ、米の援助に頼むところが大きくなっていたのである。

 従って、米の意向であることをちらつかさられては、面と向かっての拒否は、どの国にとっても、どうしてもやり難い。


 最終的に少々異同はあったが、基本的に日本の原案に基づいて、対ソ欧州本土侵攻作戦の3つの軍集団は編制されることになった。

 そして、各軍集団は、更に各国の部隊をすり合わせての対ソ欧州本土侵攻作戦の細部を突き詰めていくことになった。

 更にそれに対応して、各国の部隊の移動が始まった。

 その中には、スペインの青軍団の姿もあり、その中には、アラン・ダヴー少佐の姿もあった。


「戦時における臨時昇進とはいえ」

 ダヴー少佐は、何とも面映ゆい想いをしていた。

 20代半ばでの佐官等、連合国軍全体でも数える程しかいないだろう。

 精一杯、スペインの為に頑張らねば、ダヴー少佐はそう内心で堅く誓った。

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