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【WEB版】身代わりで縁談に参加した愚妹の私、隣国の王子様に見初められました【書籍化・コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部後編

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33.午後のティーパーティー

「ありがとう」

 

 玉座の間からの帰り道、ふいに少し前をあるく殿下がぼそりと呟いた。

 私は何のこと、と首を傾げる。

 殿下は振り返らず、その続きを話す。


「父上の質問に答えてくれたこと、改めてお礼を言いたかったんだ」

「私はただ、心に思ったことをお答えしただけです」


 お礼なんて言ってもらう必要なんてない。

 むしろ感謝ばかりしているのは私のほうで、少しでもこの気持ちをお返しできればといつも思っている。

 どんな理由であれ、殿下の役に立てるのなら、私の心は迷わないだろう。


「だからこそ嬉しかった」

「殿下?」

「俺の眼は眼帯越しでも感情が見える。君が……本心からそう思ってくれているのが伝わった。だから……ありがとう」

「殿下……」


 殿下は私の前を歩いていて、まっすぐ前を向いたまま話していた。

 一度も振り向かない。

 どんな顔をされているのか気になったけど、覗き込むのは失礼だと思って控えた。

 嬉しそうにしてくれていたら、私も幸せだ。

 いつか、今の言葉をまっすぐに向き合いながらかけてもらいたい。

 そうしてもらえるように、殿下の信頼を少しずつ勝ち取って行こうと思う。


  ◇◇◇


 陛下との顔合わせから一週間。

 今日は殿下と二人で、午後にお茶会をすることになっていた。

 前々からしたいと話していて、ようやく予定が空いた。

 殿下はお忙しいから、午後のひと時を一緒に、のんびり過ごすことも貴重な時間だ。

 私はキッチンで仕度を済ませる。 


「手伝ってくれてありがとう、ニーナ。おかげで上手くできたよ」

「いえ、私は指示に従ったまでです。アストレア様の手際のよさには、改めて感服いたします」

「ありがとう」


 お願いしたことにテキパキ反応して動いていたニーナに比べたら、私の手際なんて遅い方だと思うけど。

 ここは素直に言葉を受け取ればいい。

 少しずつ、褒められた時にどうすればいいのかわかるようになってきた。

 ニーナと一緒に淹れた紅茶と、上手に焼き上げたクッキーを盛りつけ、プレートに乗せる。


「私がお運びいたします」


 ニーナに運んでもらい、庭にあるテラスへと向かった。

 眠れなかった夜に、殿下と二人で語り合った思い出の場所だ。

 昼間に訪れるのは今回が初めてで、なんだか新鮮な気分になる。

 ニーナがプレートを置き、お茶とお菓子を並べてプレートを下げる。


「では、私はこれで失礼いたします。屋敷におりますので、何かあれば呼んでください」

「ありがとう。でもよかったの? せっかくだからニーナも一緒に」

「いえ、ここから先はお二人のお時間です」


 ニーナは首を横に振った。


「お気持ちはとても嬉しいです。どうか存分にお楽しみください」

「……うん、ありがとう」

「はい。では失礼いたします」


 彼女は丁寧にお辞儀をして、屋敷のほうへと去って行く。

 この屋敷に来て、彼女と過ごす時間が一番多くなり、少しずつ会話にぎこちなさもなくなってきた。

 彼女はいつも私に敬意を表し、丁寧に接してくれる。

 仕事だからだとしても、私は嬉しかったし、もっと仲良くなりたいと思った。

 小さな気遣いに感謝しながら、次は彼女も一緒にお茶会をしたいと心に思い、説得する方法を考える。

 すると入れ替わりで、足音が近づく。


「待たせてしまったかな」

「殿下、いえ、私もつい先ほど来たばかりです」

「そうか。ならよかった」


 まるで恋人同士みたいな待ち合わせのセリフを交わす。

 私たちはテラスの椅子に腰かけ、向かい合う。


「これもアストレアが作ってくれたのか?」

「はい。ニーナに手伝ってもらいながらですが、上手く焼けました」

「美味しそうだな。さっそく一つ頂いてもいいか?」

「はい」


 緊張の瞬間だ。

 殿下は盛りつけられたクッキーを手に取り、口へ運ぶ。

 サクッと音がして、反応を待つ。


「美味しい」


 その言葉を聞いてホッとする。

 自分では上手く焼けたと思って、味見もしていた。

 ニーナも大丈夫だと言ってくれていたけど、こうして直に声を聞くまでは少し不安だった。

 不安は一瞬で消えてなくなり、清々しい風が私たちの間を吹き抜ける。


「今日は風が気持ちいな」

「そうですね。お天気もいいです」


 他愛ない会話をしながら、殿下は紅茶を一口飲む。


「これも美味しい。すっきりする味だな」

「紅茶にハーブを二種類混ぜています。最近は少し冷える日が続いたので、身体が芯から温まる効果があるんです」

「そうか。だから温かいのか」


 ほんのり殿下の頬が赤くなる。

 いつもより幸せそうな微笑みに、思わずドキッとする。

 紅茶の効果でしかないけど、まるで私を見てドキドキしてくれているように見えて。


「気に入っていただけたなら嬉しいです」

「――ああ、また飲みたいと思える」

「言って頂ければいつでもお淹れいたします」


 思わず自然に笑みがこぼれる。

 殿下と婚約して、この屋敷に来て、私は少しずつ自然に笑えるようになっていた。

 その変化に自分でも気づく。

 気持ちが晴れやかになると、言葉や表情も明るくなるのだと知った。

 今までずっと、私の心には雨が降っていたのだろうか。

 今は雲が消え、この綺麗な青空のように澄み渡っている。

 最高に幸せで、こんな時間がずっと続けばいいのにと、私は期待する。

【作者からのお願い】

『無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい』ノベル第一巻が本日に発売されます!

改稿を重ね、新エピソードも書下ろし、より一層面白くなっておりますので、ぜひぜひお手にとってくれると嬉しいです!

ページ下部の画像から見られますのでぜひ!


よろしくお願いします!!

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『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

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