表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】身代わりで縁談に参加した愚妹の私、隣国の王子様に見初められました【書籍化・コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部前編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/46

19.やっと聞けた

 夜になり、屋敷の中は静けさに包まれる。

 明かりも消して、私はベッドで布団の中に潜る。

 目を閉じてじっと呼吸音を聞く。


「……眠れない」


 なんだか目が冴えてしまって一向に眠気が来ない。

 長旅の疲れは確かに感じていて、お風呂上りは眠気が押し寄せてきたのに。

 いざ布団に入ると、パッチリ意識が覚醒してしまった。

 慣れない布団、環境だからだろうか。

 今日までの出来事を思い出し、考える度に頭が冴えわたる。


「散歩でもしようかな」


 このままじっと待っていても眠れない。

 そう考えた私は、ゆっくりとベッドから起き上がる。

 外は暗く、皆が寝静まっている時間だ。

 殿下にはこの屋敷の周辺なら自由に行き来しても構わないと許しを貰っている。

 なるべく静かに、皆を起こさないように私は部屋を出た。

 廊下は長く、誰もいないせいで少し不気味だった。

 私は覚えたての記憶を頼りに、玄関までたどり着き、外へ出る。

 遠くへ行くつもりはない。

 中庭に白いテラスが部屋から見えた。

 向かっているのはそこだ。

 すぐにたどり着き、白い椅子に腰を下ろす。


「風が気持ちいい」


 夜風はほどよく冷たくて、目を瞑ると程よく眠気が来る。

 ここなら眠れそう。

 なんてことを思っていたら、後ろから声をかけられる。


「こんな場所で寝たら風邪を引いてしまうぞ」

「殿下!」


 ビックリして私は目を開け、椅子から飛び上がる。

 それに殿下も驚きたじろぐ。


「そ、そこまで驚かれるとは予想外だったな」

「す、すみません! 勝手に抜け出してしまって」

「いやいいよ。ここは屋敷の敷地内だ。自由にしてくれていいと言ったのは俺だからな」


 そう言いながら殿下は反対側の椅子に腰かける。

 私も改めて椅子に座り、殿下と向かい合う。


「眠れなかったんだろ?」

「はい」

「だと思った。初めての場所で緊張すると、疲れていても眠れないことはあるよな」

「殿下もそういうことがあるんですか?」


 もちろん、と殿下は頷く。

 どうやら私が部屋から出ていくのが、音が聞こえてわかったらしい。

 殿下も起きていたから、気になって後をつけてきたそうだ。


「もう少し配慮すべきだったな。緊張がほぐれる方法はたくさんあったのに」

「いえ、十分でした。これ以上よくしていただくなんて、かえって申し訳なくて……」

「そんな風に考えなくていい。ここはもう君の家なんだ」

「私の……」


 ウィンドロール家、私の生まれた場所ですら、自分の居場所だとは思わなかった。

 あの場所は私にとって、広い牢獄のようなもので。

 くつろげる時間は限られていた。

 いつでも帰りたい。

 そう思える場所が我が家だとすれば、私には帰る家がない。

 ここがそうなってくれるのだろうか。


「今のうちに聞きたいことがあったら聞いてもいいぞ」

「え?」

「眠れない理由は緊張だけじゃなくて、疑問に感じたことがあるからじゃないか?」

「それは……」


 図星だった。

 考え事が頭に浮かぶと、余計に眠れなくなる。

 私はこの屋敷に、ある違和感を覚えていた。

 ただ、聞いてもいいのか迷っていた。

 そんな私に、殿下の視線が訴えかけてくる。

 構わない、と。


「どうして……殿下はこの屋敷で生活されているのですか?」

 

 私は勇気を出して尋ねてみた。

 すると殿下は優しく微笑み。


「やっと聞いてくれたな」


 と呟いた。

 殿下は待っていてくれたらしい。 

 私が疑問を口にするのを。


「アストレアはこの屋敷がどう見えた?」

「広くて、素敵な屋敷だと思います」

「ありがとう。でも、こう思ったんじゃないか? 広さに対して人が少ない」

「……はい」


 屋敷を案内してもらっている中で、密かに疑問に思っていた。

 使用人の数が極端に少ない。

 メイドや執事が、屋敷を歩いていても数名しかすれ違わなかった。

 この広さの屋敷に対して、しかも王族が住まうのならば不自然すぎる。


「必要ないんだよ。ここに住んでいるのは俺一人だからな」

「一人で……いつからですか?」

「十歳の頃からだ。父上たちは変わらず王城で生活している。先に言っておくけど、別に仲が悪くて逃げたわけじゃないからな?」

「は、はい。疑っておりません」


 ちょっぴり嘘をつく。

 もしかして、自分と同じなのかと思ってしまった。

 聡明な殿下は気づいているだろう。

 突っ込まないのは殿下の優しさだと思おう。


「家族の仲は今も悪くない。ただ、二人とも王国のことを第一に考えている。常に、どうすれば王国の発展に繋がるか。そのためならあらゆる手段を惜しまない」


 語りながら左目の眼帯に触れる。

 なんとなく、この時点で察する。


「二人にとってこの眼は特別だ。有効に使いたいと思うし、その理屈は理解できる。それでも家族としての愛情も向けてくれるから我慢できた。でもダメだ。それ以外の人間は違う。あの場所は……よくない感情が渦巻いている」

「殿下……」

「貴族っていうのは少なからず野心家が多い。俺を見る目の奥に隠れた真実、感情がわかってしまう。だから怖くなったんだ。見え過ぎてしまう目で、彼らの奥を見たくなかった」


 そうして、殿下は一人で生活する道を選んだ。

 他人と距離を置き、今以上に人間を嫌いにならないように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://book1.adouzi.eu.org/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ