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【WEB版】身代わりで縁談に参加した愚妹の私、隣国の王子様に見初められました【書籍化・コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部前編

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15.一緒に暮らそう

 最近は自室に道具を持ち込み、新薬の研究をすることにした。

 入り口は使用人の方が守ってくれている。

 さすがのお姉様も、あからさまに他人の眼がある場面で何かをしかけたりはしない。

 唯一安心できるこの場所で、少しでも気を紛らわせる。

 新薬の研究をしている時は集中できて、嫌なこともわずかに考えなくなる。

 それだけじゃない。

 殿下との婚約をきっかけに、私に対する対応は変わった。

 だから、これから発明する新薬はちゃんと私の功績として発表されるはずだ。

 そうなれば、お姉様じゃなくて私にも誇れるものができる。

 殿下の婚約者として恥じないように、私にも自慢できる何かがあると示したかった。


「凄いな……本当に」


 身体が勝手に動くようだ。

 殿下のために、そう思うと不思議と勇気が湧いてくる。

 私のことを唯一認めてくれた人。

 彼に恥をかいてほしくない。

 私を選んだことを、間違いだと思わせたくない。

 その一心で、それだけで頑張れる。

 たとえあと何日、何週間待つことになろうとも。

 私は殿下を疑わない。

 殿下はもう一度会いに来ると言ってくれた。

 その言葉を信じて、私は今日も――


「――!」


 今、かすかに音がした。

 窓は気分をよくするために開いている。

 心地いい風と共に、馬が地面を蹴り、車輪が石に当たって揺れる音がした。

 私は窓の外を見る。

 そして――

 一人走り出し、部屋を抜け出す。


「アストレア様!?」


 慌てて使用人も追いかけてくる。

 私はそんなことに構うことなく玄関へと向かった。

 廊下でお姉様とすれ違う。


「あらアストレア、廊下を走るなんてはしたな――」


 無視をした。

 というより、お姉様の反応なんてどうでもよかった。

 この後もっと嫌がらせがひどくなるかもとか。

 そういう後ろ向きなことは一切考えない。

 今はただ、一秒でも早く会いたかった。

 私は玄関にたどり着き、扉をノックされる前にこちらから開ける。


「殿下」

「――! アストレア」


 扉の前にはシルバート殿下の姿があった。

 安心して、肩の力が抜ける。

 窓からベスティリア王国の紋章が入った馬車が見えて、居ても立っても居られなくて。

 気づけば呼吸を乱しながら、殿下を出迎えていた。


「驚いたな。出迎えに来てくれたのか?」

「は、はい。御迷惑、でしたか?」

「そんなことあるわけないだろ。嬉しいよ、ちゃんと」


 よかった。

 何も考えずに飛び出して、殿下の驚く表情を見て冷静になった。

 とても失礼なことをしてしまったと。

 けれど殿下は気にする様子などなく、優しく微笑んでくれた。


「また待たせてしまってすまなかったな。大変だっただろ?」

「いえ、そんな……」


 大変でした、とは言い難い。

 私は言葉を濁らせる。

 すると殿下は、少し呆れたような表情で言う。


「我慢しすぎるなと言ってあっただろう? 大変なことくらい俺もわかっていたことだ。誤魔化さなくてもいい。俺に嘘は通じないぞ?」


 トントンと、眼帯越しに左目を叩く。

 彼にはどこまで見えているのだろうか。

 

 そこへ遅れて、お父様とお姉様もやってくる。


「シルバート殿下、ようこそお越しくださいました。心より歓迎いたします」

「ああ、ありがとうウィンドロール公爵」


 殿下はお姉様に視線を向ける。

 お姉様はバツが悪そうに目を背けた。

 私にはお姉様が何を考えているのか何となくわかる。

 きっと、心の中で舌打ちをしているはずだ。

 殿下が来なければ、もっと私に嫌がらせを続けられたのに……と。

 お姉様は小さく笑う。

 殿下が再び去った後のことでも考えているのだろうか。

 次は私に、どんな嫌がらせをしようか。

 私が泣いて謝るまで、彼女は止めたりしない。

 この屋敷はもはや、彼女を女王とするお城みたいなものだから。

 考えるだけでゾッとする。


「大丈夫だ。もう我慢の心配はない」

「え?」


 不安に身体を震わせる私の背中を、殿下が優しく支えてくれた。

 目と目が合い、ニコリと微笑む。

 殿下はお父様に視線を向けて、改まって言う。


「ウィンドロール公爵、先に送った公文は読んでくれたか?」

「はい。理解いたしました」

「そうか。ならば話が早い。あとは本人の意思次第だ」

「殿下?」


 二人は何の話をしているのだろう。

 キョトンと首をかしげる私に、お父様と殿下の視線が集まる。

 私が知らないところで、二人は連絡を取り合っていた?

 何のために?

 少しだけ、不安が過る。

 お姉様に何度も煽られた言葉が脳裏に……。


「アストレア、俺と一緒に暮らさないか?」

「――え」


 しかし不安は、一瞬にして消え去った。

 思わぬ一言に驚き、私は口を開けたまま固まる。


「嫌だったか?」

「――ち、違います! 突然のことで驚いていて、一緒にというのは?」

「もちろん、俺の国に来てほしいという意味だ。もう王国と、君の御父上に了承は貰っているんだよ」

「そうだったのですか」


 私はお父様に視線を向ける。

 お父様は小さく頷く。

 二人のやり取りは、この話のための根回しだったようだ。

 お姉様はまったく知らなかったらしい。

 その証拠に、酷く驚きお父様を睨んでいる。


「どういうことですか? 私は聞いていません」

「殿下とアストレアのことだ。お前に伝える必要はないと判断した。殿下からもそう言われている」

「……」


 不服そうにするお姉様だけど、殿下には何も言えず口を閉じる。

 殿下は右手を差し出す。

 

「どうだ? アストレア」

「……いいのですか?」

「君次第だと言っただろう? 俺はそのつもりで迎えに来たんだよ。なぁ、アストレア、君はここにいて幸せか?」

「……それは――」

 

 以前にも似たような質問をされたことを思い出す。

 私は今、幸せかどうか。

 その質問に、私は首を横に振った。

 今回も同じだ。

 だから私は、殿下の手を取ることを迷わない。


「一緒にいかせてください。殿下の国へ」

「ああ。とびきりの幸せを感じられるように、俺が手を引こう」


 ぎゅっと、殿下が私の手を握ってくれる。

 その手は大きく、強く、温かい。


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