負けるな! ドングリ号11
やがて前方に土砂が見えてきた。
が、今度は止まらなかった。ドングリ号は速度を下げ、そのまま進み続けた。
土砂が迫り来る。
「ぶつかるぞ! 頭をかかえて座席で伏せるんやー」
元作さんが窓から顔を引っ込めて叫ぶ。
「みんなー、元作ん言うとおりにするんやー」
お夏さんも叫んだ。
全員、頭を両手でかかえて座席に顔を伏せた。
最後に元作さんも窓を閉め、顔を伏せて車窓に目をやった。
トンネルの内壁がゆっくり後方に流れている。ドングリ号がスピードを落とし、前進し続けていることがわかった。
「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
スナばあが手の平をこすり合わせながら、口の中でブツブツとしきりに唱えている。
「ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
鶴じいもスナばあのマネを始めた。
喜八さんとミツさんは顔を伏せながらも見つめ合って、じっと互いの手を取り合っている。
「あんた、じっとしちょらんか」
徳治さんがしきりに立ち上がろうとするのを、トキさんは腕をつかんで必死に押さえつけていた。
「吉蔵、すまんな。オマエん墓、建てちゃれんで」
「そんなこつはいい。ただワシが死んだら、タマんヤツが……」
おスミさんと吉蔵の姉弟が話している。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
土砂はすぐ眼の前となったが、ドングリ号の足音は少しも変わらなかった。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ、ゴトッ……。
ドングリ号は止まらなかった。
「元作さん、そろそろやな」
新吉さんが両手で頭をおおう。
「ああ、じきや」
元作さんも窓から目を離し、座席に顔をくっつけて両手で頭をつつんだ。




