走れ! ドングリ号5
「列車ジャックだと?」
駅長がいぶかしげな顔をする。
「はっきりとは申せませんが、その可能性が高いということであります」
「列車ジャックなら、相手からなんらかの要求があるはずだ。で、それはあったのか?」
「いえ、まだなにも」
「なら、なぜ列車ジャックだと? 故障による事故ではないのか」
「走っているのは、あの列車が走ることのない路線であります。ですのでだれかが運転士を脅迫して、強制的に進入させたのではないかと……」
「このさいどっちでもいい。とにかく暴走を止めることが先決だ。すぐにでも強制的に止めるんだ」
「ご存知のとおり蒸気機関車には、こちらから走行を制御する装置はついておりません」
システム制御の担当者が事務的に答える。
「ふむ」
駅長はくちびるをへの字に曲げると、両手の平を机に思いっきりたたきつけた。
「申しわけありません。かならずや、早急になんとかいたしますので」
室長はペコペコと頭を下げてから、今度は部下である担当者の方に向き直った。
「すぐになんとかするんだ。でないと、そっこくクビだからな!」
「はっ、せいいっぱい努力してみます」
担当者が顔を青くして、あわてて駅長室から飛び出していく。
「クソー」
駅長は吐き捨ててから、ピクピクひくついている室長の鼻づらを指さし、窓ガラスが割れんばかりの大声でどなった。
「たとえ列車ジャックであろうと、事故が発生してみろ。オマエもクビだからなー」
「ゲェー」
首をしめられたニワトリに似た悲鳴をあげ、室長はその場にひっくり返ってしまった。
そのころ。
蒸気機関車は由布院駅を通過し、大分駅までの中間地点を過ぎた天神山駅の近くに来ていた。ここらあたりは標高の高い山間部で、起伏とカーブの多い軌道敷がしばらく続く。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ……。
枕木にリズミカルな振動音を響かせて、ドングリ号はのんびりと走っていた。
ガタッ、ゴトッ、ガタッ……。
いくつかの小さな駅を通り過ぎた。
進むにつれ標高は徐々に下ってゆき、なだらかな平野に近づきつつあることを教えてくれた。
やがて大分川の源流が見えてくる。
大分の町もそれほど遠くない。




