ドングリ号8
公民館の電話が鳴ったのは、それからすぐのことだった。
『おー、新吉か。それでどうやった?』
受話器をにぎりしめているのは、村のリーダー的存在でもある、お夏さんだ。
『心配ねえだって。そりゃあよかったのう。なに、今からそっちに来いだって? そりゃあ、どういうことなんや。……えっ、なんやと? ほんとにドングリ号がか? ……わかった、わかった。みんなにも、そう言えばいいんやな。そんではすぐにでん、こっちを出ることにするわ』
お夏さんは受話器をもどすと……。
そばにほかの者たちを集め、新吉さんから聞いた事のてん末を話して聞かせた。
「そげなことがあるもんかね。キツネにでん、化かされたんとちがうやろうか?」
おスミさんがおかしそうに笑う。
「そやけど新吉んヤツ、ふざけちょるふうにも思えんかったがなあ」
「とにかく行っちみようやないか」
庄太郎さんが立ち上がる。
「行ってみりゃ、わかることやしな」
冬次郎さんは一升ビンをかかえた。
「そうやねえ。ここにじっとしちょってん、ちっともラチがあかんしね」
おスミさんも行く気になったようだ。
「急いでしたくするんや。早よう来いっち、なんかあわてちょるふうやったからな」
お夏さんがみんなを急がせる。
さっそく全員で、散らばっていた酒とツマミ、そして湯呑茶碗とコップをかき集め始めた。
―栗原村住人たちの紹介―
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。
冬次郎さん……妻と死別し、子供が帰省しなくなってからアルコール依存症となる。
庄太郎さん……鉱山のダイナマイトの爆破事故で右手の手首から先を失う。




