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ドングリ号5

「オレ、中に入っちみるけん」

 元作さんが取っ手をつかみ、ドアを横に引いた。

 ところが、ドアはピクリとも動かない。

「鍵、かかったまんまや」

「どういうことなんや?」

「こん鍵、使っちみるわ」

 元作さんはポケットから鍵を取り出し、それをいつものように鍵穴にさし込んだ。

 ガチャッと、錠のはずれる音がする。

「開いたぞ」

 続いてドアを引くと、今度はたやすくガラガラと音を立て開いた。

「とにかく入ってみるわ」

 元作さんが機関室に入ったときだった。

 ブゥオー。

 またも汽笛が鳴る。

「なんもさわっちねえのに鳴ったぞ」

 あわててホームに飛び降りた元作さん。

 どうして汽笛が鳴るんだ?

 そんな問いかけるような目で、新吉さんとミツさんの顔をじっと見つめた。

「なんもせんのに鳴ったんか?」

 新吉さんが確かめるように聞く。

「ああ」

「ほんとにか?」

「ああ、なんもしてねえ」

「そんじゃあ、どうしち?」

 三人がタヌキかキツネでも探すような目で、キョロキョロと構内を見まわしていると……。

 ブゥオー。

 またもや汽笛が鳴る。

「なっ、なんもしてねえのに鳴ったやろ」

 元作さんはあらためてドングリ号を見やった。

「ほんとや、どういうことなんやろ?」

「不思議やのう」

 三人がしきりに首をひねっているところへ、改札口の方から「おーい、おーい」と、吉蔵さんの叫ぶ声がしてきた。

「だいじょうぶかあー」

 ゴンちゃんの声もする。

 二人は構内に足音を響かせながら、元作さんたち三人がいる機関車まで走ってきた。

「来る途中……何度か汽笛の音を聞いたんで、なんかあったんやねえかと……心配しちょったんや」

 吉蔵さんは息のはずむ声でしゃべった。

「改札口から……三人の姿が見えたんで……。とりあえず安心したんやがな」

 ゴンちゃんが両膝に手をつき、肩で息を整えながら構内を見まわす。

「それでゾクんヤツ、逃げちしもうたんか?」

「それがじつに奇妙なんで」

 元作さんは首をかしげてみせ、駅に着いてからのことをこと細かに教えた。

 汽笛が鳴ったこと。

 蒸気を吐き出したたこと。

 客車の明かりが点灯したこと。

 青い光が機関車をつつんでいたこと。

 機関室の中にはだれもいないかったこと。


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