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聖女様になっちゃった日




 真正面から王妃様の魔法を受けてしまい、ボクはその衝撃で立っていられなくなる。


「リーフっ!? リーフ!」


 このままでは床に倒れてしまう危ない所を、誰かが力強く支えて、そのまま抱きかかえられた。


 光が眩しかったのと、急に全身に力が入らなくなって、目を開けられないけど何度も聞いた事があるこの声は、義兄さんの声だったので安心する。


「リーフ! リーフ! おい、しっかりしろっ……! シルビア王妃! アンタ一体リーフに何をしたんだ!」


「あ、危なかったぁー……この魔法、まさか倒れ込む位に衝撃があるだなんて。スコール、助かったわ! ありがとう!」


「危なかったって、アンタがやったんだろ! そ、それに、さっきのリーフが聖女になるって、どういう事なんだ!?」




 義兄さんがボクを抱きしめながら、王妃様を問い詰めている声が聞こえる。


 さっきの魔法は一体何だったんだろうと、ぼんやりとした頭で考えると、同じく尋ねそびれてしまった聖女様の件も気になっていく。


 身体中がじんわりと熱く感じると共に、力が抜けてとても怠くて、義兄さんにお礼を言う事も出来なかった。


「そろそろ魔法が効き始める頃よ。この魔法は女神様が特別にリーフに用意した物だから、滅多にお目にかかれない物なの」


「な、何だよそれ……! ふざけてないで、何をしたのかちゃんと言ってくれよ! リーフはアンタの事を信頼してたんだぞ!」


 義兄さんの抱きしめる力が強くなる。けど、それは何かに驚いたかのように反応したと思ったら、今度は様子がおかしくなる。


 ボク自身も、なにやら身体の感触に違和感があった。後頭部がくすぐったくなり、さっき王妃様に抱きしめられた時のような柔らかさが、身体にまとわり付いて来るような奇妙な物だった。


 怠さも無くなって来たので、ようやく声が出せそうになる。まずは義兄さんにお礼を言ってから、何が起きているのか確認しなければ。




「う……ん……? に、にい……さん……?」


「あっ……う……り、リーフ……お前、その姿……!」


 頭も視界もぼんやりとしているけど、義兄さんの腕がボクを支えてくれているのがわかる。それと同時に義兄さんもなにやら恐る恐るボクの姿を確かめているようだった。


 女神様からの特別な魔法と言われていたが、それは身体に何かをしたらしく、違和感を徐々に実感していく。


 急に胸が苦しくなって、呼吸がし辛くなった反応をすると、義兄さんが慌てて腕を動かした。


 火照ったような身体の熱さはまだ残っていて、もう少しだけ支えて欲しいと思いながら、まだ言えて無かったお礼を言う。


「にい、さんが、たすけてくれたの……? あり、がとう」


「はっ? えっ? ええっ……!? リーフ、なん、だよな……?」




 なんで確かめる事を? と、義兄さんの様子もおかしいと気付く。ボクを助けてくれたのは義兄さんなのに。


 ようやく視界がはっきりとしたので、義兄さんの顔を確認すると、今まで見た事無い位に真っ赤になっていた。


 そういえば、喉も変になったのか、発する声も少しだけ高いような気がする。男としては元々高すぎる声だったけど、それが更に高くなった気がしてそれが奇妙だった。


「あれ……? なんだか、ボク、なにかおかしく……」


 意識もしっかり戻ってくると、ボクの身体に異変が起きているのが理解出来た。頭が物理的に重くなっていて、手で触れると髪の毛が異常に伸びている。


「えっ……!? な、なんで、こんなに髪が急に……!」


 確認するのに声を出すと、息が続かない。胸だけじゃなくて、お尻の周りも何故か苦しくて、動かせるようになった手で胸を触り頭を下げると、シャツの中で柔らかい物が大きく盛り上がっていた。


「えっ!? えええっ!? な、何この身体ぁ!?」


 ボクは両手で自分の胸の違和感を確かめていると、それを間近で見ている義兄さんの身体が固まっていくのがわかった。


 髪の毛が伸びて、胸もお尻も大きく膨らんで、これじゃあまるでそうなってしまったのかと思い、最後の確認の為にズボンの上から急いで大事な部分に手を触れる。


 まさかそんな訳は無いと一番意識して確認するけど、生まれた時からボクの身体にあった物が何処にも無くて、目で見て確かめようにも胸が大き過ぎて邪魔だった。


 自分で確かめる事が限界になり、こうなったら王妃様に直接聞くしか無くて、顔を上げて彼女の方を見る。


「お、王妃様ぁ……! ボ、ボクの身体が、これってまるで……まるで、お、女の子に……」


「その通りよ! リーフ! だって、あなたは女神様によって聖女に選ばれたのだから、女の子になって貰わなきゃ!」


「えぇっ!? ボ、ボクが、せ、聖女様になるって……! 本気なんですかぁ!?」




 ボクの異変に気が付いて、大騒ぎになる周囲。ボクを抱きかかえつつも真っ赤な顔をして固まってしまった義兄さんに、慌てるボクを見て満面の笑みを浮かべる王妃様に、部屋中滅茶苦茶になっていた。


「倒れそうになった時は焦っちゃったけど、これで悩み事は全部吹き飛んで、万事解決になったわ!」


「ど、どど、どう言う意味なの!? 王妃様! それじゃわかんないです! 義兄さんもしっかりしてよぉ!」


 ここに来る前は確かに思い悩んでいた事は沢山あった。それがどうして、ボクが女の子になる事で全部解決になるのかがわからず、未だ固まる義兄さんも正気に戻さないといけないと思い、腕から離れようともがいてみる。


 すると、無理に動いたせいなのか、既に限界だったのかは判断出来ないけど、義兄さんから離れた瞬間、着ているシャツから、ブツリと胸のボタンが弾け飛ぶ音がした。


 ボタンが勢い良く明後日の方向に飛んでいき、解放された隙間から、二つの胸の膨らみがはみ出てしまいそうな位に見えてしまった。


「えぇっ!? ひゃああああっ!? な、なにこれぇ!」


 何でこんなに胸が大きくなってしまったのか、恥ずかしさで両腕で胸を押さえて隠すしか出来なくなった。一瞬の出来事だったけど、義兄さんにはそれをしっかりと見られてしまい、真っ赤な顔からたらりと鼻血を出していた。


 そして、そのままぐるんと白目まで向いていき、ゆっくりと義兄さんは倒れ込んだ。




「わああああっ!? にいさん! にいさぁーんっ! ねぇ、起きてよぉ! どうしちゃったの!?」


「あらあら、スコールはイケナイ感情しか抱いて無いのかと思ってたけど、こう見るとちゃんと女の子の身体にも興味があったのねぇ。あらあらあら~うふふふ~」


 楽しそうに状況を語る王妃様の言葉で、義兄さんは元々、ボクに特別な感情を持っていた事を思い出す。でも、ボク達は血の繋がりは無いけど兄弟で、男同士だった訳で……


 なのに、それがボクの身体が女の子の物になってしまった事で、鼻血を出して遂には倒れた。そんな反応をされてしまえば、今度はこっちの顔が熱くなってしまう。


「あっ……え、ぇぇ……そう、いう、ことなの……? あ、あぅ……ひぁぁぁぁ……」


「文字通りノーサツしちゃったわねぇ。思ってた以上にたわわに実っちゃって」


 腕の中で感じる、大きくて柔らかいそれを指摘され、意識すればする程身体が勝手に丸まっていく。シャツの隙間から見える谷間は、押さえてる腕のせいで更に強調されていて、見れば見る程顔が熱くなり胸の鼓動が早くなる。


「あらら~……これは、ちょっと、今のリーフは男には見せちゃいけない物になってるわねぇ……」


 感想を呟く王妃様の声が聞こえるけど、下手に動く事も出来なくなったボクでは、無言で耐えるしか無かった。反応してしまえば、それこそどうなってしまうのかわからなかったから。




「シルビア様、そろそろ時間の方が来てしまいます。スコールの方は我々が介抱しますので、その、聖女……リーフの方はお願い出来ますか?」


「え、もうそんな時間なの? それじゃあ仕方ないわ。早速西の国の聖女様お披露目の準備よ! ミア、イザベル、任せたわよ!」


「はい! お任せ下さい王妃様! 私達が聖女様を綺麗にしてみせます!」


 少し離れた場所から司教様の声が聞こえて、王妃様がそれに答えると、ふわりと身体を覆い隠せる程の布がボクの身体に被さっていく。


 何処からともなく現れた、メイド服を着た二人の女の子達がそうしてくれた。


「聖女様、間に合わせで申し訳ございませんが、今はこれでお身体を隠して下さい」


「さあ、あたしの手を取って下さい! まずはお着替えが出来る部屋へ向かいましょう!」


「えっ? あ、ありがとう、ございます……? あ、あのっ、あなた達は……?」


「私達は、聖女様が選ばれた際に、身の回りのお世話を行う為に用意された使用人です。私はイザベルで、こちらの小さい方はミアと言います」


 ミアと呼ばれた背の低い女の子の手を取り立ち上がり、イザベルと名乗った女の子から貰った布で身体を隠しながら、二人に案内されて騒ぎが落ち着きつつある部屋から離れていく。


 まだ身体の事も十分に理解していないままなのに、自分が聖女様だなんて自覚出来る訳も無く、目的地の個室に入ると同時にこの事態に頭が追い付き始める。




「さあ、聖女様、まずは色々と窮屈になられたそのお召し物を脱ぎましょうか」


 肩の下まであるストレートの茶髪のイザベルさんが、ボクが身に纏っていた布に手を伸ばした。


「ちょっ、ちょっとまってよ! イザベルさん!? ボ、ボク、まだ聖女様だなんて、全然頭に入って来てないのに、そんな事出来ないよ!」


「それは自信が無いという事でしょうか? 聖女様が元は男性というのは、私達も一部始終を見ていたので存じ上げておりますが」


「そ、そう! だって、そうだったんだよっ!? 知ってるならあなた達だって、嫌じゃないの?」


「それは、まあ、何のご心配も無いかと。何故ならば、元からあの場で誰よりもお綺麗で、仕草も女性そのものでしたし」


 初対面の相手からきっぱりとそう言われ、身体が固まる。その一瞬の隙をつかれて、イザベルさんに布を引き剥がされてしまう。




「それにですよ聖女様、あのスコール様とあんなに仲良く一緒にいるだなんて、あたしも少し嫉妬してしまいました!」


 胸を押さえていると、今度はミアさんから詰められる。少し嫉妬したと言われるけど、赤茶色の髪を二つ結びでおさげにしている彼女の顔は、とても無邪気に微笑んでいた。


「モテるのに女っ気の無さで有名だったスコール様が、鼻血を出して倒れたんですよ! それ位魅力的なんですって! ほら!」


 そう言ってミアさんは両手に持った鏡を見せて来る。そこに映るボクらしき姿に驚き何処からどう見ても、女の子のボクに何も言えなくなってしまうと、イザベルさんの手が肩に触れるのが鏡越しに見えた。


「女神様がお選びになられたと、王妃様も仰っていました。ですので、覚悟を決めて下さい聖女様。さあ、着替えますよ?」


 ボクが元が男だという事を知りながらも、笑みを浮かべる二人によってあれよあれよの内に着替えが進んで行った。




 着ていた服を脱がされ裸になってしまった後は、見慣れない物に頭が真っ白になって記憶が曖昧だった。気が付いたら同じくローブ姿から素早く着替えた王妃様と一緒に、聖教会の正門まで連れて行かれていた。


 色々とあり過ぎて、意識を失いそうではあったけど、歴代の聖女様への憧れの気持ちがボクを立たせていた。せめて式典が終わるまでは何が何でも倒れてはいけない。




「これより、今代の聖女に選ばれた者を発表する。その者の名前は……リーフ、リーフ・ミルクラウド!」


 正門に集まった人達は、司教様がボクの名前を呼んだ事で驚きの声をあげていた。


「ええええっ!? リ、リーフが聖女って、何があったの!?」


「ほ、本当だ! ありゃ、リーフじゃないか!? 何か女の子になってる!?」


「リーフさん!? 本当にリーフさんなのか!? アネット! セシリー! 一体どうなってるんだ!?」


「わ、私達だってわかんないわよぉ!? 何がどうなってリーフが聖女になっちゃったの!?」


 確認が出来た限りでは、普段買い物をしているお店の人達や、商会の従業員達やメアリーさんに、本屋のお爺さんもいた。見知った街の人達は大体この場にいて、皆ボクの姿に驚いていた。


 ライトさんもアネットさん達と合流していて、彼女達から騒ぎがあったのを聞いていたのか、全員驚いていた。


 ボクを良く知らない人達は素直に喜んでいて、褒められる言葉に心苦しさを感じてしまうが、無心になって精一杯の笑顔を浮かべて司教様の説明に後は任せる事にした。


 今何をやっているのか、ボク自身殆ど頭に入ってこなかったけど、大事な式典は無事に成功を収めた……らしい。王妃様に手を引かれて聖教会の中に帰っていくと、そこで視界が暗くなっていき、意識が無くなってしまった。

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