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私の兄は。  作者: 棚田もち
失踪生活
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12ー嘘

本日二話目です。

「俺とカーラは幼馴染なんだ」

 昔語りか?! しまった。これは長くなる予感がする。

「そんなに以前の関係から話さないといけないの?」

「…………なるべく端折る」

 なんとかお花摘みに行きたくなる前に終わって欲しいものだ。






 あいつと俺はあまり相性が良くない。俺には十歳離れた妹がいるんだが、生まれた時から顔を合わせる機会の多いカーラにそれは懐いてしまった。そのせいで、実家の居心地は大分悪いものになっている。あいつに感化されたせいだ。


 もっと歳が近ければ、小さい子など鬱陶しいだけだろう。だが十も離れれば可愛らしく、守ってやりたくなる。可愛がれば相手も応えてくれる。そんな理想的な関係だったのに、いつの間に変化していたんだ。


 はっきりしたのは、近所の子と妹がおままごとをして遊んでいるところに、父親役で混ざった時のことだった。手土産として小さな花を摘んで、母親役の妹に手渡すと「まったくあなたはツカイモノにならないわね」そう言って、ふうっとため息をつかれた。目を疑ったが、妹の友人達も「おとこのカイショウは、どれだけじょせいに みつげるかでしょー」「そうそう。たねーま? としてもたいしてやくにたたないのだから」と畳み掛けてくる。

 そして「いまほしいのは、シンサクのドレスにあわせたホウセキよ」この台詞を聞いたとき、俺は小さな女の子達が怪物の予備軍になってしまったことを知った。


 母親は物に執着する方でもない。身近にそんな言葉を使いそうな奴はいない。カーラ以外は。

 俺は彼女に文句を言った。まだ幼い子供に何を教えているのかと。

 あいつの返事はこうだ。

「あら。同じ家で暮らしている素敵なお母様ではなく、私の真似をしたというの? まあそういう事もあるでしょうね。でもね、それは私が支持されるだけの理由があるから。『小さくとも女は女』という事なのよ」


 これが婚約者だった女だ。俺はこんな逞しいのは嫌だ。少なくとも子供には可愛げが欲しい。

 しかし多勢に無勢。男は俺と父親しかおらず、恐怖の言葉『気が利かない』を喰らわぬように過ごすしか無かった。

 あれとの結婚生活など考えたくもないが、そもそも他の想像の余地もないほど明確に、自分が虐げられている図が目に浮かぶ。


 なんとか解消できないかという思いは、実はカーラ側も持っていた。

 ウチは鉱山を持ってるし、カーラのところは加工技術に優れているから利益はあるが、彼女は満足できないようだった。もっと権力を持って、広い領地を好き勝手にしたいらしい。——自分の為に。


 しかしそんな都合の良い相手が、その辺に転がっている訳じゃない。お互い口癖のように『破棄だ』『解消だ』と言いながらも婚約を続けていたが……あの夜、それが現実になった。






「俺がもっと場を弁えて発言に気をつけていれば、殿下だって続かなかった。あんただって婚約を解消するにしろ、もっと穏やかな方法で出来たはずで、おそらく今こんなところにいる事も無かった」

 彼は、本当にすまなかったといって頭を下げた。私はといえば、段々眠くなってきたので話半分に聞いていたのだが、ちゃんと大事なことは理解した。こいつは嘘をついている! 全部が偽りでは無いかもしれないが、誤魔化しているのは間違いない。


「ここにいる理由は、私に罪悪感があったから?」

「そうだな」

「貴方、お祖父様に謹慎を言い渡されたそうね」

「え?」

 彼が顔を引きつらせた。

「それが嫌でリチャードのところへ逃げ込んだんですって?」

 ヤマダの手紙に書いてあったのだ。

「それは、」

「それで大義名分を得たとばかりに捜索を買って出たって? ふざけるんじゃないわよ!」

 自制が効かなくなっているのが分かった。だがどうしても我慢できなかった。


「あんたなんか、なんの関係も無いのよ! あんたは馬鹿をやっただけだけど、リチャードは馬鹿になったから、婚約がなくなったのよ! 自分が逃げ出したいだけだったくせに、私を言い訳に使うのはやめて! 私を利用しないで!!」


「ごめん……」

「ごめんじゃないわよ! もうっ、もうなんなのよあんた達は。ノアだって理由も言わずに私を放置した上に、目の前であんな事しなくてもいいじゃない。ちょ……ちょっと期待してたんだかっ、ら……リチャっリチャードだって、馬鹿っけど、っ優し……くて、このひっ、と、ならっ、て、だっ、だっっ大好きだっだん゛だがら゛あ゛あ゛あぁぁぁぁ!!」


 とうとう決壊した私をそっと抱きしめながら、彼は「ごめん」と「大丈夫」を繰り返し囁き続けたのだった。





あと数話で完結予定です。

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