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私の兄は。  作者: 棚田もち
失踪生活
24/34

7ー困惑

「で、考えなしのアイラちゃん。王都に戻るぞ。用意しておくように」

「それは困るわ!」

「皆心配してるんだぞ」

「あなたがエバンスを遠ざけてくれるの?」


 ノアは少し考えて首を振った。

「難しいだろうな。君が見つかったなら、もう逃げられないように、寧ろぴったりくっついて離れないと思う。俺は応援にきた立場だから、指図は出来ない」


 ですよねぇ。


「ねえ、せめて友人と連絡が取れるまで待ってくれないかしら」

「忠告してくれたっていう?」

 こくんと頷く。

「彼女がそう判断した理由があるはずでしょう。詳しく聞きたいのよ」


 実際はゲーム知識なのだろうが同じことだ。今回だけやり過ごせばいいのか、今後も危険があるような内容なのかを確認しておきたい。


「………その確認はいつ頃とれるの」

「! ノア!」

 思わず立ち上がり、彼の手を取って両手でギュッと握り締める。


「それをあなたにお願いしたいんだけど」



 ――考えなしを叱られました。





「全く君達兄妹は、繊細な外見に合わない大雑把さだな」

 我が家の理解者が生まれたようだ。

「残念ながら俺は出来ないよ」

「どうしても? 手紙を出すだけでもお願い出来ない?」

「どうやって返事を受け取る気だ」

 おお、考えて無かったよ。これは怒られても仕方がない。


「でも、丁度良い人材がいるよ。使いっ走りに持ってこいの」

「え? どこに」

「今、時間が無いからまた後でね」

 そう言ってサッサと扉に向かって行く。


「ちょっと、王都の話は?!」

 ノアが足を止めて振り返った。

「あのね、今俺はこの建物の内部と周辺の地理を把握する為の時間を使ってるの」

 おうふ。


「ご、ごめんなさい」

 自分の事ばかり。もう、本当に私、駄目な奴だ。

「うん。ちゃんと反省するように。連絡はマリーさんにするから」


 じゃあねと去って行った。


 締まった扉をしばらく見ていたが、両手でパチンと頬を叩く。


「おし。私にやれる事をやろう!」

 誰を紹介してくれるのかは分からないが、今は、そう手紙を書き直すのだ。

 ヤマダと連絡を取ってくれそうな人物に返事を渡してもらうように頼もう。


 それと、万が一見られても、持っているヤマダと手伝ってくれる人に迷惑が掛からないよう、もう一度見直そう。


 これ以上迷惑は掛けない! 甘々な自分に卒業するのだ!




 ◆




「今日、一緒に着いたんだ。君も面識があるだろう。彼が手伝ってくれる事になった。事情も説明してある」


 私は今、再びマリーさん提供の居間で、思いがけない人物と対面していた。


「ブライアン・なんとか……」

「ジョーンズだ」

「アイリーン・コールです」

「知ってる」


 あれ? 思ったよりも余所余所しい? とかノアがほざいているが、ヤマダの取り巻きでカーラの元婚約者と何故親しいと思ったんだ。


「届けるのって、どれ」

 ブライアンが手を差し出した。

「あ、これです」

 なるべく短くまとめた手紙を渡す。


「……彼女には必ず渡す」

「いや、返事もお願いします」

 自分の表情が無になったのが分かった。なんの為にここにいるのか知らんが、ヤマダに会っただけで満足されそうで嫌だ。


 と、ここでハッとする。着いたばかりの人を、また王都に戻すのだ。疲れているだろうに面倒事を引き受けてくれた。

 そんな相手に、しかもお願いする立場にもかかわらず、偉そうにしてしまった。侯爵令嬢としては態度が大きくても問題ないけれど、人として礼節を欠く発言。甘々な自分にまた入学するところだった。


「来たばかりなのに、本当にありがとう。あなたの親切に感謝します」

 そして胸に手を当て、礼をとる。


 頭の上から、ボソリと声が落ちた。


「出るのは明日だから」


 なにかノアに向かって喋ったあと、足音とドアの開閉音がした。去って行ったようだ。

 ゆっくり身を起こす。


「なにあれ」

「うーん、何だろうね。君達親しいんじゃなかったの?」

「いえ、全然」

「えー? だって、志願してきたって聞いたよ」

「そう、それもよ! 私の話はどこから漏れたのかしら」


 情報統制しているはずなのにおかしい。どこまで広がって「ああ、リチャード・バンクス君だよ」


「――なぜ彼がでてくるの?」

「ほら、婚約の件で色々と話合いが持たれているところに、今回の情報が入ったみたいで、君のお父さんが彼にイキナリ掴みかかったとか何とか」


 顔を両手で覆い、天を仰ぐ。脳筋の父よ!!

 我が家は代々嫁で持っていると、祖父から聞いたことはあったけど。


 …………血筋なら仕方がないよね。


 切り替えが早いのもまた血筋だ。『溢れる親の愛情エピソード』に脳内で変換された。


「それで、その話を友人のフォード君にしているところにブライアン君登場。あっさり彼にも話して、フォード君が慌てて止めてたって、ブライアン君が言ってたよ」


 だから広まってはいないから大丈夫、と頭を撫でてくれた。


 まあ、広がっても自業自得ではあるんだけどね。



登場人物


アイリーン・コール

主人公。一部の人にはアイラと呼ばれている。宿屋での偽名はエリー。


ノア・ミドルトン

騎士。男爵家の次男で主人公の友人。


リチャード・バンクス

主人公の元婚約者。


ダグラス・フォード

リチャードの友人。


ブライアン・ジョーンズ

リチャードの友人。


ヤマダ・スットン

乙女ゲーム(?)ヒロインと同名。主人公のクラスメイト。


カーラ

主人公の友人。ブライアンの元婚約者。


ガブ

宿屋の主人。


モリー

女将。ガブの妻。


マリー

ガブとモリーの娘。


トマス

マリーの夫。未登場。


アンジー

マリーとトマスの息子。


オリガ

宿の手伝いに来た親戚。


エバンス

侯爵家の護衛隊長。


サイモン・コール

主人公の兄。



…………長い。


誤字報告いただきました。ありがとうございます。



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