15ー今宵のサラダには肉が入っているだろうか 〜サイモン〜
ふふふ。とうとう同僚から必殺技を伝授してもらった。
これで私は無敵。もう渾身の冗談を理解されず、心で中でさめざめと泣く事もない。何を言ってもいい! 自由だ!!
可愛いアイリーンから、護衛についての確認があった。心配性な妹の頼みだ。叶えない筈もない。任務に当たる隊長に念を押す為、呼び出した部屋へ向かっているわけだが、これはよい機会だ。早速試してみよう。
扉を開けると、既に隊長のエバンスが来ていた。
立ち上がって、こちらに礼をとる。返礼して着席を促し、自身も座った。
「エバンス、忙しいところ済まない」
「いや、仕事自体は慣れたものだからな。問題ない」
頼もしい返事だ。
「今回の同行者は、お前の他はヒースとマリオだったな」
「そうだ」
二人共まだ若いが、優秀な護衛だ。
「騒動で妹がナーバスになっている。身の安全に不安を感じているようなんだ。誰かが接触してくるような事があったら、直ぐ教えて欲しい」
「分かってる。どんなに些細な事でも報告するさ。うるさく思われたってな」
ニヤッと笑う。
付き合いも長いので、主筋に遠慮が無い。
「ああ、信用してはいる。実際心配してる訳じゃない。アイリーンを安心させる為に呼んだんだ」
「あれだけの美人がフリーになったんだ。気落ちしているところを狙ってくる奴はいるだろうな」
む、ここか?
「その通りだ。でも今度の事で傷心はしているが、実は本当に好きな奴は、別にいるらしいぞ」
「へえ、そうなのか?」
「お前だよ」
エバンスが雷に打たれたような顔をしている。
これはいける!
「いつも守ってもらう内に恋が芽生えたという訳だな」
おお、真実味があるんじゃないだろうか。
「へんな男に嫁ぐならお前に……と言って」
「サイモン!」
「お、おぉ」
何だ。急に立ち上がったぞ。
一歩で距離を詰められ、ガシッと握手してくる。
「分かった。まさかあんなに綺麗な人に好いて貰えるとは思わなかったが、光栄だ。俺で良ければ、彼女を幸せにしてみせる」
「あ、」
「さて、そうと決まれば色々と計画を立てねば。忙しくなるな。嬉しい悲鳴をあげることになりそうだ。じゃ行くからな」
手を振って、笑いながら部屋を出て行く。
パタンと閉じる音で我に返った。
いかん! まだあの台詞を言っていない! 追いかけなくては。
急いで扉を開けると、少し先に今にもスキップしそうな程、足取りの軽いあいつの姿が見えた。よし!
走って回り込み、確実に伝える為両肩をしっかりと掴んでじっと見据える。
「なあんちゃって」
どうだ! これで冗談だと分かったはず!
エバンスも間抜けに開いていた口を閉じ、得心がいったという顔になる。
「なるほど、了解した」
! とうとう私も冗談を
「確かに身内にバラされたと知ったら彼女も恥ずかしかろう。お前からは何も聞かなかった、そういう事だな」
「うん?」
「大丈夫だ、上手くやるよ。任せとけ」
計画の練り直しだお義兄様などと言いながら、哄笑して去って行った。
冗談だと通じたのだろうか。違うような気がする。まあだとしても、一流の護衛がその対象を危険に晒すことは無い。キチンと仕事をしてくれれば問題は起きないはずだ。
しかし同僚は嘘をついたのか? 台詞を確認する必要があるな。
アイリーン達も忙しいだろうが、私も社交時間の捻出の為、これから休みなく働かなければならない。
夜はキチンと食べられるだろうか。野菜を摂れと煩い執事は、必ずサラダを山盛り出してくる。
サラダの野菜に、肉を代用するよう執事に言ってみるか。
やはり今夜もサラダは野菜だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
心より感謝します。
『更新遅れる詐欺』を敢行してしまいましたが、間違いなく感謝しております。




