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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
17/34

15ー今宵のサラダには肉が入っているだろうか 〜サイモン〜

 ふふふ。とうとう同僚から必殺技を伝授してもらった。

 これで私は無敵。もう渾身の冗談を理解されず、心で中でさめざめと泣く事もない。何を言ってもいい! 自由だ!!


 可愛いアイリーンから、護衛についての確認があった。心配性な妹の頼みだ。叶えない筈もない。任務に当たる隊長に念を押す為、呼び出した部屋へ向かっているわけだが、これはよい機会だ。早速試してみよう。


 扉を開けると、既に隊長のエバンスが来ていた。

 立ち上がって、こちらに礼をとる。返礼して着席を促し、自身も座った。


「エバンス、忙しいところ済まない」

「いや、仕事自体は慣れたものだからな。問題ない」

 頼もしい返事だ。

「今回の同行者は、お前の他はヒースとマリオだったな」

「そうだ」

 二人共まだ若いが、優秀な護衛だ。

「騒動で妹がナーバスになっている。身の安全に不安を感じているようなんだ。誰かが接触してくるような事があったら、直ぐ教えて欲しい」


「分かってる。どんなに些細な事でも報告するさ。うるさく思われたってな」

 ニヤッと笑う。

 付き合いも長いので、主筋に遠慮が無い。

「ああ、信用してはいる。実際心配してる訳じゃない。アイリーンを安心させる為に呼んだんだ」

「あれだけの美人がフリーになったんだ。気落ちしているところを狙ってくる奴はいるだろうな」

 む、ここか?


「その通りだ。でも今度の事で傷心はしているが、実は本当に好きな奴は、別にいるらしいぞ」

「へえ、そうなのか?」

「お前だよ」


 エバンスが雷に打たれたような顔をしている。

 これはいける!

「いつも守ってもらう内に恋が芽生えたという訳だな」

 おお、真実味があるんじゃないだろうか。

「へんな男に嫁ぐならお前に……と言って」

「サイモン!」

「お、おぉ」

 何だ。急に立ち上がったぞ。

 一歩で距離を詰められ、ガシッと握手してくる。


「分かった。まさかあんなに綺麗な人に好いて貰えるとは思わなかったが、光栄だ。俺で良ければ、彼女を幸せにしてみせる」

「あ、」

「さて、そうと決まれば色々と計画を立てねば。忙しくなるな。嬉しい悲鳴をあげることになりそうだ。じゃ行くからな」

 手を振って、笑いながら部屋を出て行く。

 パタンと閉じる音で我に返った。

 いかん! まだあの台詞を言っていない! 追いかけなくては。


 急いで扉を開けると、少し先に今にもスキップしそうな程、足取りの軽いあいつの姿が見えた。よし!

 走って回り込み、確実に伝える為両肩をしっかりと掴んでじっと見据える。


「なあんちゃって」


 どうだ! これで冗談だと分かったはず!

 エバンスも間抜けに開いていた口を閉じ、得心がいったという顔になる。

「なるほど、了解した」

 ! とうとう私も冗談を

「確かに身内にバラされたと知ったら彼女も恥ずかしかろう。お前からは何も聞かなかった、そういう事だな」

「うん?」

「大丈夫だ、上手くやるよ。任せとけ」

 計画の練り直しだお義兄様などと言いながら、哄笑して去って行った。


 冗談だと通じたのだろうか。違うような気がする。まあだとしても、一流の護衛がその対象を危険に晒すことは無い。キチンと仕事をしてくれれば問題は起きないはずだ。

 しかし同僚は嘘をついたのか? 台詞を確認する必要があるな。


 アイリーン達も忙しいだろうが、私も社交時間の捻出の為、これから休みなく働かなければならない。

 夜はキチンと食べられるだろうか。野菜を摂れと煩い執事は、必ずサラダを山盛り出してくる。

 サラダの野菜に、肉を代用するよう執事に言ってみるか。







 やはり今夜もサラダは野菜だった。






読んでいただき、ありがとうございます。

心より感謝します。


『更新遅れる詐欺』を敢行してしまいましたが、間違いなく感謝しております。


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