14ー別れる
私の居室を忙しなく人が出入りする。
「宝飾品はもう少し持って行きましょう」
「靴も足りないわ」
「あなたはいいから自分の用意をなさい」
専属侍女の一人、ヘンリエッタが家政婦に叱られた。
父から領地への帰還の話をされてのが昨日。今日はもう出発の予定なので、周りはバタバタしている。
今回私に付いてくるのは侍女二人に護衛が三人。侯爵家の領地は、王都から馬車でゆっくり移動して三日の距離にある。近い方だし、道中の治安も悪くない。それなりに大きな街もあるので、楽しんで行きたいものだ。
「お嬢様。馬車のご用意が出来ました」
「分かったわ」
偶に口を出す以外は、ただ彼女達の動きを見ているだけなので、正直暇だ。まだ準備にかかりそうなので、その間に休学が決まった学校へ、挨拶に向かう事にしたのだ。
一時限が終わった頃だろうか。ガタゴトと馬車に揺られ、街並みを眺めながら想いを馳せる。
同じ年の女の子と机を並べるのは、想像以上に楽しかった。今学期はもう無理でも、卒業までに戻れるといいのだが。
人が少なくなり、緑が多くなってくるとブラウン校が見えてくる。
学校に着き、先ずは連絡を入れていたイケメン学校長に挨拶。先生方、クラスメイトにも。皆んなに惜しまれ、また元気付けられた。私一人で逃亡するようで、同じ立場のカーラに申し訳なく思ったが、「面倒なのが二人もいたらあ、慰めも防御も分散するじゃないですかあ。とっとと帰ってもらった方がノ゛オ゛オオオオーー!!」
最後のアイアンクローをお見舞いした。
私の心の負担を減らそうとする、さり気ない(?)気遣い。流石カーラ。評価はうなぎ登りだ。
ありがたいので、今日は緩めにしておいた。
「庇ってくれて、ありがとう……。あと私が悪いのか分からないけど、何かゴメン」
ヤマダからはお礼と謝罪。
気持ちは嬉しいが、なんと返していいか分からない。婚約破棄の原因かも知れないけど、王子の所為のような気もする。
言葉が出てこないので、無言で両拳を腰だめにして、ぴょこっとサムズアップしてみた。
私の気持ちは伝わったようだった。代わりに別れのしんみりした雰囲気は無くなったが良しとしよう。笑顔で教室を後にした。
そもそも馬車が無いと荷物が積み込めないので、長居は出来ない。今回は二台使用するが、かなりギリギリの容量で、使用人達が如何に小さく纏めるか苦心していた。
馬車を回してもらい乗り込もうとすると、誰かが遠くで叫んだようだった。
振り返ってみると、ヤマダが大声を出しながらこちらに走ってくる。
「待ってーっ! ちょっと待ってくださーい」
髪を振り乱して全力で呼び止められているのに、待たない程の人非人じゃない。
私が踏み台から足を降ろしたのに気付いて、彼女が速度を落とした。――ので、また乗る為に足を掛ける。『ちょっと待った』からいいだろう。
「あー! いま気付いたでしょ?! 待てってば!!」
再び全速に移る。
出来心で遊んでしまった。今度は大人しく待つ事にする。
到着した時には、淑女としてあり得ない姿になっていたヤマダだが、見た目は子供に近いのでギリギリ、アウトだな。
「だあっ。もう、何で意地悪するかな?! こちとら善意で来たんだからね?!」
息を整えながら、袖で口元をグイッと拭う。
ヨダレが出たのかな。ゴメンヨ……。
「私これから王城に呼ばれてて、時間が無いからちゃんと説明出来ないけど、あのね、信頼出来る護衛を雇ってね」
凄く当たり前の事を言われた。
ポカンとする私をみて、もう少し付け加える必要を感じたようだ。
「何言ってるか分かんないかも知れないけど、姿も名前も描かれ無い令嬢が、領地に帰って護衛に襲われるって言うエピソードがあったのよ。しかもストーリーには関係ないっていうね。ホントあのゲーム、なんだったんだろ。だから気を付けて。実際にあるか分かんないけど、用心に越した事無いもんね。あんたの事嫌いじゃないし、やっぱり女の子は幸せにならなくちゃ。んじゃ私は行くから。元気でね! 私は走ったばかりで元気とは言い難いけどね。なのにまた走って戻るんだよコンチクショー! んじゃね」
一人で喋って、うぉーと声を上げながら元気に駆けて行った。
えーと?
転生ヒロイン確定だって事だよね?
それから、城に呼び出された件は手紙ででも聞くとして、私が領地で危ない目に合うかも知れないの? 護衛に?
しかし今回同行するのは、何度もお世話になっているメンバーで身元も確か。堅実な仕事振りで何の不安も無いはず。
でも彼女はゲームの内容を、かなり詳しく覚えているようだった。
一応兄サイモンに確認してもらおうか……。
私事で忙しくなり、更新が遅くなるかもしれません。
そうでもないかもしれません………。




