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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
13/34

オッス! オラ ~第三王子エドワード~

 私の話を聞いてくれるのかい。

 ありがとう、いい子だね。嬉しいよ。


 どうも私には、今とは違う、別の人間として生きた記憶があるようなんだ。と言っても不鮮明で、あやふやなものなんだけどね。


 割と覚えているのが、どこかの島国で作られたアニメというヤツだ。絵が滑らかに動くんだよ。その中でも、ハゲ頭の爺さんが、手から光線の様なものを出す姿には憧れたな。だって爺さんなんだよ? 現役過ぎるだろ?


 私はね『オタク』と呼ばれる趣味人だったんだ。


 その時住んでいた国では、この『オタク』がマイナーでね。女の子に避けられる事もあったんだ。ごめん、ちょっとだけ嘘をついたよ。結構避けられたよ。私の柔らかい心に付いた傷が深かったのか、記憶に残ってるんだ。寧ろ忘れてしまいたかったけどね。


 慰めてくれるのかい。優しいね。うん、とても癒されるよ。


 もう大丈夫。続けるね。


 私はそんな女の子達は好きじゃなかった。当然だよね。でもね、普通に接してくれる子だって、勿論いたんだ。その中の一人が、私は大好きだった。


 とても可愛い子だったんだよ。

 この国でもそうだけど、記憶の中の国も、大人びた女性の方が好まれていたな。でもその子は、アニメに出てくるような、可愛いらしい感じの子だったんだ。

 私は夢中になった。と言っても、偶に話しかけるくらいが精一杯でね。


 うん? どうしたの? 飽きてきたのかな?

 膝においで。


 えーと、どこまで話したかな。ああ、そうそう。ある日、帰り道で彼女を見かけたんだ。嬉しくなって声を掛けようとしたんだけど、誰かと一緒に居たんだ。それが男でね。

 言い争っているようだったので、彼女を守ろうと近付くと、内容も聞き取れるようになる。どうも彼女が男に嘘を吐いていて、それを男に責められていたようだった。


 その時、いつも控え目な彼女が言ったんだ。

『私の事が好きなら、嘘も丸ごと受け入れるのが男ってもんでしょ! アンタは器がちっちゃいのよ!』ってね。


 どうも、これが今の私に影響を与えているようなんだ。

 好みの『可愛い女性』には『二面性がある』ことも含まれ、理想の男性像は『好きになった女性なら丸ごと受け入れる』と、刷り込まれてしまった。多分ね。


 イテテ。ちょっと強いよ。もう少し優しく噛んで欲しアダダダダダ! 痛いって!

 ごめん、君は下に降りてくれ。


 はあ。じゃあ君達はこのまま聞いてくれるかい?


 ああ、そうだ。他にも覚えている事はあったんだ。例えば自動車っていうのがあってね。馬車とはスピードは勿論だけど、なんと言っても乗り心地が全然違うんだ。

 再現出来ないかと考えたけど、仕組みが良く分からない。

 恐らくバネみたいなのが入ってるんだけど、そんなものをただ設置しても、好き勝手にビヨンビヨンしそうだろう。余計に酔いそうだ。そもそも素材も精錬技術もね、何もかもゼロ。


 だったらクッション代わりに水を挟んでみようかと思った、一瞬だけね。そういうベッドがあったんだよ。でもそれは普通の水では無い、絶対に。これも、もう好き勝手に揺れそうで、想像するだけで…………流石に何も出ないよ。

 まあ、水は重いし、皮袋じゃ破れそうだよね。


 一応トイレも考えたんだよ。でもこっちも結局同じ。

 何年掛かってもいいから、せめて王宮だけでも何とかならないかと思ったさ。

 それで物凄く運良く配管みたいなのが出来たとして、漏れたら王宮がウ○コまみれ。きっと、あちらこちらで漏れるよ。

 ハハッ有り得ないだろう。

 そもそも出来るとも思えないんだけどね。


 みんな寝ちゃったのかい? 可愛いなあ。


 こんなのが出来ないかって希望を出して、国で技術者を育てるというのも有りだけど、他国に行かないように囲っておくとか、果たしてそれは一番必要な事なのかとか。それから第三王子という立場とかを考えて、自然の流れに任そうと思ったよ。

 うん。面倒になったんだ。


 ーー私は記憶を何も活かせていないけど、得るものが無かった訳じゃない。何も出来ない事で、逆にこの国、この時代に生きる覚悟を決めた。


 あれ? マイナススタートだね? みんな最初から普通に生きてるもんね。


 まあいいか。


 一つだけ影響が残るものがあっただろう?

 あれね、理想の私になれる素敵な人を見つけたんだ。


 とっても可愛らしい女の子なんだよ。純粋な子に見えるんだけど、良く観察すれば、色々考えて行動しているのが分かるんだ。

 彼女を研究して、それを全て受け入れられるようになりたい。

 理想の男になる、これなら実現可能だろう?


 私には優しくて包容力のある、大人な婚約者がいるんだよ。

 でも彼女では駄目なんだ。


 良い人なので、幸せになって欲しい。

 だから、私の責になるような形で解消出来ればと思うんだ。ついでに研究会も設立にこぎ着けられれば尚良し。


 ああ、お母さんが戻ってきたよ。話を聞いてくれてありがとう。本当に癒されたよ。

 さあ、お帰り。



「エドワード殿下! そんなところで、何をしていらっしゃるのですか? ……猫?」


「ああ、リチャードか。うん、可愛い盛りでね。偶に見にくるんだよ」


「確かに可愛いですね……。いっ」


「ははっ、まだ力加減が分かってないんだ。私もさっき噛まれた」


「殿下を噛むとは。でも仔猫では仕方ないですね」


「君のそんな顔は、ヤマダさんの側にいる時くらいしか見たことないよ」


「あ! そうです。理事長に呼ばれて探しに来たんでした。ヤマダ嬢のことだと思います」


「そうか。待たせてしまったかな」


「いえ、時間の指定はされていないので、大丈夫です」


「じゃあ、行こうか」




 次の夜会で仕掛けてみようか。


 上手く行くといいんだが……。





乗り心地が悪い為エドワードは気付いていませんが、多分馬車に板バネは入っています。

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