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私の兄は。  作者: 棚田もち
学生生活
12/34

11ー守る

 私達は即座に姿勢を正し、ドレスの皺を直す。

 ここは学校では無い。貴族としての対応が求められる。


 そうしている間にも、いくつか椅子を運び込もうと従僕達が奮闘していたが、元々狭いスペースだ。二脚で断念。少し衝立を移動し広げる。

 

 一体何人来るの?


 従僕に聞こうとすると話し声と、人が近づいてくる気配があった。エドワード殿下だ。

 私達は一斉に立ち上がって略式の礼を執る。狭いし王族の挨拶も終わっているのでこれでいい。


「ジュリア、皆も急にすまないね。楽にしてくれ」

 体を起こし、王子が座るのを待ってから私達も腰を下ろす。


  ……いる。リチャードにヤマダ、ブライアンとフ――……ブーフーウーが。

 こんなイベントあったっけ。最初からゲームの内容はほぼ覚えてないけど。

 もう一つの椅子はヤマダが勧められ座った。まあこの面子なら、女性の彼女が座るべきだろう。


「何をおっしゃいますの。殿下が来てくだるなら、いつでも大歓迎ですわ」


 ジュリア様が王子に応える。

 こうして二人を見ていると、綺麗ではあるけど、お似合いとは言い難い。まだ成長期を終えていない王子の線が細い。別にジュリア様が太い訳ではない。多分もう何年か経つと、しっくり来るようになるんだろう。


 そんな事を考えてていたら、挨拶が終わったらしい。

「それで、一体どうされましたの? バンクス様は存じ上げておりますけど……」

「実はね、君達に協力して欲しい事があるんだ」

「私達に出来る事ですの?」

「もちろん!」

 王子は瞳を輝かせながら言った。


「スットン研究会を立ち上げたい。君達にはその会員になって欲しい」


 諦めて無かったのか! 女性陣が固まっていると、王子達が会の素晴らしさについて滔々と語り出す。その情熱が怖い。何か仕出かしそうだ。


 ヤマダは。ヤマダはこれを認めているのか? 見れば彼女は蒼白で唇を震わせている。

 知らずにここに来たんだ! 野郎どもの暴走か。女を怯えさすとは許さん。


 パチンッと扇子を鳴らす。

 良かった、彼等の意識がこちらを向いた。


「皆様、落ち着いてください。何故そんなものをつくりますの?それにヤマダさんの了承は得ているのでしょうか」


「そう、それも含めて協力がいるんだよ。彼女は謙虚でね。遠慮してるんだ」

「ああ。愛らしく奥床しい彼女を多くの女性に見習ってもらいたい。その為にも是非研究会が必要だ」

 王子とリチャードの世迷い事に、ブーフーウーが激しく賛同を示す。


 この間にジュリア様達も正気に返り、援護に入ってくれた。

「何をおっしゃってますの? 彼女は可愛いらしい方でしょうが、そんな事をされて喜ぶと思われるのですか?!」

「そうですよ。研究何てされたくないですよ。彼女、顔色悪いですもん」

「今日は会場も大分暑くなってますからねえ。皆様少し涼んで来られてはいかがでしょうか(頭冷やせ!)」


 同じ女として、ヤマダを守る!

 私達の心は一つになった。

 一歩も引くまいと敵対勢力と睨み合う。




「ちょーっと待って。ストップ、ストップ。何してるんだみんな、こんなところで。言い合う声が周りに漏れていたぞ!」

 ダグラス・フォードが慌てたようにやってきて割って入った。そういえば居なかったな。


 彼の登場で、皆がハッと冷静さを取り戻した。

 そもそもこんなところで話すような事じゃない。王子は何を考えているのか。

 ヤマダが立ち上がってダグラスの側に寄り、安心したのか涙ぐんで見つめている。うむ、これは仕方がない。ヤツに慰めてもらうが良い。上着の裾を掴んでいるのが若干あざといが。いや、縋り付きたいところを堪えた結果だろう。今の私はヤマダに甘い。


 このまま有耶無耶になれという私の思いも虚しく、王子はまだこの話題に未練たらたらだった。


「少し熱くなっていたようだな。では落ち着いて説明したいと思う」

 誰か『お腹いっぱいです』と言ってくれないものか。


「お待ちください殿下。場所を変えませんか」

 ジュリア様天使! 先送りしただけだけど。

 しかし敵はしぶとかった。

「そうだな。部屋を用意させよう」そう言って従僕に指示した後


「では準備が出来るまでの間、私の考えを聞いてもらおうか」と宣告した。


 ……気持ち悪い。変態だ。我が国の王族に変態がいる。私達が全力で引いている間、王子達は切々と何か訴えているけど、そもそも向こうに話し合う(・・・・)気があるとは思えない。


 言葉も出せずにいると、流石王族に嫁ぐ方だ。ジュリア様が王子等を窘めにかかった。


「殿下、皆様。好意を持った女性の意見を無視してはいけませんわ」

「しかし彼女は大変慎み深いだけなんだ」

 一体誰の話だ。

「そうだ! 殿下に意見しようなどという女性とは違う」


 どさくさ紛れにフーだかウーだかが、ジュリア様に無礼な発言をする。

 憧れの女性を貶められて、黙っている訳にはいかない。


「今の発言はどういう意味かしら」

「そうですよ! 子爵家の六男坊が、自分が殿下のお役に立てないからって、ジュリア様に嫉妬しても醜いだけなんですよ!」


 あ、子爵の六男なんだ。子沢山。


「いや、落ち着……」

「嫉妬してるのは貴様らだろう! 全てに於いて慎ましやかな彼女を羨んでいるんだな! 特にカーラは脂肪が多いからな。頭も鈍くなるというものだ」

 ダグラスが制止しようとするのを、ブライアンが遮って暴言を吐いた。


 この発言を許せる女がいるか? ちなみにヤマダは居た堪れなさそうにしているぞ!

 私が口を出す前に、カーラ本人が直接反撃に出た。


「うふふっ。自分に自信の無い犬は、ほんっと良く吠えるわあ。あのねえ、あなたが僻みやすい質だからって、他人までそうとは限らないのよお」


 この場面で笑える彼女は怖い、じゃなくて凄いと思う。


「何だと! 生意気なんだよ! さてはお前だな。ヤマダ嬢から距離を置くように理事長に言われたんだぞ。俺への嫌がらせだったんだな!」


 あ、それ私だ。

 狭い場所なのに、興奮して奴の身振りが大きくなり、ヤマダに当たりそうになる。

 気付いた彼女が避けダグラスが庇うが、衝立にぶつかり、大きく隙間が開いた。

 そこから、大勢の人が此方を向いているのが見える。


 これはマズイのでは。


「もうお前には我慢ならん。婚約を破棄する!」


 言っちゃったよ。


 カーラは既に見られいることに気付いていた。

「私はそんな事してません! 憶測で、そんな……酷いわ……」

 そう無実を主張しながら、泣き崩れてみせた。サンドラがそれを慰める。

 アホな男は「ハッ、今更泣いたって遅いんだよ」とほざく。良し。下劣な品性が分かっていいぞ。


 流石の王子も、この状態では引っ込むしかあるまい。

「確かに趣味を分かり合えない人を伴侶とするのは、互いにとっての不幸となり得る。ジュリア、私達も婚約を解消しようか」

 空気を読め!!


 ジュリア様が倒れた。ああ、滅茶苦茶だ。


「なんと殿下……! 愛に身を捧げるのですね!!」

 私の婚約者(リチャード)は何か勘違いしている。王子は趣味の話をしていたのであって、愛については語っていない。


 何かを察したダグラスが、リチャードの口を塞ごうとしたが間に合わなかった。

「私も続きます! アイリーン、君との婚約は破棄だ」


 ――もう何でもいいよ…………。




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