第38話
そして私は、ゆっくりと口を開いた。
「私がこの場に呼ばれたのは、加護の乙女として皆様にお伝えすべきことがあったからです。マグダレーナ様は『この国のためにも、きちんと真実を表明すべき』とおっしゃいました。そのお言葉に、私は賛同いたします。」
マグダレーナ様は満足そうにうなずいていた。
新王派の貴族たちは、鋭い表情で私を見つめている。きっと私が、マグダレーナ様に懐柔されてしまったのだと思っているのだろう。
誰も彼もが口をつぐみ、議場から一切の音が消えた。皆が私の声を待ち、静寂の中で私に視線を注いでいる。
「私は加護の乙女。愛と真実の女神アルカナの代行者です。ゆえに真実を、白日の下に晒したいと思います」
私は高く左手を掲げた。この手に宿った祝印が、本当の真実を導くように。
マグダレーナ様が、訝しげな目で私を睨んだ。――エヴァンジュリン、あなた何をするつもりなの? とでも言いたげな目つきだ。
私は、彼女に向き合った。そして左手を彼女の顔前にかざし、言葉を紡ぐ。
「白日の下に真偽を照らせ」
次の瞬間、左手の祝印がパァッ――と爆ぜるように発光した。
純白の光が議場を満たし、マグダレーナ様の顔を容赦なく照らし出す。
「王太后マグダレーナ・ログルネーテ。不貞の手紙は、本物だったのですか? そして前王の毒殺未遂事件に関与していたというのは、誠ですか? あなたがこれまで犯した悪事を、この場ですべて語りなさい」
「ひっ……!」
マグダレーナ様の瞳が揺れた。
顔を引き攣らせたまま、不自然に唇が動き出す。
「……あの手紙は。わたくしが……贋作師を、雇って。十年前に……作らせたの。切り札として……、ガルシア公爵邸で。保存させた……」
マグダレーナ様の隣席にいたガルシア公爵が、顔を引き攣らせて立ち上がる。
「っ……!? お、王太后様……何をおっしゃるのですか!」
でも、彼女は止まらない。
困惑の表情を浮かべて首を振りながら、それでも自白を続けている。
「ガ、ガルシア公爵家は……瞳も、魔力も、王家と同じ。……不貞の偽装に、最適だった」
マグダレーナ様は、自分の口から漏れ出た言葉にひどく動揺している。震える両手で口を押さえつけても、言葉は止められない。
「陛下と、アリシアに毒を盛ったのも……この、……っ、わたくし。……証拠も、関係者も……すべて、消させた、つもり、だった……」
蒼白な顔で、彼女はだらだらと涙を流し始めた。
唇は、まだ止まらない。
「アリシア……憎かった。たかが伯爵家が、陛下の、婚約者だなんて。相思、相愛……許せな、い。だから、――正妃、座を、奪った。なのに……妾妃に、するなんて。だから、……殺したの」
マグダレーナ様は、苦しげに喘いでいる。
必死に言葉をとどめようと、過去を隠そうとしているけれど、そんな努力はすべて無駄だ。
「陛下は……わたくしを、愛してくれなくて。実家、圧力で、やっと……閨を。でも……授かれなくて。だ、だから……、わたくし、は…………!」
「っ!!おやめください、マグダレーナ様……!!」
ガルシア公爵の絶叫が議場を裂いた。
「わたくしは、ガルシア公爵と、結んで……ランスを、産んだのよ」
――え?
頭の中が、真っ白になった。
ランス殿下が……ガルシア公爵の子?
前王陛下の子ではなくて?
不貞を働いていたのは、アリシア妃ではなく、この人だったということ……?
マグダレーナ様とガルシア公爵は死人のように青ざめている。議場の貴族たちも、グラディウス様でさえも呆然としていた。
すべての自白を終えたのか、祝印の光がゆるやかに消えていく。マグダレーナ様は糸の切れた人形のように崩れ落ち、そのまま気を失ってしまった。
その傍らのガルシア公爵も、へなへなと座り込んでいる。
……どうやら、私は。
思っていた以上の『真実』を引きずり出してしまったらしい。





