74-空欄だらけの夢リスト
訓練配信を終えた後。
「……なんかムズムズするぽふ」
「えー、どこが?」
「んー、全身、ぽふ?なんか、武者震いってゆーか、変な予感ってゆーか?」
「ふーん」
秘密の特訓部屋で魔法少女たちを鍛え、配信も止めて、休憩も始めた後。解散した魔法少女たちがお風呂に入って休んでいる間に、訓練メニューを書き換えていた穂希に、不安そうな顔のぽふるんがそう申告する。
原因のわからない、毛が逆立つ程の異様な気配。
何処から来てるのかもわからない、よくわからないその感覚に怯えていた。
不思議に思う穂希だが、専門家ではない為答えは出ず。
「……今日は、早く寝よっか」
「うん」
開いていたノートを閉じて、道具を片付けて訓練部屋を後にする。
……最後に、使い慣れたその部屋を見渡してから。
子どもの遊び部屋のような……色とりどりのブロックが積み木のように組み立てられた、カラフルな異空間。親友であり戦友でもあるかの蒼月が作った、その部屋。
力を蓄え、鍛え、昇華する為にある2人の為だけの場。
極光と蒼月を最強にした、怪我も死もない異空間。全て鍛える為だけにある、魔法少女の為の箱庭。
二年経った今でも有効活用している、思い出の場所。
「……私も、色々できるようにしなきゃなぁ」
あらゆる魔法を使える相方と違って、光魔法一択の強撃ブッパが基本の穂希。小細工はあまり得意ではなく、最近回復魔法を含めて多用するようになったぐらい。
蒼月の彼女を相手取るには、まだ手札が足りない。
たった一人で、自分よりも多くの怪人を……それこそ、配信にも映さず秘密裏に実行した、最強を。いなくなった自分の代わりに全てを終わらせ、また始めた彼女を。
穂希は、リリーライトは倒さなければならない。
宙から迫るという脅威にも対処しなければならない……後輩たちと、共に。
「頑張ろ」
改めて決意を固め、穂希は部屋を後にする。
「……あっ、そろそろ運動会じゃん。行ってあげないと、可哀想、だよね?」
───来たる決戦の日が、着々と近付いているなどとは、思いも知らずに。
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“淵源の夢庭園”───夢の国から切り離された異界が悪夢に沈むことで生まれた、女王リデルの固有空間。闇の奥深く、悪夢の深淵に佇むその城の、談話室にて。
夢喰いの名を持つ魔女に、帽子屋が掴みかかっていた。
「僕も占いやりたい!」
「ちょい待ち待ち待ち!首っ!首絞まる!あとあんさんのホンマの一人称って“僕”なんやな初めて知ったわぐえっ、待っ、ホンマに死んじゃうぅぅぅ!!!」
「荒ぶっとるなぁ〜。戸締りしとこ」
「はい御開帳」
「やめろ」
色んな事情で占いを却下されたナハトは、必死の形相でルイユを揺らしている。その傍ではリデルとメードが最近見た漫才の真似をして荒ぶる部下を遠ざける。
そう、この元魔法少女、実は占いに興味があった。
彼女もまた、生まれてこの方占いに興味があり……また興味がありながらも、占いに行ける機会は来ず。ナハトになって、ついぞ……
諦めかけて、いたのだが……
ここには占いの専門家がいて。
「なんでぼ、吾輩はできない!?」
「だってあんたゾンビやん!死んでるやん!死人に未来はないから、占うもんはないって!強いて言うなら過去とかそんなもん!未来は占えん!!」
「……チッ、リデルゥ…」
「あれ矛先こっち向いた?」
「逃げましょう」
死んだことで占える未来は無くなり、ルイユの占いでも見ることができなくなっていた。魔法少女としての役目が終わったら、埋めようとしていたやりたいリスト。
7つ目ぐらいの項目が占いだった。
もう二度と、叶うことのない夢となったが……ある意味これも悪夢となるか。
鬱屈とした雰囲気を醸したナハトは、転けたバカ2人を捕まえて正座させる。
「ごめんなさいは」
「お相子でどうにかならないか…?」
「何故私まで…」
「連帯責任?」
「酷いやっちゃな……んまぁ、占いなんて絶対的なモンやないから。そう気落ちせんといてや。ほら、代わりにこれあげるから。飴ちゃん」
「……美味い」
「手作りや」
「マ?」
受け取ったレモン味の飴を舐めて怒りを鎮め、ナハトは死因とゾンビ2号を解放した。仕方ない。まぁ……確かに占いに頼って生きるつもりはない。
自分の未来なんて知らない方が、臨機応変に動ける……かもしれないから。
そう自分を納得させて、ナハトはルイユ帰還の前までにやっていたクイーンズメアリーの治療を再開する。何故か傷だらけで帰ってきた、天日干しという名目で、こっそり散歩させたのだが。
……傷口から察するに、リリーライトに襲撃されたのはわかるが。
「ill…」
「泣くな泣くな。まったく。処刑魔法連打で逃げ惑えば、ここまで傷にはならんかっただろうに」
「……urr」
「……それで死んだ経験があるから、その戦法はあんまり信用ならない、だとさ」
「ルイユ、わかるのかオマエ」
「ニュアンスで伝わるやろ」
「そうか…?」
千切れた腕を繋ぎ合わせ、折れた首の骨を元に戻して、傷ついた眼球やら外れた顎やら、ブチブチになった筋肉や破裂した胃なども再生して、表面も綺麗にして。なんとか時間をかけて、メアリーを再構築する。
そこまでやられて死なないメアリーも異常だが、それを治せる、もとい直せるナハトもやはりおかしい。
配下の異常性にリデルはドン引きしながら、触っていたメードの雑三つ編みを解く。
「やめてください」
「綺麗にやり直してやる。逆になんであんな汚い結び方ができるんだ」
「そんな……こんな組織やめてやります」
「行き場所ないのに?」
「急に現実突きつけるのやめてもらえますか」
「草」
最近身につけた髪結びを召使いで実践して、好き勝手に弄ぶリデル。職権乱用と何処か和やかな雰囲気に、全員が微笑ましい気持ちになっている中。
談話室の扉を叩く、複数の音。
ナハトが許可を出せば、入ってきたのはオーガスタスと三銃士たち。
アリスメアーの全構成員が集まった。
「ん、どうした?」
「占いされに来ました」
「きまし…た」
「付き添いその1」
「その2だ」
どうやら魔法少女の配信で触発されたらしい。ペローとチェルシーが魔法を使う占いに興味をもって、他の2人は退屈しのぎの付き添いで来たようだ。
仕方ないなぁと受け入れたルイユが、水晶玉を広げて、魔法を使う。
その見覚えのある光景を眺めながら、ナハトは息抜きにココアを一口。
「凶やな」
「なんでぇ!?」
「今年宝くじ買うのはやめとき。死ぬで」
「あっぶねぇ!!」
「……私は?」
「吉や。あの黄色い子、ハニーデイズと交流を続ければ、きっといい人生歩めるで。まぁ、関わりすぎると金銭感覚狂っておかしなるから、程々にな」
「ん。大丈夫。逆張りで近付かないようにするから」
「あれれ?」
不幸の道へ逆走しようとするネコをなんとか食い止め、膝を着いたペローの肩を叩くビル。正反対の結果だが……まぁなんとかなると信じて。
その様子を、ナハトの隣でオーガスタスが見て笑う。
「微笑ましいな」
「……気に入ったかね」
「あぁ。礼を言うよ。誘ってくれて……ところで、兵隊はいつ入荷なんだい?」
「性急すぎ。ちょっと待ってて」
「むぅ…」
忘れてたなんて言えない。
「……うむ?」
そんな時に、次はナハトの背中に張り付こうとしていたリデルが、なにかに気付いたような、ボーッと首を傾げて虚空を見つめ出す。
背後にいる女王の異変に気付き、ナハトが問い質そうと声を発する、その前に。
紅い瞳を見開いて、リデルは呟く。
「───気付かれたな」
爛々と輝く、死の光。
瞳の奥には、紅く渦巻く宇宙が拡がっていて───その異様を間近に見たナハトは、ムーンラピスは、嫌な予感に身を震わせる。
女王の反応が、一体なにを意味するのか……否応にも、すぐに察してしまって。
「まさか…」
「……近いうちに来るぞ。やつらが」
「ッ!」
宙を見上げ、女王は睨む。
───招かれざる厄災が、ユメに惹かれて、この青い星に降り立つまで、あと。




