58-イメージ戦略は程々に
「騙したなーッ!!」
「ごっ、ごめんなさい……」
「うわぁー!!」
「本気で泣いてる……えっ、嘘泣きよね?そんな滂沱の涙流すわけないわよね?」
「あたしはわかる。ガチだこれ…」
「……ごめんね、見窄らしいの見せて……はぁ、表舞台はまだ早かったみたい……」
「チェルちゃん上司の扱いそれでいいの?」
「知らぬい」
ギャン泣きで怒号を上げるリデルが、僕の足に両手足を絡めてしがみついている。うん、何一つ気付いてなかったオマエが悪い。あと涙鼻水がヤバいからやめてほしい。
今の僕、露出の少ないウェットスーツみたいなの着てるから、ねっちょりがすごいんだよね。普段の燕尾服とかと違って、こう、感触が肌にダイレクトに伝わってくる……
いい加減泣き止んでよ。そんなにショックだったの?
ちり紙で鼻チーン。うわっいっぱい出た。ばっちいから焼却処分せな。
「ひぐっ、ぐすっ…」
「……こいつがこんなに泣いてるの初めて見たんだけど。なんだろ……見ちゃいけないものを見てる気分」
「大丈夫、みんなそうだから……いや本当、どちら様?」
「死ねぇぇ」
「ド直球」
マジで幼児退行してる……そんなに魔法少女がいるって気付けなかったのがダメージだったのか。ガチ泣きするの控えめに言って引くぞ。オマエそれでも悪の親玉か?
……ぶっちゃけ指示系統僕が牛耳ってるから、今の親玉実質僕?いやだななんか。
取り敢えず泣き止ませるか。いい加減ウザった、んん、目が腫れそうだし。
……いや、オマエ怯えてんな?この赤いのに。魔法少女リリーライト恐怖症発症してたのオマエ……まぁ確かに、発見次第斬り殺しにくる蛮族だけど。
僕だって同族だろうに。見敵必殺で銃口突きつけるのは変わっとらんよ?
「ほーら、怖くないよ。今日のこいつはプライベート……戦闘時以外は殺し合わない盟約を結んだから。破れば最後地球人口の6割が宇宙にダストシュートされるよ」
「……ほんと?」
「本当本当。吾輩嘘つかない」
「そんな物騒な約束結んだ記憶ないんだけど。少なくとも他責はしないよ私」
「えっ、そんな……記憶が……?」
「おい」
流石に宇宙緊急脱出を強制するのは嘘だけど。こいつがオマエを殺しにくることは、今はないからね。
盟約自体はホントだからね。安心してくれていいよ。
なんかあっても僕が守るさ。魔法少女は敵だけど、宙の敵とはまた違う。宙の連中がこちらに気付いているかは、まだわかんないけど。
……宇宙に警戒網張ろうかな。魔法で飛んで、息止めて頑張ればなんとかなるか……?
魔法少女の宇宙進出はなにも珍しいもんじゃないし。
「う、うそついてごめんね?」
「悪かったわよ…」
「泣き止んで〜、ほーら、ブラックカードだよー。これで好きなの買っていいから〜、ね?ね?」
「お金で解決やめて。いいからしま……どっから出した」
「おっpぎゃふっ!!」
「ごめん殴った」
「いいよ」
姉が放つ謎の圧、今はだいぶ弱まったが、それに怯えるリデルに哀れみを抱いたリリーエーテと、近所の子どもを虐めるみたいな気分になったブルーコメット。
そして何故かお金で解決しようとするハニーデイズ。
何故そうなる。チェルシーは正しい。さしものエーテも見なかった振りするレベルだ。
……ギャグだといいなぁ。金持ちの娘のズレた思考ほど怖いものはない。
「うぅ……魔法少女なんてアクゥームに食われてそのまま素材になってしまえ」
「何故そうなる。方々に喧嘩を売るなバカ」
それ、遠回りに僕もそうなれって言ってるの、オマエら気付いてるのかね。回復したリデルはその後ずっと、肉を頬張りながら魔法少女たちを睨む始末。攻撃には移らない理性はあるようでなによりだよ。
取り敢えず落ち着かせたリデルと魔法少女たちの距離をそっと離しておく。
「……あれ、なんでお姉ちゃん、ナハトさんと……マッドハッターと一緒にいるの?」
「えっ、あ、あー。みんなを探しに海の上を飛んでたら、そいつがクルーザーに乗ってアクゥーム狩りしててね……ちょっと道中斬り合ったり一時休戦したりして、まぁ色々あって今に至るわけ」
「ごめんよくわかんない」
「あはは」
捏造にも程がある。そう易々と他人と斬り合う関係だと思われたくはないんだけど。そりゃあなにも知らない子に説明するには、それが最適解だったかもしれないけど。
まさか魔法少女の生き残り同士、仲良くアクゥーム狩り競い合ってましたとは言えないもんね。
ちなみに、合流の後8体狩った。穂希は9体。おかしいなんで負ける。
……あっ、オリヴァーのこと忘れてた。船酔いが酷くて気絶してたの、普通に忘れてた。
まぁいっか。
「あっ、ちなみにこのお魚さんは、戦闘の余波でたまたま集まったんだぁ〜。勿体ないから全部食べよ」
「それ密漁にならない?大丈夫だよね?」
「………」
「………」
「お姉ちゃん?ナハトさん?」
「……魔法少女はね、魔法が使える不思議な生き物なの。だから、人間の法律は適応されないんだよ!」
「極論だがその通りだ。やーいバケモノ」
「ねぇ!」
ちなみにアリスメアーは治外法権なので犯罪扱いとかはないし、されても魔法という超常を使える存在をどうこうできる法律は、10年経ってもまだないから多分大丈夫。
……警察に捕まったら豚箱行きではあるだろうけど。
うん、法律なくても変わらないかもしれない。海外だと確定で極刑かな?
やめよっか、この話。未来を案じてるみたいでやだ。
その後も、まぁ衝突することは多々あったけど、あんま問題もなくバーベキューを終えられた。追加で足した海鮮その他諸々も、よく完食できたもんだよ。
ちなみに僕はあんま食べてない。ゾンビだからね。
胃を機能させるなら、魔力増幅機能を引き上げて強化に促すもの。
……まぁ、同じゾンビのメードがバクバク食ってるのは目を逸らすとして。
リデルもおなかいっぱい食べて、現実逃避できたみたいだから、よかったねってことで。パラソルで日陰になったサマーベッドでお腹を擦りながら、心地良さそうにお目目細めてるし。うん、気にしなくなったら早いよなオマエ。
満腹で寝そうになってるリデルを見下ろす僕に、同じく興味津々で見ていたリリーエーテ……敵の隣に立つという危機感ゼロの女の子が、ふと頭をこっちに向けた。
目と目が合う。なにかしらん。そんな見ないでよ。
「そういえば……ナハトさんに聞きたいこと、いーっぱいあるんですけど」
「残念、吾輩が答えることはない」
「むぅ……」
質問箱は開けてません。なんかいつの間にか作られてた公式ホームページに問いは投げといてくれ。作ったの誰?あっ、ペローなん?よく削除されてないな?
取り敢えず聞くのはやめてね。君に話すことは、何一つないのだから。
……ん?なんだ、微振動……ちょっと揺れてるな。
「うん?地震?」
「うわわっ、転、ぶっ!!」
「危ないな…」
同時に穂希も気付いて……そんで次第に強くなる揺れにハニーデイズが転けてチェルシーの胸にダイブ……なんか撮れ高できてんなあそこ。
立つのも億劫な揺れになってきたが、ふむ?
……海の中にいんな。これは、あれか。深海にいるから倒さずに放置してた、最後の一体か。
うーん、高魔力反応が10も集まれば、そりゃ寄ってくるよねぇ……
ヨシ、決めた。こいつ魔法少女に処分してもらお!
「リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズ」
「な、なんですか!?」
「うっ、海が膨れ上がって……」
「……君たち3人だけで、アレを討伐してみせろ。今回のあれこれを見逃す為の駄賃代わりだ」
「えぇ!?」
若しくは、帰り道の交通費代わりってことで。
……オリヴァーのヤツ、平気かな。まさか、クルーザー乗ったままでいるわけないよな。陸地あるんならちゃんと退避して吐いてるよな。
あっ、このコテージに連れてきてないのは、配信魔法に映らせない為だ。
「道中、既にリリーライトは9体もの野生化アクゥームを浄化討伐してみせた。なら、今度は君たちの番。なぁに、死にはしない。精々魅せてみろ」
「すっ、好き放題言ってぇ……ちょ、お姉ちゃん!?」
「そこの帽子頭が言ってるのはホントだよー。暇だから、つい競い合っちゃった♪」
「お姉ちゃんッ!!」
呑気にビーフジャーキーを齧って、仕舞いには僕の頭のハット・アクゥームにもお裾分けしている穂希に、やはり危機感というものはなく。
妹がやれると信じて、ここは任せる様子。
まぁ、経験を積ませたいのもあるんだろう。まだ半年、僕の計画を知った今、自分一人だけ強くても話にならないと気付いたみたいだし。
……ここまでこいつの考えが読めるの、なんかやだな。伊達に幼馴染やってないってか。
「ねぇナハト。あれって何人殺してると思う?」
「さぁ……昨今の海難事故を調べるに、アクゥームによる被害はまだ少ない方だが……アレはその中でも、そこそこやらかしてる別格だな」
「ざっと見積もって3桁は軽いかな?」
「ここの近くは海賊とか密漁が多い海域だから、被害者は概ねそいつらだな」
「じゃいっか」
「よくないよ!?」
「善人だろうが悪人だろうが、どっちも被害者になっちゃダメでしょうが!!」
「取り敢えず倒そ!」
正論だね。でもその感覚って大事だよ。僕と穂希は……見ての通り麻痺しちゃってるから。ほら見てみ?今の指摘で、自分の倫理掠れてるのに気付いた先輩がいるよ。
笑顔で取り繕ってるけど、わかる人にはバレバレだ。
……コメント欄も鋭いな。あ、見覚えのあるアカウントちらほらある。
───オオォォォォ…
「ッ」
「でっかぁ…」
「……オレらなにしてればいい?片付け?」
「テメェはそうしてろ。俺はポップコーン持ってくる」
「観戦する気満々ですね」
「ねぇ。気が散るからあっち行っててくんない?」
「はぁーい」
「うい」
……じゃあ、僕はここで見てよ。コテージの柵に背中を預けて、寄りかかって。荒れ狂う海をバックに、ココアをひとつまみ。
あー、風が荒れてなきゃいい画だったのに。
ここまで一気に天候変化できるとか、古龍かなんかかよこのアクゥーム。
「旧時代の夢魔……それも、人を殺した経験のある個体。そうなると、君たちはまだ経験のないタイプだが……まぁ精々頑張るといい」
そんなこんなで海面から顔を覗かせたのは、あまりにも大きな灰色の巨体。つるりと滑らかな表面を持ち、海水と毒々しい体液を滴らせる、海の怪物の代表格。
近寄る船を海の底へ引き摺り込み、その全てを喰らう、十本足の巨大烏賊。
クラーケン・アクゥームが、無人島の全てを平らげんと現れた。
「……で、なんで隣いんの」
「横槍防止でーす。真っ当な理由ですがなにか?」
「取ってつけたような……」
ここまで魔法少女とアリスメアーが仲良くできてるの、昔じゃ考えられないよなぁ。今だからできるってか。でも頻発させない方がいいよなぁ……
イメージ戦略は大事だけど、何事も程々に、だ。
過去との違いを自他共に痛感しながら、僕たちは後輩の活躍を見守るのだった。




