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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
手のひらを太陽に

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48-生き残った女の子


 明園穂希。幼少期に遠方から夢ヶ丘に引っ越してきて、隣家の毒舌ボーイッシュと仲良くなって、御伽草中学校の元気が有り余ってる方の問題児と揶揄される普通の少女。

 いつも穏やかでニコニコ笑顔、元気が取り柄の穂希は、道端で倒れた妖精を介抱したことで、魔法少女となる道を駆け抜けることになる。


 魔法少女リリーライト。“極光”の名を冠する魔法少女になった穂希は、一年半にも及ぶ【悪夢】との戦いを経て、大きく成長した。

 魔法使いとしての才覚、そして剣士としての技能。

 時代が時代であれば、騎士として名を馳せられていた、かもしれない。そんな歴史に名を残せる力を彼女は生まれ持っていて、【悪夢】との死闘で覚醒した。

 類稀なる才覚と、想いの力、情熱、諦めない心……その全てを兼ね揃えた穂希は、最強の魔法少女と呼ばれた。

 相方である“蒼月”と双璧を成す、人類最後の希望とも。


 決して折れず、曲げず、逃げなかった少女は、命懸けで人々を助けた……最期まで。


 そう思われていた明園穂希の生存。その鍵を握るのは、彼女たちと契約した、一匹の妖精だった。








꧁:✦✧✦:꧂








───二年前。悪夢決戦日。戦場となった夢ヶ丘の地上、激戦の余波でズタボロの瓦礫の上で。

 大地が赤く染まる程の出血をする少女がいた。


「……っ、…げほっ、ぅぁ…」


 身体に傷がないところがなく、骨は折れ、手足があらぬ方向に曲がっている……一目で致命傷だとわかるぐらいに傷だらけの少女が、血に溺れて喘いでいる。

 薄く開けられた瞳は翳り、もうなにも映さない。


 魔法少女の変身も解けて、生身で彼女は倒れていた。


 まだ意識を保っているのは───遠くから響く、親友が戦っている音が、聴こえているから。


「っ、っ……ほまれ…!」


 呼吸もままならない彼女、明園穂希の元に、傷だらけのクマ妖精、ぽふるんが、ふらふら飛んで飛びついた。

 全身血だらけの契約者に、血の気の引いた顔で慌てる。

 彼自身、女王の大魔法からギリギリ生還して、なんとか息している状態だが……


 自分の身よりも、穂希を生かす為に。なけなしの魔力で治癒を試みる。

 心臓の上を抑えて、ゆっくりと癒しの魔力を流す。

 胴体に空いた、大きな穴から目を逸らして。

 ……だが、それではよくなるわけもなく。穂希の体調は悪化するばかり。


「ぅ、うっ……どうしよ、どうしたら……!」


 泣きべそをかいて、それでもぽふるんは諦めずに魔力を注いで、近付く死神の鎌から穂花を逃がす。例えそれが、無駄な悪足掻きだとしても。

 諦める理由には、ならないから。


「大丈夫、大丈夫……!ほまれは死なない!絶対!ぼくがなんとかするから!」

「おねがいっ、死なないでっ……!」


 悲痛な叫びが、辺りに木霊する。その誰かを想う心は、遠退く意識を僅かに引き戻す。


「ぅ、ぁ……」

「! ほまれ!」

「…ぽふ、る…無事、だっ、たん…だ……」

「ほまれ!よかった……!大丈夫、絶対に、ぼくが助けてみせるから……!」


 ゆっくりと目を開いた穂希は、霞む瞳で此方を覗き込む妖精にピントを合わせ、先に自分たちを庇って吹き飛んだ仲間が生きていることにまず安堵する。

 そして、自分の状態を、微かに動く右腕に力を入れて、なんとか動かして……感覚のない腹部へと手を添える。

 なにも当たらない、触れない、その空洞に。


「……あはっ」


 彼女の腹部を貫いてできた、大かな風穴───それは、大切な友を庇ってできた、赤き勲章。

 その抉られた傷口に、感覚でつるりと指を滑らす。


「……、ぽふるん、もう…いい…よ」

「え?」

「私は、もう…大丈夫……だか、ら……」

「ほまれ…?」


 どう考えても無理だとわかる───致命傷を受けてまで友を守れた誇りと、こんな危機も乗り越えられそうにない己の不甲斐なさに板挟みになる。

 状況は絶望的。ならば、穂希は優先すべきことを相棒に託す。


「…どの、道……これじゃあ、ね……長くは、ないし……だか、ら……ぽふる、んは……うーちゃん…を、お願い…わたし…は、だいじょー、ぶ、だから……」

「っ、そんなのダメぽふ!ほのかも一緒ぽふ!」


 今も尚、悪夢の女王と戦っている友の為に。

 まだ動けるというのなら、そっちの方へ……一人で戦うムーンラピスを手助けしてと……穂希は、リリーライトはお願いする。


 多くの犠牲を積み重ねて、漸く辿り着いた最終地点……それを逃す訳にはいかないから。

 だが、そんなお願いをぽふるんは受け取らない。


 生半可な言葉では頷かないと、一年半以上に渡る生活で理解している。だからぽふるんは、本音を隠さず、自分の思いをしっかり伝えて、穂希の説得を試みる。

 鳴り響く殺意に怯えながら、震える心に喝を入れて。


「うるあを一人にする気ぽふか!?うるあは、人一倍……ぼくたちの中でも、がんばりすぎちゃう子ぽふ!みんなで一緒に支えないと……いつか、いつか壊れちゃう!!」

「……うーちゃん…」

「ほまれ!こんなとこで死んじゃダメぽふ!!お願い……うるあだけじゃない!ほのかも一人にするぽふか!?」

「っ……」


 悲鳴にも似た慟哭が、穂希の弱った心に打ち込まれる。


───オマエさぁ……


───いい加減にしろよバカ!!わかってんの!?それで僕が納得できるって、本気で思ってんの!?


───ッ、ふざけんな……


───いいよ、わかった。でも、これだけは約束しろ……絶対死なないこと。いい?


 いつも困らせてしまったあの子の顔が、脳裏を過ぎる。死ぬなと求めた曇り顔が、今の自分を責め立てる。

 動かないとと、死にかけた心が奮い立つ。


───おねぇーちゃん!!


───ねっ、やめよ?痛いんでしょ……私、お姉ちゃんが死んじゃうの、いやだよ……


───…わかった。我慢する。我慢するから……


───おかえり、って…言わせて。


 【悪夢】に奪われた両親の代わりに、ずっと見守って、二人で一緒に成長してきた妹が、帰りを待っている。

 行かなければと、死にかけた身体が震え出す。


「だから、一緒に!生きて!迎えに行こう!」


 死に瀕した脳が、生きろと、諦めかけていた穂希の心に訴えかける。


「……お願いだから…生きるのを、諦めないで……!」


 必死なぽふるんの声が、想いが、耳朶を打つ。


 漸く届いた想いに、穂希は無意識に突き動かされて……ボロボロの身体に、全身に、魔力を巡らせる。

 溢れ出る赤を止血して、痛む身体に喝を入れる。


「そう、だよね……生きなきゃ…」


 ぽふるんから注がれる癒しの魔力を受け入れて、必死に命を食いつなぐ。


 ここで死んで、約束破りになるのは……いやだから。


「ほまれ!」

「ごめん、血迷った……生きる、よ……うーちゃんを……穂花を……守んない、と……!」

「っ、うんっ!」


 希望を見失わない穂希に嬉しく思いながら、ぽふるんはもっともっと、自分の命を削ってまで魔力を注ぐ。絶対に死なせないと誓って、みんなで明日を迎えると祈って。

 瓦礫の上で、死にかけの二人が希望に縋る。


 ……だが、その希望を嘲笑うかのように。その頭上に、女王の攻撃の余波が……破壊光線が、降り注ぐ。

 奇跡的に直撃は免れたが……地面が瞬く間に崩れる。


「ぅ、あっ……!」

「ダメっ……ほまれ!!」

「っ」


 崩落する大地に、二人は飲み込まれる。虚空を覗かせる奈落の底に、滑り落ちていく。

 掴まる場所はなく。真っ暗闇に落ちる魔法少女。


 もうダメかと穂希の脳裏に不安が過ぎって───それをぽふるんが否定する。


「一か八かっ……でも、これは……っ、う〜!!ごめん、ごめんなさいっ……」

「…ぽふ、るん?」

「……ぼくを、許さないで」


 手のひらに浮かべた魔法陣を、高速で回転させる。


「うるあ……ごめんっ、ごめん……でも、ほまれは、絶対死なせないからっ!!」

「っ、待って…ぽふるん、待って……!」

「待たないぽふ!きっと、うるあならこっちを選ぶっ……この選択はきっと正しかったって!未来のぼくが、きみが後悔しないように!!」

「ぽふるんっ!やめて!!」

「文句は、聴かないぽふっ……転移魔法、起動!!指定、夢の国っ!!」


 妖精は選択した。目の前の少女を助けることを。

 それは、今も戦っているもう一人の契約者を置いていくことになってしまうが……きっと、彼女なら。穂希の命を優先しろと、叫んで、近寄らせないだろうから。


 例え、全てを押し付けてしまう形になっても。いつか、笑って許してくれると願って。

 今はただ、心優しき少女を守る為に行動する。


 かくして、二人は戦場から消え去った。一縷の望みを、月下に咲き誇る仲間に託して。


「……あれ、私……」

「! よかった!目が覚めたぽふか!!」

「ぽふるん……ぅ、ッ……え?なに、この手……え、え?ええ???」


───それから二年間、二人は療養に務める。

 急拵えの器として選んだクマのぬいぐるみの中、失った体力と魔力、身体を癒して、修復して、回復に専念する。そもそも、目覚めるのに二年の歳月がかかったが……

 蒼月の片割れの活躍を知り、彼女の死に悲しんで。

 まだ生きていると信じて、宛もなく探し回って……後に再起する【悪夢】に、妹をぶつけることになって。


「なんでこうなるの!!」

「ぅ〜!!で、でも生きてて良かったでしょ!?」

「それはそうだけど……そうだけど!!」

「お、落ち着くぽふ〜!!」

「あああああああ!うちの穂花になんすんじゃテメェ!!ぶっころしてやるっ!!」

「あー!!」


 紆余曲折を経て───ほまるんを名乗っていた彼女は、重なった要因を力に変えて、遂に復活。傷つけられた後輩たちを守る為に、手助けする為に、その力を振るう。

 白いマントを翻して、帽子屋という不倶戴天の敵を……何処か懐かしさを覚える彼女に剣を向けた。


「ふぅ……それじゃー、行くよ。覚悟はいい?」


 “極光”の名の元に、戦場に勇者が舞い戻る───…


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