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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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377/378

348-祈りを束ね、この手に


ゴオォォォォォ───…


「で、なんなんですかこれ」

『直球ですね。勿論良いことですが……では、順を追って説明しちゃいますね』

「お願いします」


 立ち上がったディアティナ様の前で、私は正座して話を聞く体勢に入る。足元が花いっぱいで申し訳ないけど……ここってほら、私の精神世界なんだし。

 私が元気な内はずっと咲き誇ってるでしょ。多分。

 そう楽観的に結論を下した私に、ディアティナ様は懇切丁寧に教えてくれた。


 曰く。

 将星エルナトとの戦いで、私の魔力炉を堰き止めていた枷とでも言うべきモノが外れてしまったらしい。なんだかよくわからないが、枷のお陰で今までの魔力出力があったみたい。十分だったね……で、枷がぶっ壊れたせいで私の全部が十全以上のヤバい状態になってると。

 常にフルパワー。力を制御することもできない、と。

 そんでもって、この花園……ディアティナ様のいる精神世界が、その枷というか、蓋だったらしい。

 今ぶっ壊れて、穴だらけの魔力噴出状態だけど。

 下から轟々と噴き出る魔力……その勢いは凄まじいが、頬を撫でる風は痛くない。


 で、一番の問題は……えっ、この魔力意思持ってんの?私の身体乗っ取ろうとしてて?ガチのマジで“悪夢殺し”の生物兵器に変えようとしてるの???推測当たってた?

 マジで言ってる???


『私もここに来るまで知らなかったんですけど……ほら、魔法少女って人の想いとか、そういうのを受け取って力に変えるじゃないですか』

「変えますね。割と重宝してます」

『その想いの中でも、あなたが受け取り切れなかった……悪夢への殺意。それらが蓄積して、溜まったモノ。それがあなたの身体を奪おうとしている意思の正体。殺意渦巻く想いの集合体、とでも形容しましょうか。それがちょっとタガが外れちゃったみたいで、今、暴走してます』

「ふむふむ」


 確かに、浄化の力とかって祈りとか願いとか、善に由来する想いばっか取り込むからなぁ……殺意とか敵意とか、そういう想いは寄越されてもいらないって跳ね除けてきた自信がある。そういう負のエネルギーは、ラピちゃんとかフルーフ先輩とかの専売特許だし……

 ……でも、普通そんな蓄積するもの?

 そういうのって気付いたら抜けてるもんじゃないの?私知らないんだけど。


『あ〜、その。穂希さんは他の誰よりも祈りを捧げられた魔法少女ですから……聖剣というわかりやすい指標とかも相まって、結構集まりやすいみたいで……聖剣の魔力蓄積機能も影響して、こう、抜け切らず……』

「相乗効果でヤバくなってません?え、私ずっとヤバいの溜め込んでたってこと?」

『そうですそうです』

「やっばぁ…」


 あー、ね。聖剣というかマジカルステッキが悪さしてたわけね……やってくれたな、魔法少女のシステムチックななんかめ。私の体内に変なの蓄積すんなよ。発散方法とか習ってないんですけど。ラピちゃんも知らないでしょ。

 いや私が蓄積しやすい体質で、あかんだけなのか。

 えーっ、で。その溜め込まれてたヤツらが今まで静かに渦巻いてた意思の塊が、私が力を引き出そうとした影響で溢れ出て、暴れ始めたわけと。

 すんごい迷惑だね?

 エルナトを足止めする為には、今のままじゃダメだって思って死ぬ気で奮起したのがダメだったとかさ、普通思わないでしょ。


「……えっと、兎に角。今起きてる肉体と精神の分離は、意思の暴走を鎮めればいいってことですよね?」

『そうなります。大丈夫そうですか?』

「ご心配なく!私ってば人類最強なんで!ラピちゃんとは違うんですよ」


 あの子は人間やめたけど。

 私はまだ人間だ。妖精女王だけど。妖精じゃないのに、魔法少女と女王様を兼任できる。今は肩書きだけの名だけ魔法少女だけど……唯一無二の存在だ。

 だから、これからは。

 本能的にわかる。妖精女王としての力を引き出せれば、私はもっと強くなれる。この意思の濁流を制すれば、私はあの子にもっと近付ける。

 大丈夫。いける。


『私の力を、ですか』

「うん。今までは私一人の力で戦ってきたけど……もう、あるもの全部使ってこうって。必要ないから、見向きしてこなかった。戦いが終わった後、復興のタイミングで習得するのがベストかなって、勝手に思ってた」

『確かに、否定はできませんね。私が持つ浄化の力では、命を賭した彼に有利を取れるとは思えませんが……』

「それはそう。だから…」

『?』


 多分、ここでディアティナ様から力を受け渡されるのは簡単だと思う。普通の妖精の契約と同じで、彼女とは直接繋がっているからできる筈。

 でも、それだけじゃ足りないんだ。

 ディアティナ様の力、“浄化の花園”だけでは、私はただ浄化能力が強くなった人でしかない。今いる精神世界も、彼女の本質を表している、と思う。真昼とオーロラ成分は私かもだけど、この花園は、多分そう。

 そんで、初代のメアリーは“秩序の維持”。

 残り十人の妖精女王の本質も、それぞれ違う……そう、だから。


「全部貰います」


 女王の力は継承される。

 メアリーからディアティナ様、そして私へと。今までの連なりが、系譜が、私にまで続いている。今も私の中で、この精神世界に眠っている。

 ……多分だけど、この更に下。

 意思の濁流が絶えず噴き上げている精神の底に、きっと眠っている。いやまぁ、確証はないけど。そうじゃないと説明できない力の渦がある。薄らとだし、ここに来るまで感知できなかったけど……やっぱり、ある。

 直感だけど、ここにあるってわかる。

 そう目線で問いかければ、女王様はこれだから…なんて呆れ顔で見てきた。

 心外。


『ぜ、全部、ですか。む、無理は禁物だと思いますが……これ以上は野暮でしょうね』

「うん、やるって決めたら一直線だから」


 やることは単純。

 意思の濁流を食い止め、黙らせて。その奥にある女王の力を引き出す。私の意志の力で、魔法で、これからの為に投資する。


 ディアティナ様を抱えながら、彼女の背後にあった力の噴気孔を目指す。


『あの!?』

「一緒に行きますよ〜」

『ちょっ、あなたと違って精神体の私じゃ、触れた途端に掻き消えちゃいますって!』

「だから守りますって。道案内は必要でしょ?」

『むぅ…』


 頑張ろう。

 ここを乗り越えて、漸く。最後の妖精女王として、私は真の意味で覚醒できる。

 左腕の中に丁度よく収まる女王様。

 不安そうな顔で見上げてくるディアティナ様に、なんかかわいいなって思いながら。


 身体を持ち上げてくる魔力の圧に逆らって、一際大きな噴気孔を、降りる。


 一瞬の浮遊感の後───私たちは、精神世界の更に下。力の根源がある、奥底へ。

 さぁ、行こっか。

 待っててねサジタリウス。五分で全部片付けて、もっと最強になって……


 戻ってくるからさ。








꧁:✦✧✦:꧂








───殺せ


───滅ぼせ


───赦すな


───受け入れるな


───逆らうな


───従え


───従え


「うるさいな」


 脳裏に響くうるさい音を意思力で切り裂き、精神世界に蓋をされた力の渦を目指す。

 全ては、より強くなる為に。

 先代の力だけでは物足りないと、強欲に、全てを欲して手に入れる。残滓として彼女の内に残ったディアティナを横抱きにしたまま、リリーライトは降下していく。

 底といえば、真っ暗闇だが。

 ライトの精神世界の奥底は───目に毒な程真っ白な、聖浄に満ちた光の世界。あまりにも眩しく、目を瞑りたくなる輝きの底を、2人は落ちていく。

 力の奔流に呑み込まれぬよう。

 意識をしっかり保って、全てに打ち勝てるように、力を込める。


『うわぁ…』


 ドン引きの声を上げる妖精女王は、精神世界の更に下へ確実に辿り着く為の道標……彼女がいなければ、ライトは今頃、罠の噴出口に落ちて虚空を彷徨っていた筈だ。

 それも永遠に、肉体の主導権が完全に奪われたことにも気付けぬまま。


『大丈夫ですか!?』

「モーマンタイッ!」


 真っ白な穴の奥底。

 立ち昇ってくる力の奔流、その根源。空間を更に上回る真っ白な力の塊が、底の代わりに埋まっていた。

 渦巻く光となって、真下から輝いている。

 降りてくるライトを拒むように、怨嗟の声と魔力の圧が叩き付けられるが……ディアティナを横抱きにしたまま、ライトは気にせず降下。一切効いてない様子で、力の塊を目指す。


 耳が痛い。


 目が痛い。


 頭が痛い。


 でも、痛いだけ。精神攻撃にしては弱いと軽視すると、ライトは全て切り捨てる。聖剣は必要ない。意志力という強さをもって、魔力を味方につける。

 痛みなんてへっちゃらだ。

 怨嗟の声なんて、もう聞き飽きた。それも、祈る相手に送る呪いなど、お門違いにも程があると鼻で笑う。それは私に向けるものではない。それを私に向けている時点で、それはおかしい。

 そう豪語するライトは、呻き声にも嘆き声にも、耳一つ貸しやしない。


「せーのっ、せいっ!」


 とうとう力の塊に着地したライトは、躊躇いなく、光を踏み抜く。泣き喚くような怨嗟も、轟くような呻き声も、全て無視して。

 力いっぱい蹴りを叩き込み、光を歪ませる。

 言うことを聞かせる為に、いつも以上の強引さで、己の全てを注ぐ。


 これは試練だ。

 試練なのだが…

 本来であれば、ここで一波乱が起きるのが定石だが……彼女は“極光”の魔法少女、リリーライト。

 幾度にも渡る試練を踏破し、峠を超えてきた英傑。

 ライトにとって、この程度の試練。否、障害など───他愛もない。


───ッ!!


 例えそれが、リリーライトに望まれた殺意だとしても。受け取り手がそれを拒めば、行き場を失い、ただ、この世から消えるのみ。

 ライトは受け入れない。

 かつてならばまだしも、今は、もう。悪夢を殺すという時代は終わった。これからは悪夢と手を取り合える時代。余分な悪夢は幼馴染に渡して、管理させればいい。

 減らしても減らしてもキリがないなら。

 纏めて管理して、溢れた分は……その都度聖剣に無理を強いればいい。


 自己主張するのが遅すぎた。もっと早ければ、ライトもこの力を受け入れていただろう。

 正しく、時既に遅し。

 運命の歯車は、彼女たちの生存と復活により、これ以上外れない。


「でも、捨てないであげる!!」


 そのままでは使えない。

 そのままでは使いたくない。だからこそ、己の望む形に作り替える。渦巻く負のエネルギーを、自分に都合のいい力に変えてしまう。そうすることで、形だけ願いを叶え、リリーライトという信仰対象に追従させる。

 殺意以外にする必要はない。

 望むのは、力そのもの。力に付属する意思など、誰かの残滓など、不要。


 さぁ、寄越せと力強く手を伸ばせば、光の意思集合体は耐え切れずに……

 悲鳴のような音を奏でながら、崩壊。

 どれだけ殺意を溜め込んでいようと、悪意を滾らせて、呪詛を蠢かせようと。

 その身をもって教えてやる。

 聖なる輝きの前では、無駄なのだと───呪いも悪も、等しく平らげる。


 濁流の如き渦を巻いて霧散する光を、ライトはその身に溶け込ませる。

 抵抗はさせない。

 反逆もさせない。

 全てを一つに束ね、正真正銘私の力としてあり続けろと厳命する。


「私と来いッ!!」


 これから戦うのは地球の敵。人類の敵。放っておけば、負けてしまえば、地球に未来はない。全て、星喰い次第の末路を辿ることになる。

 その殺意の矛先を、そっちに向けろ。

 勝つ為に、未来の為に、私に力を貸せと、一滴残さずに吸収する。


「…ふぅ〜……」


 眩い白亜に染まった光の空洞。吹き溜まりとなっていた大きな力の塊は、リリーライトの意志力によって余すことなく取り込まれた。

 霧散していた粒子は精神体に浸透し、還元される。

 ゆっくり溶け込んだ力を、ライトは深呼吸をすることで全身に巡らせ、整える。脈打つ力の抵抗は弱い。そもそもライトに手向けられた力だからなのか、どんな経緯であれ彼女の力になれるからなのか、取り込まれてからは大した反発もなく、順調に彼女の力となった。

 身体を乗っ取ろうとしてまで殺意を滲ませていた力は、思いの外あっさりと沈静化した。

 肩抜かしとも言える結果に、そんなものかと肩を竦めてライトは笑う。


『調子はどうですか?』

「うーん、特になんともないかなぁ。ちょっと肩透かしの気分ではあるけど」

『良いことだと思いますが……そうですね、あの集合体は元々あなたに向けられた力です。あなたがそうあれかしと望んだのならば、そのように変化します。憎悪を宿したと言っても、結局のところはあなたの為の力ですから』

「道理で楽々なわけだ……どっちにしろ、ちゃんと使ってあげなきゃだね」


 空いた手を何度か握り締めてから、宙に浮いたライトは決意を固める。どんな形であれ、自身に向けられた祈りを無碍にすることはできない。

 殺意の在り方が気に食わなかったから否定したが……

 使えるモノはなんでも使う。そう決めたからこそ、もう迷わない。


 先程までとは違う充足感に浸りながら、ライトは視線を真下に下げる。

 この空間に来た、もう一つの目的。

 殺意の集合体に蓋をされ、隠れていた───十一色の、温かな輝き。


「あれが…」


 連綿と受け継がれ、リリーライトの奥底で輝き続けた、歴代妖精女王たちの力、根源。

 その一つ一つを、ライトは眩しそうに見る。


『どうぞ、手に取って。リリーライト。あなたには、その資格がありますから』

「……また、会えますよね?」

『ふふっ、そう悲しい顔をするんじゃありません。大丈夫ですよ。会えない時なんて、ありませんから。安心して、己の務めを果たすのです。さぁ、いってらっしゃい!』

「……はいっ!いってきます!」


 別れの挨拶も程々に。二人で笑い合って。


 先代に導かれるまま、迷うことなくその手を伸ばして。力の根源の一端に触れた、その時───やさしい煌めきにライトの視界は、そして意識は呑まれて行き。

 手を振るディアティナに見送られるまま……

 現実世界へ、帰還する。


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