表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

372/378

343-幸せな君はにゃあと鳴く


 大樹を薙ぎ倒す。

 砂塵を焼き尽くす。

 魔星古城の上層部を溶岩拳が吹き飛ばし、瓦礫が宇宙に吹き荒ぶ。


「オラァッ!!」


 義憤に燃える一匹狼、リュカリオン。脇腹に大きな穴を空けられた彼は、それでも尚、怒りという感情で通常より底上げされたパワーをもってセチェスに食らいつく。

 アドレナリンが止まらない。

 種族柄と言ってもいい不屈の闘志で、戦う国王の鳩尾に蹴りを叩き込む。


「ぐぅ!?や、やるのォ!!」

「うるせェ!!んな関心してる暇があんなら、ぶっ飛んで延びてろやッ!!」

「そいつは無理な相談じゃもん!!」

「ッ!」


 だが、セチェスは耐える。

 どれだけ深手を刻まれようと、セチェスもまた、国王のプライドを振り翳し、将星としての維持をもってあらゆる攻撃を耐え忍ぶ。

 血反吐はこれでもかと。

 骨は何本も折れ、内臓は既に幾つか機能できない状況に陥った。


「ちょっと〜」

『私たちのこと、さ』

「忘れないでよねッ!」

「がふっ!?」


 砂塵で防御、溶岩で防御……そこに更に、特大障害物のヴュートンヴァールを掃討したブランジェとフルーフが、重力と呪詛という、二つの重い力で介入していく。

 生身の槍術と霊体の技、どちらも十全に対応するには、圧倒的に手数が足りない。

 それでも、セチェスを倒すには至らない。

 これでもかと、死ぬその時まで暴れ続ける、戦うことをやめない姿勢を見せつける。魔力の圧は一向に収まらず、セチェスの身体のあちこちから、噴気孔のように勢いよく噴き荒れ続ける。


「重力魔法!」

「紅蓮魔法ォ!」

『歪魔法!』

「邪魔じゃ邪魔じゃあ!!さァ、樹海よ!砂漠よ!全てを平らげるんじゃもん!!」

「させるかァ!!」


 何処までも粘り強く、見方を変えればウザいと言える程奮闘するセチェスは、禁じ手の三段手法……なんと、三度ヴュートンヴァールの顕現を実行。

 その数、まさかの12体。

 戦闘行為に不要な余分な魔力、全てを使った嫌がらせ。

 何度破壊されようと無慈悲に再構築する。その暴挙には流石の魔法少女たちもプッツンとキれて、ブチ切れながら地団駄を踏む。


「ふっざけんな!!」

『遅延行為ウザいんだよッ…』

「お主らの嫌がることをする。当然のことじゃもん。まぁ余の魔力も無限ではない。ここら辺で潮時じゃろうて……故に、仕舞いとしようぞッ!!」

「!」


 虹光の怪物鯨を複数従えて、それぞれ3人に体当たりを仕掛けさせる。旋回する巨体が交互に、または同時に加速突撃してくる攻撃。

 ブランジェのように盾で防げれば。

 フルーフのように霊体で透過できれば。

 邪魔なだけで脅威ではないが……リュカリオンの溶岩でヴュートンヴァールは止まらず。熱など無視して、何度も体当たりを仕掛けてくる。

 その度に、身体が打たれ、弾かれ、潰される。

 ブランジェが重力反発を行って、なんとか呼吸可能まで落ち着いたが……


 その隙を、セチェスは見逃さず。


 魔力を帯びた三叉戟に、もっともっとと魔力を注ぎ……黄金色を、更に輝かせ。


「界裂きィィ!!」


 生命力も賭した一撃が、空間破壊の横断となって戦場に放たれる……


 その寸前。


『……ん?』


 フルーフの魔力探知に、一つ、異様な……今までここに無かった反応が引っかかる。今この場でそれを探すのは、愚の骨頂であることは、わかっているが。

 どうしても引っかかって、視線を彷徨わせ……

 背後、守るように背を向けていた亡骸にピントが合い、それを見つけた。


 チェルシーの遺体の右手に───薄紫色の宝石を宿す、小振りの杖が。


『…アレは……マジカル、ステッキ…?』


 何故それが。

 そんなものが何故、と。唐突に現れた魔法の杖を見て、疑念を口にしようとするが……その行動は、チェルシーの亡骸から溢れ出た、膨大な魔力の発露によって遮られる。

 突然の反応に、全員の意識が向く。

 なにせ、その魔力は───セチェスが放った斬撃技を、放射状に広がった光が触れた途端、軌跡も残さずに全てを消し去ったから。さしものセチェスも、この異常には警戒する他なく。


「な、なんだ?」

「なんじゃ、置き土産か?」

「チェルちゃん……?」

『……まさか。いや、だが……そんなことが、ありえる、のか?』


 困惑の輪は広がり、フルーフだけが、魔力の流れを見て現象の意味を推測できた。

 ありえない話だ。

 そんな馬鹿なと否定するフルーフだが……その割には、彼女の表情に毒はなく。現実味がないせいで引き攣ってはいるものの、笑顔が浮かんでいて。

 フルーフの期待に応えるかのように───夢幻の力が、蠢き出す。


「!?」


 少女の身体を貫いたまま、放置されていた三叉戟。その全てが、魔力の発露に当てられて、蒸発。

 槍が消えた後に見える筈の傷口は、どこにもなく。

 いつの間にか、血痕すら消えていて……戦闘痕のない、身綺麗な姿で横たわっていた。


 死が否定される。

 覆されて、元通り。

 夢幻の魔力で、全ては無かったことに。現実は夢幻へ、ただ、望みの夢と現実が、入れ替わって……全員の視線を独り占めにする少女の指が、ぴくり、と反射的に動く。

 桃色と紫色の横縞オーラを、その身に纏い。

 マジカルステッキを握り締めると同時に───少女は、目を覚ます。


「“微睡みの底、幸せな夢を”」


 詠唱。

 その祝詞は、地球が誇る戦乙女に変身する為の、ユメを形に変える魔法の言葉。

 少女の希望を具現化する力。

 悪夢の住人でありながら、資格ありと、世界にその名を知らしめる。


 マジカルステッキが、目映い輝きを放って───肉体が空中に浮かび、光に包まれる。

 魔法の杖を掲げて、少女は告げる。


「マジカルチェンジ───!」


 煌めく夢の光。

 幸せな日々を守る為、形にする為に。夢に生きる少女は希望に手を伸ばす。


 パジャマをベースに魔改造した、フリフリの戦闘衣装。睡眠をこよなく愛する彼女のイメージを最大限に表現した魔法少女のコスチュームを、その身に纏い。

 頭の上に、猫耳を象る白いニット帽を被って。

 猫耳がついたマジカルステッキを持って、夢之宮寝子は新生する。


「魔法少女、えーっと……ナハトニャート…んー、あー。チェルシーのままでいいや」

「復活、いぇい」


 “夢猫(むびょう)”の魔法少女、ナハトニャート───夢幻を司る、新たな魔法少女の誕生である。

 片手ピースで、存在アピール。

 死の淵より蘇ったチェルシーは、魔法少女として世界に産声を上げた。


「ふぁ!?」

「えっ、お、おう……は?」

「な、なんじゃと…」

『……幻覚じゃないん、だよな?嘘だろ?マジで、それがありえるのか…?』

「がんばった」


 死んだ仲間の復活。先輩二人と戦友は、あまりのことに理解が追いつかず混乱してしまう。喜ぶよりも前に困惑が勝ってしまうのは、まぁ無理もないこと。

 彼女たちより困惑の渦にいるセチェスは、眼前の奇跡に動揺するしかない。その動揺に対して、ナハトニャートを名乗るチェルシーは容赦なく攻撃。

 ステッキから夢幻の魔力を迸らせ、発動。


「夢幻魔法───<スマイリー・キャットメアー>!!」


 魔力によって構築された、大きな猫。イヤらしい笑みを浮かべる猫の顔は、ゴロゴロと無い喉を鳴らしながら杖を飛び出し、セチェスに襲いかかる。

 満面の笑みで牙を剥き、その喉笛を狙う。

 当然ヴュートンヴァールがその進路上に立ち塞がるが、残念なことに。


 その妨害こそが、チェルシーの狙い通りで。


ニャーゴッ!!


 猫は鳴き声と共に、ヴュートンヴァールに狙いを変え、容赦なく噛み付き。

 半透明の牙から夢幻の魔力を浸透させて……

 食らいついたヴュートンヴァールを解析して、そのまま夢幻の魔力を、同じ仮想構築体である他の個体に、干渉、そして感染させる。

 同じ魔法由来、魔力由来の生き物だからと。

 古城にいた全てのヴュートンヴァールを、夢幻の魔力で無秩序に消滅させていく。直接接触している必要はない。同位個体だからと、強制連鎖で夢に溶かしていく。

 大元であるチェシェルキャットのように、魔法を消去。

 一瞬にして虹光の怪物鯨たちは存在を溶かし……痕跡も何も残さない。


「なっ、に!?」


 魔法少女に覚醒したことによる、魔法の強化。先程まで不可能だったことが、元・妖精との本契約によって可能となったわけだ。

 夢幻の強化に伴い、チェルシーの危険度は倍増。

 かつて覚醒したリリーエーテが捨てた殺傷力を、欠片も捨てずに運用する。


「おぉ〜っ!すっご!」

「よくわかんねェが……やるじゃねェか!あと、なんだ。もう平気なんだな!?チェルシー!」

「ん!心配かけてごめん……もう、だいじょうぶ」

「そうか!」

『……こういう時は、ただいま、おかえり、って言うのが定石だよ』

「!」


 口々にチェルシーを褒めていた夢星たちは、フルーフの言葉に顔を見合せて……

 ニカッ、と笑い合う。


「おかえり!」

『おかえり』

「ハハッ、そうだな。おかえり!」

「っ……うん!ただいま!」

「あはっ!なんか恥ずかしがってる?もー、かわいいとこあんじゃん!ね!ね!」

「ちょっ、いた、やめ…」


 気恥しそうなチェルシーの背中を叩いたり、さり気なくハイタッチしたりと、彼女の帰還を、そして強化を全員で喜び合う。尚、先輩風吹かしたブランジェは、フルーフの呪鎖で天井に一瞬吊り下げられた。

 閑話休題。


「ぬぅ……こんなことが、起こり得るとは……成程のぅ。これが、魔法少女か…」


 困ったように眉を下げるセチェス。予想外の連続、死を克服するとは思ってもいなかった彼は、己の勝ち筋が完全に断絶したことを理解する。

 今のチェルシーの肉体は戦闘前の無傷のそれで、戦闘で負った傷は全て無かったことになっている。

 そして、魔法出力も全て向上……

 ただでさえ厄介な夢幻魔法は、当たれば確実に死ぬまで至っている。


 更に恐ろしいのは……夢幻の力で、仲間が戦闘で失った体力や魔力、傷すらも。

 全て、無かったことにできること。


「な、治りやがった…」

「現実否定?改竄?いやすごっ……流石はラピスちゃんが選んだ子!ってとこかなぁ」

『あぁ、私の霊体は直さないでいいよ。このままの方が、好都合なんだ』

「ん!」


 身体欠損、失血、魔力切れ……あらゆる勝ち方が、全て根本から覆されてしまう。

 中・遠距離、バフ・デバフ、攻守万能の多様性。

 近接格闘能力の低さと、総HPの低さ、防御力の低さが懸念となるステータス配分だか……欠点を抜きにしても、チェルシーが厄介なことに変わりはない。

 そこにリュカリオンという耐久勝負、ブランジェという高火力、フルーフという呪詛デバフが噛み合えば……勝つ未来など、遥か遠くに。手の届かない羨望に成り下がる。

 圧倒的不利。これ以上にない逆境。

 ……それでも、セチェス・バテン=カイトスに、敗走の二文字はない。


「挑まれる側から、挑む側になったわけか……いやはや、立場が入れ替わるとは思わなんだ」

「……降参するなら、今の内。どうする?」

「戯け。余には、お主を覚醒させた責任がある。ならば、その負債は、芽が若い内に片しておくべきじゃろうて……故に、チェルシーよ。蘇って早々悪いんじゃが……また、死んどくれ!!」

「絶対、ヤ!」


 闘志不滅。

 ナハトニャートという新たな魔法少女の誕生を招いた、責任を取らんと。


 残りの命、全てを捧げた───鯨の王の、最後の抵抗が始まる。


“夢猫”のナハトニャート

───夢之宮寝子が魔法少女として覚醒した姿、その名。チェシェルキャットとの契約によって、夢幻魔法も真価を発揮した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔法少女!?魔法少女だ!?ナハトニャート!!パジャマ風フリフリ衣装に猫耳ニット、ステッキにも猫耳がついて可愛いの詰め合わせ過ぎる……。二度と死なない、死なせないと言わんばかりの魔法強化でつよつよだ。 …
「悪夢」の適者から「魔法少女」の「夢猫」 「魔法少女」の資格を持っているのに「悪夢」になる住民の「メード」 二つの全く対照的な結末 日常に戻ると(悪夢と魔法少女の戦い)「夢猫」はどのような立場になる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ