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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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339-王国覇者、進軍す


 “クジラ森の王国”。

 元は暗黒宇宙から十六光年ほど離れていた惑星国家で、外界からの侵略戦争に常に苛まれ、終わりのない戦乱の世を百年単位で過ごしていた、三千年の歴史を持つ国。

 栄光は翳ることなく、王国は栄え続けて。

 国の平和の為、民の安寧の為に、接近した暗黒銀河とは敵対を選ばず、属国となったが……それでも、セチェスが治める王国には、約束された繁栄に満ちていた。

 200歳の若さで即位し、現在800歳。

 種族的な寿命を考え、生前退位を願っているセチェスの王国は、真に友好国となった各星との交流が盛んとなり、更なる発展を、希望の星の元、歴史を紡いでいった。

 今年は、大きな節目を迎える歴史の転換点。

 将星の打診を承諾したセチェス・バテン=カイトスは、宇宙ではあまり見られない……“協力型”の戦士たちと相対する。


「やめろー!」

『浄水器ちゃんはナイナイしちゃおうね〜』

「ふざけるなー!!」

「……なんか、哀れだな。将星でも、魔法少女にかかればこうなっちまうのか……」

「特殊例だと思うよ?」

「うんうん」


 戦力外通告、人質にすらならない手のひらメーデリアをビン詰めにする魔法少女二人。ポルターガイストの要領でフルーフに捕獲されていた水の精霊は、ブランジェの腰に吊るされることになった。

 その儚さにリュカリオンは思わず無常を抱き、敵対中のセチェスも無言で頷き同意した。

 ここは魔星古城。恒星異空間の旧首都。

 “鯨貪呑禍”の戦場として選ばれた要塞は、夢星同盟との戦闘により、大きく崩壊。魔力吸いの木々が鮮緑をもって生い茂り、流砂が床に流れ込み、ヴュートンヴァールなる虹光の怪物鯨が悠々と宙を回遊する。

 そんな戦場に追加投入された魔法少女が、ブランジェとフルーフ。チェルシーとリュカリオンの応援として2人は駆け付けた。


 一瞬緩んだ空気はすぐに掻き消え、戦意漲る夢星たちと鯨王は対峙する。


「バッフォッフォッフォッ……成程のぉ。これが魔法少女であるか。死人であるのが至極残念じゃもん。生者でさえあれば、もっと楽しめるのじゃが」

「えー?なんでさ。退屈はさせないよ?」

「なにせ死者の冒涜じゃからなー。余の国では忌避される要素満載じゃもん」

「万国共通でしょ、それは」

『地球がおかしいっていうか、死んでも戦ってるうちらがおかしいっていうか、ねぇ?』

「それも言わないお約束」

『だね』


 見てわかる強さ。

 リュカリオンとチェルシーという若き天才、今を生きる成長途中の強者との戦いも好ましいが……既に完成された強者たちと戦うのも、また一興。

 生者でないことは気掛かりだが、拒絶まではしない。

 物足りなさはない。心血が沸き踊る戦いになることは、確信しているから。


 言葉はいらない。


 ただ、暴力をもって、己の絶対性を。勝利を、たらふく平らげるだけ。


「では、往くぞ」


 黄金の三叉戟を煌めかせ。

 闘争心に従う老王は、心ゆくまで。最後の戦いに、その身を投じる。








꧁:✦✧✦:꧂








 将星“鯨貪呑禍”に挑むは、夢星同盟の若き天才たちと、彼岸より蘇った英雄たち。

 “歪夢”のチェルシー。

 “赤銅”のリュカリオン。

 “力天使”のエスト・ブランジェ。

 “虚雫”のマレディフルーフ。

 夢幻が、溶岩が、重力が、呪詛が、たった一人の戦士に向けられる。複数の方向から飛来する攻撃を、セチェスは黄金の三叉戟を巧みに振るって捌き切る。追加戦力としてやってきたブランジェの重力は、重さには対抗できないと切り裂く方向で捌き、重力弾を破壊。フルーフの呪いには直感が警鐘を鳴らしまくる為、チェルシーの夢幻と同じく回避を選択。


 ……そして、夢星同盟の敵はセチェスだけではない。


ヴォォォォォ───…


 二つの魔法を掛け合わせた七色の怪物鯨、その再現物。ヴュートンヴァールという巨大質量の怪物が、戦闘中にも関わらず、古城内を悠然と回遊している。

 大自然の化身は、空中を泳ぎながらも夢星へ攻撃。

 波紋を描く光の身体から、幾つもの魔力光線が夢星へと撃ち込まれる。古城の古びた壁を容赦なく貫き、穴ボコにする攻撃の数々を、チェルシーたちは跳ねるなり飛行するなり回避する。二つの脅威に対し、同時に相手取る。

 その最中、空駆けるブランジェの重力拳が、ヴュートンヴァールの腹を穿つ。


「かった!?」


 だが、その拳は波紋を描くだけで……怪物鯨には一切のダメージが入っていない。樹海魔法と砂漠魔法で造られた仮想生命体であるが、セチェスの手によって特性までもが再現されている。

 云わば、物理無効。

 魔力を纏っていようと、それが物理であるのならば。

 光の魔力で受け止め、包み込み、無害な一撃へと変換を可能とする。


「道理で!物理のリュカくんがどうこうできてないのは、そういうことね!?」

「……あと、私の夢幻も効果はイマイチ」

「マジでぇ?ふーん。ヤバそ」

『面白い術式構造だね。解析したら身になりそうだけど、別にいらないかなぁ。なんせ持ってるし。あぁ、そのままぶち当たればいいと思うよ。やりようは幾らでもある』

「指図なんていらないよ。わかってるしね」

「頼りにしてるぜ、魔法少女」

「もち!」


 冷静に怪物鯨を分析しながら、攻防を入れ替え続けて、同時に二体の鯨を相手取る。それを可能とするだけの力を2人の魔法少女は有している。

 戦闘が膠着していた訳に納得したブランジェは、握った天砕きの槍の矛先を天に掲げ、重力波を放出させる魔力を勢いよく収束させる。その上にささやかではあるものの、フルーフが魔力支援を行うことで強化する。

 高まる魔力の圧で、空気が振動する。

 否応にも感じる圧に、ヴュートンヴァールはゆっくりと旋回しつつ冷たい視線を送る。その輝く虹の瞳に危機感は灯らない。何故ならば、所詮は仮想生命体が故に、本能と呼ぶべき機能を持ち合わせていないから。攻撃への恐怖や危機感は生まれず、ただ、機械的に攻撃を退けるのみ。

 そんな非生物の欠陥を持つ故に、本物とは一歩劣る。

 ……無論、劣っていようとその強さは健在。防衛機能が働き、その口腔に迎撃の魔力を溜める。

 同時に。


「余を忘れてくれるなよ?」


───海裂き<ネプチュード>


 流砂の上に立ったセチェスが、ブランジェの魔法を失敗させんと浮上、直進。三叉戟を横薙ぎに振るって、魔力を臨界点まで高める天使に邪魔をする、が。

 その斬撃は、滾る溶岩拳によって真っ向から破壊され。

 熱波が、セチェスの頬を掠め……リュカリオンが老王に食らいつく。先には進ませないと、邪魔はさせまいと……肉体の全てを使って、鯨の躍動を阻む。

 拳と槍の鍔迫り合いが、空中で起こる。


「テメェの相手は、俺だッ!」

「若造めが……独り占めとはいかん!お主の勇ましさは、評価に値するが……それだけで余に打ち勝てると、本気で思っておるのか!?」

「るっせェ!!」


───紅蓮魔法<クリムゾン・ラヴァーハンマー>


 鬱陶しげにしながらも、セチェスは楽しそうに攻撃的な笑みを浮かべる。自分の思い通りにいかない戦いを、彼は心ゆくまで楽しむ。リュカリオンがセチェスと拳を交える度に荒削りだった身体捌きが洗練され、成長しているのが手に取るようにわかり、高揚しているのもあるが。

 槍を手早く避けて、セチェスに殴り掛かる溶岩の拳。

 幾つかは捌けたものの、何発か被弾。強靭な皮膚が熱と溶解を遮るが……何発も何発も、重ねるように同じ箇所を攻撃されたことで、打撃を受けた皮膚が激しく発熱する。

 セチェスは肉体の衰えを感じながら、赤熱する身体から溶岩を引き剥がす。


 焼け落ちた皮膚など気にも留めず、ただ殺し合う。


『邪魔は得意分野さ』

「数回効かなかったぐらいで、試行は止めてはならない。魔法の世界においても、それは同じ……でも、仕方の無いことはある。だから、アプローチの仕方を変える」

「そうそう♪諦めるなんて、バカのやることだよ!」

『歪魔法ッ』

「重力魔法───<エンジェライト・ピアス>!!さぁ、ぶっぱなせ!!」


 ヴュートンヴァールの身体に呪いが犇めき、影の底から不定形の人型が大挙する。溢れんばかりの呪いは、肉体の表面を走る魔法減退効果を、著しく低下させていく。

 無論、怪物鯨は静かに咆哮を上げて抵抗。

 迫り来る重力塊を冷たく睨みつけ……

 後先考えない底力で破壊を試みる魔法少女たちに、鯨は大きく顎を開く。


オオオォォォォォォォ───ッ!!


 溜めに溜めた魔力光線が吹き荒ぶが……螺旋状に渦巻く細長い重力塊と、衝突。凄まじい速度で床を直進し、その進路上の全てを抉り取った光線と、重力塊は一瞬拮抗。

 暴力的な衝撃の嵐、両者の間で荒れ狂い……

 勝敗を分けた要因は、フルーフの支援を受けているのか否か。


「ぶっ潰れろぉ!!」


 声を張り上げたお陰か、槍状の重力塊は破壊光線の中に潜り込み、貫き、まっすぐ直進する。

 光線の内部で荒れ狂い、内側から霧散させ……

 口腔から虹の輝きを失ったヴュートンヴァールの、腔に突き刺さって、炸裂する。着弾と同時に、重力塊は激しく渦巻くまま、勢いよく肥大化し、膨張を繰り返して。

 体内に重力場を構築。

 一切の逃げ場がない仮想空間である体内で、肥大化した重力は暴走して。


 秒と経たずに───重力崩壊をもって、内側から怪物を破壊する。


───ッ!?


 音にならない悲鳴と共に、ヴュートンヴァールの頭部が爆散する。ただでさえ硬かった光体も、魔法減衰効果も、全て打ち砕いて。

 重力崩壊によって、大自然の化身は崩壊。

 頭部を失った躯体が、だらんと床に落ち、地響きと共に沈む。


「やったぜ」

「参ったのぉ!まさか一撃とはな!」

「ふふん!んまぁ、リュカくんが足止めしてくれてたお陰だけどね〜」

「別に大したことじゃねェよ!!」

『照れてるねぇ』

「うるせぇ!」


 赤面するリュカリオンを無視して、ブランジェは一瞬で彼の肩に飛び乗り、そのまま跳躍。豪快に笑うセチェスに武器を突き付け、攻撃を開始。

 昇天するかのように光の粒子が舞い散る中、再び重力の重低音が戦場に鳴り響く。

 そこに、フルーフの呪鎖やリュカリオンの溶岩拳。

 そして───今の今まで、魔力の凝縮と活性に集中していたチェルシーが、可視化できるほど固めた魔力の塊を、両手で抱えたまま走り出す。

 絵面は完全に煤渡りだ。


「何を企んどるんかは知らんが、余には届かん!」


───砂漠魔法<ヴュステ・ホエール>

───樹海魔法<ヴァルト・ホエール>


 右手に砂漠、左手に樹海。二つの魔力をクジラの形へと形成させ、回遊させ。五人の戦場の左右を分けるように、膨張と萎縮を終えたクジラから、砂漠と樹海が溢れ出る。

 玉座の間という限られた空間に、凄まじい密度の樹木と砂塵が渦巻く。


「でたよクソ技!」

「チッ、邪魔だなこんの!!」

「バフォフォフォフォ!ほれほれ!余は元気じゃぞぅ!!足掻くんじゃもん!!」

「べーっだ!」


 存在するだけで魔力を奪う樹木と、可視化できるモノと可視化できない微粒子の砂塵。一粒一粒が剣を止められる高密度の砂塵を操りながら、セチェスは三叉戟を振るう。

 否応にも魔力を奪われる環境で、魔法が吹き荒ぶ。

 ブランジェとリュカリオンは、魔力消費を抑える為に、最小限の動きを取ることを強要されるが……

 フルーフとチェルシーは、その限りではなく。

 霊体故に樹木も砂塵もすり抜けられるフルーフは、一切止まることなく、浮遊したまま突貫。同じく霊体化させた呪符や呪鎖を振るって接近。夢幻の力を操るチェルシーは障害物を雑に消し去り、忙しなく駆ける。勿論、他二人の援助もしながら。


『無駄だよ』

「成程のぉ!バッフォッフォ!末恐ろしいのぉ、霊体とはなんとも面妖なッ!!」

「…私もいるよ」

「なんならみんないるよ!」

「消えちまえば、こっちのもんだッ!!」

「そうかもじゃがのぉ〜……こうも手早くやられてはな。まったく!」


───歪魔法<ドローミ>


───紅蓮魔法<ラーヴァウルヘッド>


───重力魔法<エンジェルビーツ>


───海裂き<ネプチュード>


 霊体故に貫通するフルーフの呪鎖が、セチェスの胴体に巻き付き、拘束。リュカリオンの溶岩狼と、ブランジェの重力刺突が殺到する。逃れることは赦されない。

 自由な両腕で三叉戟を振るい、なんとか防御に成功。

 だが、そこにチェルシーが正面から忍び寄り……夢幻の魔力塊を、自身の魔力の七割を注いだ、高濃度の夢幻を、鯨王の胸へ。


「ぬっ!?」

「命の保証はできないけど……頑張って、耐えてね?」

「あっこれヤバそう!総員退避!!フル先輩はそのまま!そのままいてね!?リュカくん速くッ!!」

「お、おう!?」

『えっ、いや、これ…』

「せーの」

『マッ』


───夢幻魔法<アンチ・ドリームコア>


 退避する二人など目もくれず、嫌そうに目を彷徨わせるフルーフのことも気にせずに。チェルシーは溜めに溜めた魔力の塊を、セチェスの胸、至近距離から。

 躊躇うことなく……

 爆破させる。


「がァッ!?」

『ぐぅっ───!?』

「ッ!」


 夢幻の魔力が迸り、凄まじい魔力風が吹き荒れ、衝撃が荒れ狂う。至近距離で放たれたセチェスは、身体を震わす振動と衝撃によって、血反吐を吐いて吹き飛ぶ。そして、術者であるチェルシーも反対側に吹き飛び……

 霊体であるフルーフにも、夢幻の力は作用して。

 炸裂した夢幻は、魔力の塊であるフルーフの姿が、一瞬掻き消されかける程度のダメージを与えた。とはいえ存在維持には問題はなく、少々乱れた程度で目くじらを立てる話ではない。

 夢幻の力は繊細故、暴発寸前の力の塊をぶつけるには、自爆覚悟で突貫するしかなかったわけだが。

 味方への損害は、限りなく低い。


「二人とも大丈夫そうだね」

『そりゃあ見かけ上はな???』

「……ごめんなさい。あなたなら大丈夫かなって思って。えっと……ダメ、だった?」

『いや全然。扱き使ってくれていいよ。その方が、殺意もなにもかもが薄まるしね』

「なにそれ怖っ…」

「……魔法少女ってのはヤベェのしかいねぇのかよ」

「今更」


 予め構築していた防御障壁で軽傷に収めたチェルシーの自爆技。フルーフという死なないことには定評のある亡霊を巻き込む前提で放った、夢幻の発露。味方を巻き込んだ決死の一撃によって、セチェスは沈黙を貫いている。

 爆風で吹き飛ぶ最中、ブランジェが見た限り……

 夢幻による消滅により、腹の肉がまろび出ていたことは視認できている。咄嗟の魔力防御で、ダメージの緩和には成功されてしまったようだ。それでも内臓へのダメージはかなり期待でき、余程のことがない限り、立ち上がれない筈なのが……


 ユメ色の爆煙は、未だ晴れずモクモクと立ち込める。


 爆煙の向こう側は伺えず……魔力探知で、漸く見えない輪郭を掴むことができるだけ。探知が苦手なリュカリオンを含め、一同は警戒を怠らずに注視して……

 煙の奥の躍動を。

 呻き声を掻き消すように、爆発的な魔力の高まりが再び観測できた、その瞬間。

 煙が晴れる。


ボォォォエェェェェ───…


 現れたのは、虹光の怪物鯨。ヴュートンヴァール───先程と違い、その数は九体。再び顕現した大自然の化身が宙を泳ぎ、超質量をもって爆煙を突き破る。

 玉座の間を大きく、空間を更に占有する怪物の登場。

 夢星同盟がその巨体を視認した瞬間、開け放たれていた口腔から破壊光線が、計九本。彼女たちの命を奪わんと、真っ直ぐ戦場を横断する。

 追加された絶望の再再生。チェルシーとリュカリオンが体験した見覚えのある光景が、更なる絶望を伴って帰ってくる。


「チッ、またかよッ!」

「うっわ増えた……フル先輩、拘束は?」

『できてるよ。ほら』

「それなら安心、かな?」

「……んーん。それは早計かも」

「!」


 正面に突き刺さった天守りの盾に守られた、その後ろ。これ見よがしに、セチェスと繋がったままの呪鎖を引いたフルーフだが、その驕りをチェルシーは否定する。

 彼女の視線の先、晴れた爆煙の中。

 鎖に繋がれたままの鯨の老王は、ボロボロの姿でも依然変わらぬ威風を持って、仁王立ちしていた。

 九体も魔法生命体を造っても、魔力には余裕がある。

 主要臓器が幾つもやられ、凄まじい量吐血していても。腹部が大きく抉れ、凄惨な様相になっていようと……王は楽しそうに笑っていた。


「ゴホッ、ゲホッ……やってくれたのぉ、猫の小娘…」


 血の混じった咳をするセチェス。だが、その瞳から光が消えることはなく。戦士の矜持は折れることなく、闘志は決して薄れない。

 それどころか、傷を負う度に闘志は高まり……

 腰周りを透過する形で食い込んだ鎖を、セチェスは一切躊躇わずに握り締める。

 貪欲に戦を求め。

 蛮勇に血に飢え。

 獰猛に勝を望む。


 一部のみが物体化した呪鎖を、セチェスは力のある限り

引っ張った。


『んぁっ!?』

「フルーフッ!」

「霊体であろうとやりようはある。それに、魔力でできておるのじゃろう?ならば、余の樹海……最高濃度の中では生きれまい」

『へぇ……ハハッ、確かに。物理は効かないけど、魔法は効いちゃうわな。失敗』

「引っ込んどれ!」


───樹海魔法<ヴァルト・パレス>


 追加で乱立させた樹海の、より一層茂みの深いところにフルーフを投げれば、フルーフの魔力は著しく低下。木は貫通でき、魔力吸収も殆ど無視できる筈だが……

 肉体に守られていない、剥き出しの魔力を吸い取るよう設定された樹海は、そこにあるだけで亡霊を弱らせる。

 魔力の塊そのものである為に、吸収は速く。

 不快感を抱きながら、フルーフは蒼炎をもって対抗し、大自然を焼く。


 焼きながら、セチェスに繋がれたままの呪鎖を通して、追加の呪詛を送り付けようとするが……

 それよりも早く、鎖が砕かれる。

 突き付けられた黄金の三叉戟による魔力刺突によって、バラバラに砕ける呪い。霊体干渉故に、体内に入り込んだまま取れない破片もあるが……セチェスは、そんな障害は勘定に入れず、獰猛に笑って。

 魔力を隆起させる。


「流石にそろそろ、一人は持っていくかの」


 冷徹に算段を組み立てながらセチェスは床を蹴り上げ、流砂を巻き上げながら直進。床と平行になるように低空で突き進むセチェスは、手に握った三叉戟に魔力を込め。

 重傷であるとは思えない加速度で、追加製造した虹鯨を追い抜き。


 オーラのように立ち昇る魔力に、殺意を乗せて。


「おっ!?」

「ッ、速くなって…!」

「ここが正念場じゃもん。全くよ、形勢逆転と思ったか?それならば浅はかとしか言えんじゃもん!さぁて、まずはお主からじゃ!悪夢の民よッ!」

「ッ!」


 霊体であるフルーフよりも。

 死者であるブランジェよりも。

 生者であるリュカリオンよりも優先して───この場で最大の脅威であると認定した、悪夢の使い手。チェルシーへと矛先を突き立て。ブランジェの槍と、リュカリオンの拳に遮られても尚、セチェスは止まらず……


 悪夢を打ち倒さんと、睨みつけた。


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