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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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365/378

337-助け合いの精神

明日で連載一周年です。

ありがとうございます!


 黄金の舞台。

 崩れた魔城。

 星を統べる皇帝が不在となり、悪夢の底、夢の果てへと消え去った銀河の中心。崩れ落ちた玉座の間にて、一人の男が死にかけになっていた。

 配下たちに介抱されながら、仰向けに倒れる獅子。

 夢星同盟総督、レオード・ズーマキングは、命からがら生き残った。


「がァ〜、クッソ…」


 悪態をつくレオードは、負けた。

 叛逆者の筆頭として、代表として、レオードは敵首魁と直接戦った。新時代を創る集団を率いる王として、示しをつける為にも、深淵に挑んだわけだが。

 その実力は間違いなく天と地の差。努力や策略程度では決して埋まらない崖。

 底のない闇を、レオードは乗り越えられなかった。

 命を奪うことはできても、止まることを知らない怪物に轢き潰された。幸い、死にはしなかったが。回復魔法でも後遺症が残るような大怪我を、彼は負ってしまった。

 そんな彼の傍には、床に置かれた特大機材が。

 機械から伸びるケーブルを身体に繋がれて、持ち込んだアリエスの補助付きで、レオードの身体は淡い緑の輝きで癒される。


「ッ、これ……全然治んないッ…」

「……超新星爆発をモロに浴びたんだ。原形保ってるだけマシだろうよ」

「んめぇ…」


 だが、それで癒えたのは極僅か。肉体の大部分は大きく焼け爛れ、損壊したまま。五体満足ではあるが、辛うじて四肢が繋がっている状態……下手すれば、半身不随所の話ではない。だからこそ、アリエスは空間拡張鞄から追加の機材を取り出し、レオードの身体を必死に治療する。

 見殺しの選択肢はない。

 同時並行、シェラタンの手により怪我の修復が完了したフェリスとコルボーの手伝いもあって、レオードの全身を懸命に戻していく。


「レオードさん、しっかり!」

「死んじゃヤ!」

「死にゃしねェよ」

「くっ、不快ですが……ここであなたに死なれたら、私の人生設計終わるんですよ!」

「だいぶ自分勝手だなあんた!?いやいつものことか」

「緊張感ッ」


 従者組が騒がしくしながら、レオードの全身に治療具を当てまくり……なんとか、大火傷は無くなり、元の肌まで回復させることに成功。

 両手足も骨折や断裂は治せたが……

 どうにも力が入らない。強靭な精神力で意識を失わず、痛みに耐えていたレオードが手に力を込めようとするが、指一本も動かない。それどころか、ぴくりと震わすこともできやしない。


「チッ、こりゃ本格的に年貢の納め時か……?」


 黄金の瞳に諦念の色が翳るが、すぐに色は払拭される。不屈の精神は諦めなど知らず、そんな思考が過ぎったことを内心恥じながら、レオードは思考を巡らせる。

 両手足が動かずとも、王座を勝ち取る方法。

 選択肢はかなり狭められてしまうが、やりようはある。魔力回路も動きは悪いが、使えないわけではない。順調に治療が進めば、主星黄金化を二回三回と連発するぐらいはできるぐらい回復するだろう。

 自分の身体の頑丈さ、諦めの悪さに笑いながらも思わず溜め息を吐く。


「……おい、アリエス」

「へっ、は!はい!なんです!?」

「ギョドンな。聞きてェのはな、計画が上手くいってるか否かだ」


 最大の懸念事項。

 だいぶ無理のある強硬策だったが、自分を出汁に進める計画は少しだけ頭に来る。納得はしたが。ニフラクトゥの足止め役であり、総督として挑む必要のある戦い。彼は、しっかりとその役目を成し遂げた。

 生憎、勝てやしなかったが。

 アリエスの拙い説明で、将星の半分の排除、予定通りに事が進んでいることを理解して、レオードは上手く進んでいることに安堵する。

 ……このまま順調に行けば、将星級は全滅。

 魔牛に天馬、王鯨と天魚という厄ネタの塊共がまだまだ残っているが。


「結局は魔法少女頼みか……あいつらと手を組めたのが、俺の最大の転機、か」

「転落人生の間違いでは?」

「自分語りかよ、鹿女」

「……かもしれないですね。まぁ、アリエスの笑顔が少し増えたと思えば、悪くない選択だったかもしれませんが。この子を危機に陥れたクソ野郎には、いい末路でしょう」

「シェ、シェラ……そこまで言わなくても…」

「言わないと学習しないでしょう、こいつは」

「テメェは一々毒刺さねェと生きてけねェのか?もう少し敬えよ。王だぞ俺は」

「黙らっしゃい」


 自嘲気味に笑ったレオードの身体から、アリエスたちは機械を取り外し、応急処置を完了する。本当は、このまま集中治療室に突っ込みたいが、そのような施設はこの場にない。毒舌で突き刺したシェラタンは、渋々、レオードを背中で担ぎ、運ぶ体勢を取る。

 いつまでもここにいるわけにもいかない。

 いつ、ニフラクトゥが帰って来るかもわからないのだ。安全な場所まで移動して、レオードたちの本格的な治療をするべきだ。


 そうして移動しようとした彼らだったが……


───ッ!!


 開放的になった玉座の間、その入り口であるひしゃげた扉の向こうから、怒声が聞こえてきた。

 覚えのある憤怒のオーラと、魔力の圧。

 嫌なのが来たと顔を顰めたレオードは、盛大な溜め息で彼女を出迎える。


「チッ、固まっとけよ」

「───見つけましたよ、レオード・ズーマキングッ!!そしてアリエス!!ぶち殺しますッ!!」

「リブラ!?」


 全速力で現れたのは、リブラ・アストライヤー。蒼月に押し負けた秘書官が、怒りの形相で玉座の間に駆け込み、カチコミをかける。

 彼女は、頭上から迫る黄金光によって黄金化した。

 魔力切れなどで手も足もでなかったリブラだったが……敬愛する皇帝の気配が消えたのを、辛うじて意識を保っていた魂の状態で知覚して……

 忠臣は怒りの炎を燃やす。

 不甲斐ない臣下、己自身。皇帝の窮地に駆けつけんと、リブラは黄金化した魔力回路に鞭を打ち、何本か断裂させ破壊しながら、魂を燃料に魔術を発動。予め組んでおいた対黄金化の試作術式を、運頼みでなんとか発動させて……

 一発勝負の賭けに勝ったリブラは、死に体を我武者羅に動かしてここまでやってきた。


「ゼェ、ゼェ……アリエス、友のよしみで許しましょう。陛下にかけた魔法を解きなさい。今すぐ、現実世界に……陛下を戻しなさいッ!」

「い、いやです!それだけは、絶対に!」

「っ、このッ!随分と魔法少女に毒されましたね!こんなことなら、将星全員の心臓に自爆術式を組み込んでおけば良かったです…」

「ハッ、無理だろ。夢見てんじゃねェよ」

「私より死にかけの敗北者が、知ったような口を聞くのはやめて頂けます?」

「お互い様だろ?」

「チッ!」


 舌打ちをするリブラだが、本来の彼女であれば、解析が完了しているアリエスの夢繋ぎの魔法を行使することで、ニフラクトゥを取り戻すことは可能だ。

 だが、今はできない。

 魔力がないのは大前提として……彼がいるのが、悪夢の深い底であること。禁書を媒介としているのなら兎も角、リブラ自身に悪夢への耐性はそんなにない。現実と悪夢を繋ごうにも、繋いだ瞬間に即死するのは確実。それでは、ニフラクトゥを助け出すことはできない。

 だからこそ、アリエスを脅すが……効果はない。

 歯噛みするリブラは、フラつく身体に力を入れて逃走の道を阻む。


 そして、レオードたちにも対抗する手段がこれでもかと限られている。フェリスとコルボーは未だ戦える状態ではなく、唯一戦えるシェラタンも今は運搬要員。

 戦闘になるのは、できるだけ避けたい。

 上手くいく保証は無いが、窮地を脱する必要がある……それはそれとして、レオードは煽る。アリエスの魔法に、頼るしかない目の前の魔術師を。

 自分は棚に上げながら。


「ククッ、だいぶやられたみてェだな?俺の黄金からも、逃げられないぐらいにはよ」

「あんなもの、不覚を取っただけですッ」

「なら、次は余裕か?」

「ッ……不可能なんて言葉、私の辞書にはありませんよ。ナメないでください」

「ハッ、そうかよ」


 万全な状態ならば、或いは。一か八かが上手くいった、それ故に誇れる話ではない。それでも、リブラはやるしかないのなら、やるのだが。

 途中にあった棚から掠め取った魔力ポーションで、多少魔力は回復している。黄金になっていた為、飲むのに少し苦労したが。


 ……これは余談だが。

 黄金化の解除は初の試みであったのと、かなり力任せに解除したこともあって、リブラが黄金像となった通路は、今、彼女がいた場所を中心に、漏れ出た術式効果で僅かに元の色を取り戻している。

 そう、彼女を中心に。

 接触していことで、運良く黄金化の解除に巻き込まれた悪夢も、また。


 天秤を取り出し、無理にでも皇帝の救出を試みる彼女の背後から……


 メードが現れた。


「逮捕ッ!」

「うぐぁっ!?ッ、もう追いついたのですか!?親衛隊の黄金像で押し潰したのに!!」

「オマエそんなことしてたのかよ」

「重かったですが、なんとか。私の運の悪さをナメないで頂きたい」

「!?」


 リブラを羽交い締めにしたメードは、力任せに大理石の床に押し倒す。黄金から解除された後、玉座の間へ駆けるリブラの後を追い、紆余曲折を経て妨害を乗り越えてきたメード。天文学的な確率を連続で出して、追いついた。

 暴れるリブラを押さえ付けて、漸く一息つけた。

 ボロボロのメイド服も相まって、まるでひと仕事終えた完璧メイドに見える。


「くっ…」


 よくやったと褒めたレオードは、リブラを捕虜にせんと連行することを決意。アリエスの空間拡張鞄から、捕縛用の鎖をフェリスが取り出し、縛ろうと近付く。

 衝動のあまり突っ込んだリブラは、舌打ちを複数回。

 このまま自爆してやろうかとも考えたが、それができる魔力がない。既にボロボロの魂は、先程の復活劇で使えるだけの余地がない。


 無策で突っ込んだことを後悔しながらも、必死に藻掻くリブラだが……


 救済の手は、唐突に。


「……、ッ!?」


 崩落した魔城に、ぐんぐんと近付く気配と音。真っ先にそれに気付いたのは、一番重傷の筈のレオードで。異音に気付くと同時に、彼はシェラタンの後頭部に頭突きして、無理やり仰け反らせる。

 上がる悲鳴など無視して、距離を取らせ。

 王の行動で漸く気付いたフェリスとコルボーが、無力なアリエスを引っ張り。


「ぐぅっ!?」

「な、ぁ!?」


 距離を取った彼らのすぐそこに───大きく星空が覗く壁の穴から、突風が吹き。

 翼を持つ怪物が着地。

 風圧に耐え忍ぶシェラタンと、その背に乗るレオードが見たのは……桃色の不気味な竜が、メードを吹き飛ばし、嘴でリブラを摘み上げた光景。

 あまりの早業。あっさりとした救出劇。

 ボールのように床を跳ねたメードを軽く一瞥してから、怪竜は飛翔。


「えっ、ちょっ、なっ!?なんです!?って、あばっ……バ、バケモッ……た、食べないでくださいッ!!」

「落ち着きなさいバカッ!逃げますよ!!」

「へっ!?」


 悲鳴を上げたリブラは、怪物の背に乗る同僚の天使……スピカ・ウィル・ゴーの存在に気付き、目を見開く。

 肝心な時に猪突猛進になるリブラの救出。

 捕虜になりかけていたところをコーカスドムスに無理を言って助け出させ。怒涛の勢いで、回収と撤退を三天使は成功させる。


「うわぁーー!?」


 あっかんべーをするポリマと、龍鱗に必死にしがみつくデミアの二人も視界に入れたレオードは、あっという間に遠ざかるコーカスドムスの背を見送る。

 突然のことに硬直したが、すぐに溜め息を一つ。

 都合よく捕虜にしようと思ったのに、この有様。収穫はゼロに等しい。茫然と天井を見上げているメードの無事も確かめて、掻き乱された思考を整頓する。

 ……それにしても。


「……忙しねェな、ホント」


 “星喰い”に群がるヤツらは、相も変わらず騒がしいなと呆れたのだった。








꧁:✦✧✦:꧂








「肝心な時に適当になるところッ!治ったと思えば治っていなかったようですね!!」

「なっ、仕方ないでしょう!?陛下の一大事ですよ!?」

「それはそれです!自分の身も守れない時点で、アウトもアウトでしょうッ!?」

「うぐっ!?」


 主星から遠ざかる怪竜、コーカスドムスの背の上で。


 危なっかしく救助されたリブラは、ポリマの治療を受けながらスピカに説教をされていた。正面から突入したのは確かによくなかった。

 反省はするが、脳筋な女に言われたくはない。

 それ故にギャーギャーと吠えた二人だが、すぐ真後ろでプンスコ怒ったポリマが、重たい聖槍でリブラとスピカをぶん殴って黙らせた。


「んもうっ!」

「いったいです…」

「アイム怪我人……もう少し、こう。手心とかってないんですか」


 頭の上にたんこぶを作って蹲る喧嘩友達にも、ポリマは容赦しない。皇帝のことになると周りが見えなくなって、暴走するのは彼女にも同じことが言えるが。

 氷袋で痛みを冷やしたリブラは、徐ろに周囲を見渡す。

 戦場となった極黒恒星内部。今も尚鳴り響く戦いの音に顔を顰める。


「……幾つか気配が消えてますね」

「……えぇ。私たち姉妹もそうですが……メーデリアも、ジェミニスター兄妹も、恐らく」

「ヴォービスもやられました。行方は……恐らく」

「…アキラは?」

「言うまでもないでしょうよ……ムーンラピスがあそこにいるということは、そういうことでしょう。ほぼ確実に、もう。魔力感知もできませんし」

「そうですか…」


 自分も含め、既に半数の将星が討ち取られている事実。あまりの不甲斐なさに、皇帝への申し訳なさと、敵の強さを改めて感じ取る。

 歯噛みする忠臣たち。その背後で、体育座りをしていたデミアは城を眺める。


「あーあ…」


 黄金となった領地は、まるでレオードの支配下に落ちたかのような光景。忠誠心の高い周りの女将星なら、怒りに燃える光景だろうが……デミアは特に、何も思わず。

 強いて言うなら、下品な黄金だと蔑んだ。

 コーカスドムスの龍鱗を指でカリカリ撫でながら、早く終われと祈る。


 恩人たちの勝利か、所属先の勝利か。結局、どちらかを選べなかった死天使の祈り。

 祈りが届くのは、一体どちらなのか。


 勝利か、全滅か、服従か───それこそ、神のみぞ知る結末だ。


ノワールがアキラと本名呼びなのは、それだけ交友関係を作っていた証です。

捕虜とは。

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