333-必殺仕事人の百変化
筆がのったので分割です
決着つかんかった…
処刑大隊の統率者、レイ・モイヒェルメルダー。今では暗黒王域随一、最も冷徹で正確な処刑人として名を馳せる異星人だが……かつての彼は、裏社会に潜む民間の暗殺者でしかなかった。
暗黒銀河の片隅、彗星ブラックスター生まれの孤児。
親はいない。彼を暗殺者に育て上げた、事実上の師匠は存在する。その女もまた、病床に伏した状態で最終試験を宣い、レイに全てを与えていなくなったが。
その縁もあって、彼はフリーランスの殺し屋となった。
依頼があればどんな相手であろうと手にかける。そこに躊躇いや慈悲はなく、依頼達成率100%、凄腕のアサシンとして裏社会にその名を轟かせた。
“カメレオン”───単純ではあるが、その異名と強さに偽りはなかった。
そんな彼の転機は───愚かにも、皇帝暗殺の依頼を、受けてしまったこと。
そして、実行してしまったこと。
その結末は語るまでもなく……ただ、彼の強さを、あの男は称賛した。優れた知覚と感知能力を持つニフラクトゥですら見破れない擬態能力。リブラに成り代わり、堂々と寝込みを襲ってきた。心臓を貫かれ、首を掻き切られ……残機を消費する傍らで四回も正面から暗殺したのは、彼が初めてだったから。
だが、そこに度胸があったわけではない。
自分は何者でもないという空虚感から、空っぽの意思がそれを可能とした。何者でもないから、何者にでもなれる暗殺者。その在り方を、ニフラクトゥは否定せず、笑って受け入れた。
処刑人の地位を与えた。
皇帝や天秤の代わりに首を落とし、裁きを下す処刑人にカメレオンは生まれ変わった。いつしか、彼の本業である暗殺業も業務に含んだ一大組織へと変貌した。
それでも、彼の空虚は変わらず。
自己肯定感だけはスクスクと上がったが、それだけで。相変らず、依頼に、命令に忠実な暗殺人形としての生き方だけを実行して。
存在を肯定されたレイは、今宵もいつも通りに、汚れた裏切りの星を処刑する。
浮上を再開した総旗艦、旧・機関部にて───…
異形化したタレスを討ち取らんと、持ち前の暗殺技術、擬態先の魔法を駆使した死闘を繰り広げていた。
彼の毒に、最大限注意しながら。
「墜ちロよッ!」
「御免被る」
多脚を活かした高速機動、普段の彼からは考えられない速度で結界内を移動するタレスは、複数の機構から排煙を噴き上げながら、武装を展開。
模造した魔法少女の魔法を、砲門より放つ。
もう防衛する意味はない。ならば、後は蹂躙するだけ。殺意を滲ませ、毒を忍ばせ……
蠍は牙を剥く。
「ふッ!」
模造:光魔法、模造:重力魔法、模造:兵杖魔法、模造:星魔法、模造:月魔法……複数の輝きが全方位から迫り来ようと、レイは表情を変えず。
足元に落ちていた得物、回転ノコギリを回収し……
魔力を込めて、勢いよく。自身を軸に、ノコギリを横に薙いで……
全てを切り裂く。
「チィッ!」
魔法光線を切り裂かれたことで苛立ちながら、タレスは機械の躯体を細かく動かす。体内で新たな機械を構築し、立ち向かってくるレイに銃口を突きつける。
電撃系統の魔力を込めた、超強力スタンガン。
効くとは思っていない。ただ、対処する必要性を増やすことが重要。数の勝負では五分五分。擬態できるレイに、まだ有利がある。
「無駄じゃよ」
「やルと思ッた!」
「!」
読み通りアルフェルに擬態して電撃を無効化したのを、タレスはモニターの目を明滅させながら喜び、手の平から爆弾を射出する。その爆弾の名は、対金魚爆弾兵装。
ミサイル型ではなく、手榴弾型のそれは、レイに触れるよりも速く炸裂。雷による貫通を防ぐ為、強制的に物質化させる魔力波長を撒き散らす爆弾。
初見のレイは、まんまとその波長に当てられ……
本命だと放たれた機械の毒尾が、アルフェルの形をした腹部を貫く。
「ぐっ!?」
「暗殺に毒ハ定番でしょ!死蠍魔法!<デスアラクラン・ショット>ッ!!」
体内に直接、毒を注入。そして、今までチクチクと……気付かれない程度に刺していた透明な毒針を、一斉に増強させて、レイの身体を急速に毒で蝕む。
レイは本能的に身体を元へ戻そうとするが……
それはできない。
擬態魔法の欠点───攻撃を受けている間、その擬態を解くことができない。その欠点を、タレスは知っていた。レイの戦闘データを分析して、辿り着いたその結論。今、その解析が真実であることが証明される。
本来、レイに毒は効かないが……擬態状態の身体では、毒耐性も作用しない。
「カハッ…!ぐっ……クハッ、ハハハ!」
毒々しい紫色に滲んだ血を吐血する。苦しそうに嗚咽し腹を抱えたレイは、未だ身体を貫いていた毒尾を無理矢理引き抜き、後ろに飛び下がる。
久しぶりに感じる毒の苦しみに、アルフェルの顔をしたレイは笑う。
あるのは危機感ではなく……懐かしさ。
毒の痛みが、彼の記憶を刺激して───暗殺者時代の、研ぎ澄まされてはいたものの、それなりには荒削りだった殺意の感覚を取り戻させる。
目を見開き、口は大きく弧を描く。
擬態を解かれまいと追撃を仕掛けるタレスを嘲笑って、いつもより早く、スピードを上げて擬態を解き、毒耐性を発動させ、命に手が届く前に無効化して。心許なくなってきた魔力を限界まで振り絞って……
また、擬態。
「性懲りもナ、くッ!?」
「仕方あるまい───勝つ為に全力を尽くすとも。それがこの世のルールであり、法である故。そう、我は彼らから教わったのだから」
「ッ!?」
モニター越しに映るのは、タレスもよく知る最強の蛇。銀河の皇帝、ニフラクトゥ・オピュークスにも代償なしで擬態できるレイは、躊躇うことなく彼の能力を行使。
二百年以上に渡る観察の末、再現可能となった偉業。
暗黒星雲をその手に束ね、動揺するタレスの異形化した視覚に、星を見せる。
「淵星魔法、“星”───ッ!」
天体創造の秘技。
本物とは比べる意味もない程矮小な石ころだが、レイにとってはそれで十分。小さく生まれた星でも、その中には爆発的な魔力が封じ込められている。
レイは、それを起点に選ぶ。
ニフラクトゥの姿で攻撃をするのではなく、魔力補給の繋ぎとした。
「贅沢ナ!?」
「陛下の力を使わずとも、貴様は処刑できる。これ以上の不敬は、私自身が看過できん」
「意味ワかんなッ!」
生み出した星を、レイは手掴みにし。元の姿に戻って、口元まで運んでいく。嫌な予感しか感じられない挙動に、タレスが焦って魔法を放つも、時既に遅く。
口腔に、星を放って。噛み砕きもせず、嚥下する。
ゴクンと、喉を鳴らして……胃の中へと、レイは惑星を溶かす。
「ぐっ…!」
瞬間、彼の腹部が猛烈な光を放ち───爆発的な魔力が体外へと溢れ出ないよう、口を抑えて塞き止めて……全て還元し、魔力を補給。ただでさえあまり多くない魔力を、瞬時に回復。それどころか、吐き気を感じるくらいには、多く摂取した状態となり。
莫大な魔力が手に入ったのと同時に、擬態を発動。
ポリマ・ウィル・ゴーとなり、傷付いた肉体を癒して、また擬態。
「ここから先は、時間との勝負だ───貴様は、何処まで耐え切れる?」
「ンなッ、ッ、ぐぅ!?」
ニフラクトゥの魔力で、体内がズタズタになる前に……複数の擬態を繰り返す。エルナト、リブラ、アルフェル、カストル、セチェス、アリエス、メーデリア、ラカイユ、サジタリウス、カリプス、タウロス、ポルクス、タレス、カンセール、レオード、ミロロノワール……
新旧将星全ての擬態をフルに使い、猛攻を仕掛ける。
特殊な魔法が多い将星たちの力に、タレスはモニターの目を歪めて応戦。補給した魔力の七割を使った総攻撃に、さしもの機械装甲も破損する。
紅蓮に焼かれ。
天秤に裁かれ。
雷霆に穿たれ。
星砲に撃たれ。
砂塵に呑まれ。
夢幻に落ちかけ。
聖水に沈み。
色彩に歪み。
魔矢に撃ち抜かれ。
呪詛に食まれ。
突進に掠めて。
流星に殴られ。
汚毒に目潰しされて。
極砕に躯体を砕かれ。
黄金に染められ。
魔鏡に映す。
「いッッたイなァ、もうッ!!」
ここまでされる筋合いはないと怒りながら、へし折れた右腕を廃棄し、新たな腕を代わりに装着。足も交換して、胴体も高速修復して。乱れた髪を振るいながら、タレスは全身の魔力回路を隆起させて、防御と攻撃を完全両立。
最後に、呑み込もうとしてくる鏡を叩き割って……
満身創痍で魔法攻撃を捌き切り、反撃に出ようと身体を捩らせた、その時。
タレスの耳に、チェンソーの回転する駆動音が、近くに聴こえてきて。
「ッ!?」
「魔法に気を取られ過ぎだ」
「無理でショ!?」
「ハッ」
ムーンラピスに擬態したレイが、電動回転ノコギリを、タレスの無防備な首に宛てがう。勿論、実際は無防備などではなく、しっかりと防衛装置がついていたが……
回転する刃は、首を守る障壁や棘、刃、銃を刻み。
一切の障害を乗り越えて───無慈悲に、タレスの首を切り落とす。
「ギャァ!?」
「喚くな。どうせ動くのだろう?さぁ、叛逆者。どこまで貴様を解体すれば、機能停止する?」
「レイ氏こっわ。仕事星人はコレだかラ…」
「む」
切り落とされた機械の頭は、空中で静止。反重力装置で浮かんだ頭部モニターに、エラーメッセージが浮かぶが、タレスはそれを無視。
頭と胴体を分離させた状態で、戦闘を継続。
頭部の下顎からレーザー銃を放ち、更に、首の切れ目の穴からレーザーカットを発射し……やり返す形で、今度はレイの左の肘から先を一刀両断切り落とす。
「びっくり箱か?」
驚きの機構に目を見張りながら、レイはまたしても姿を変容させ……シグニュスに擬態。デネブ攻撃航空連隊なる組織を率いる男の星爆魔法を使って、切り落とされた左の手首を着火剤に。
タレスの足元に落ちた爆弾は、盛大に爆発。
避けきれずに被弾し、たたらを踏むタレスだが、決して横転はせず。
「甘イんだヨ!」
「甘くはない」
そのままレイの身体を鷲掴みにして、掌底より模造した魔法を高速連打。直接胴体に魔法をぶち込まれたレイは、激しく吐血するものの……まだ死なない。
タレスと違い、生身の肉体でありながら。
胴体に穴を空けられたのにも関わらず……レイは未だに倒れない。それどころか、己を掴む機械の腕を掴んで……ギシギシと音が立つぐらい、強く握り始める。
最後は、パキりと嫌な音がして……
「ウソでしょ」
タレスの右腕が、握力で粉砕される。予想以上の力に、少しだけ茫然としてしまったが……鉄板の床に降り立ったレイに対し、即座に攻撃を実行。
腕を一本失い、腹に穴を空けた男など、本来は相手にもならないが……
こと、将星に限っては話が変わってくる。
「方針転換……仕切り直しだ」
飛来する弾丸と魔法を、もう一度回転ノコギリで残らず切り裂いたレイは、重傷者とは思えぬキレの良さで魔法を行使。次の擬態先に選ばれたのは……聖座の姉。
スピカ・ウィル・ゴーとなって、跳躍。
擬態先の身体に準拠するのか、擬態中だけ現れた左手を何度か握りながら、戦場を囲う結界に近付く。スピカの姿で結界に近付く。その意味がわからない程、タレスもバカではなく。
「そウ何回も、驚イてヤるわけないでショ!!大人しく、死んでろッ!!」
「いいえ、それは無理です」
「ッ」
空間を面で捉える。
天掌魔法の真髄、“空”を掌握する力で……結界に触れることなく、レイは空間を歪めて、ひしゃげて、好きなだけ折り曲げる。
結界には定められた形がある。
その形を逸脱すれば、健全に起動していた守りの力も、意味をなさなくなる。その性質を利用して、レイは結界の形を歪めて……
四角形のそれから、一箇所だけ大きく広げられた結界は機能不全に陥り。
ヒビが入るよりも早く、粉砕飛散。バラバラになって、砕け散る。
ガラスのように破片が降り注ぐ中、ボロボロの本体へと姿を戻して、レイは薄く笑う。
もうこれで、旧・機関部に固執する必要はない。
「さて、これで戦略の幅が広がるな」
「かァ〜、シてやらレてるぽきがバカみたいジャん。もういイ加減にしないト、本気で怒らレる……こレだカラ戦いなんてイヤなんだヨ……」
「ならやめるか?楽に殺してやるが」
「ナンデそうなるノ。ぜーっタイに生きマスけどー?ま、過程なンてドートでもなるンッスわ。救難信号、ちャんと届いてるかナー?」
「うん?」
レイには選択肢がある。タレスの暗殺を諦め、艦内へと逃げ込んで、惑星破壊工作を再開するか。このまま相手が死ぬまで戦い続けるか。
降伏の選択肢は端から存在しない。
死にかけの状態でも、戦うのみ。左腕を失い、腹に穴が空いていようと、彼は問題なく動ける。相性の問題で聖座ポリマの魔法は一日一回しか使えない為、今の彼にはすぐ使える治療手段が無いが……脳ミソと心臓が無事な限り、レイは死なない。そういう風に、身体を無理矢理に動かす技術を会得しているから。
とはいえ、命の危機に変わりはなく。
早急に仕事を終わらせたいレイは、余裕ありげな反応のタレスに首を傾げる。
タレスもタレスで、心臓変わりである胸の魔力炉心に、無視できないダメージが入ってはしまっているものの……それが致命傷になることはない。
余裕を持って、助けを待つ。
突然対峙することとなった爆弾魔を拘束し、こちらまで突っ込んでくる彼女の───物理的に星に突っ込み、この空間まで突き進んでいる、彼女の歌声を。
被害総額は考えたくない。
───♪!!
徐々に大きくなる、延々と鳴り響く破壊音と、歌声に。嫌な予感に顔を顰めたレイが、反射で構えた、その時。
旧・機関部の天井が、砕け散り。
大音量の音楽と、瓦礫と、土砂と共に───魔法少女が現れる。
「呼ばれて飛び出て〜、わたし、参上!正直ギリギリの、マーチちゃん!!」
五線譜に拘束されながらも、身体を捩らせ脱出を試み、爆撃を持って反抗してくる戦闘人形、シグニュスを使って総旗艦を掘り進んだ、王国の歌姫。
数曲歌って踊った後の汗だく姿で、ニコりと笑い。
救援と、共闘の為に。
“王国”のマーチプリズが、決定打に欠けるタレスの為に駆けつけた。
「うん!?えっと……タレスくん、どこ?」
「アッ、ぽきデス…」
「…………?えっと、イメチェンした?なんか、悪くないカッコよさだね。デュラハンスタイルのサソリロボとか、私も弟も好きなヤツじゃん。写メ撮ろ?」
「エッ!?」
本心である。




