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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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317-星断儚魚、宙泳ぎ


 やっほ、僕だ。


「切断魔法<サクラミヤビ>」


 片足を失った程度で引退して、後輩にグチグチ文句言う面倒臭い女に成り下がった魔法少女……“断雲”のアカツキクソ先輩の魔法を、仕込み杖に文字通り仕込む。

 理不尽なことを言っている自覚はあるが、今は横に。

 魔法を使わずとも空間切断を可能とした、未だに意味がわからない斬魔の剣術。そこに、上乗せというか、掛け算とでも言うべきか。切断系の魔法を付け加えて、僕はこの戦いに勝つ。


 斬魔の名を汚す?何を言ってるんだ。なんでもありだろこんなもん。

 それに。


「なんと!成程成程、確かに切れ味が……付け焼き刃だとナメてかかるつもりは毛頭ありませぬが、これはこれは!是非ともご教授願いたい斬撃でござる!!」

「好評で何よりだよ」


 相手がこの調子だから、ね。正当後継者が言うんなら、問題ないんだよ。紅潮した顔で斬りかかってくる親衛隊の総隊長、ヴォービスの剣術を正面から受け流す。

 ガラスと瓦礫が散らばる薬草園。

 草木を、柱を、羽虫を。視界に入る全てを、躊躇いなく切り伏せる。恨むのならば、渡り廊下の下にあったこと。そして、ヴォービスに斬りかかった方向にいたことを深く自戒しろ。


「斬撃が好きなら、好きなだけ浴びるといいよ───さ、死に晒せ」


───魔加合一<斬蜘断界>


 更に蜘蛛の糸の斬撃を張り巡らせて、視界内外の全てを切り刻む。だが、ヴォービスは妖刀を煌めかせて糸と糸、魔法の繋がりまでもを断ち切ってくる。

 バラバラに散る、斬撃を帯びた糸の残骸。

 降りかかるそれを浴びながらも、傷一つつかず。恐らく祖父譲りの頑強さを見せつけながら、僕の首を狙って刃を振るってくる。


「もっと、もっと!斬り合いましょうぞ!!セッシャと、あなたと!!」

「熱烈なプロポーズ、ありがとう。いらないけどね」

「くふっ!冷たいでござるな!然し、それもまたらしいと言ったところ!!」

「やめてよ」


 斬る。

 斬る。

 斬る。


 我武者羅に、ただ、相手を斬り殺すことだけを考えて、殺意を刀に載せる。


「ッ!」


 薄皮一枚に刃を通して、血管を切り、ヴォービスの血を噴き出させる。あぁ、よかった。ヤケに硬いし、斬っても反応が鈍いから心配してたけど……

 へそ出しスタイルの鎧は失敗だったね。

 お陰で、彼女の腹に一閃を刻むことができた。本当は、首が良かっんだけど。


「素で硬いんだね、君。これは、もっと研がなきゃ両断は難しいそうだ」

「是非とも、やってみてもらいたいものでござるな!!」


───斬魔一刀流・虚蝶嵐


───斬魔一刀流・魔太天


 斬撃の嵐は、賽の目状の置き斬撃によって防がれ、首に届かない。だが、技で進行を止めることはできる。それを狙って斬撃を絶え間なく放ってるのだけど……ヴォービス相手には効果が薄そう?そりゃそうか。

 どんどんこちらに近付いてくる彼女に、無駄でも斬撃。

 障壁は張ったところでだから、使わずに斬撃で。土俵に乗ったまま戦う。


「そんなに斬撃が好きなら、いーよ。刃物で好きなだけ、遊ばせてあげるよ!」


───刃魔法<ジャッジメント>

───剣魔法<ソードダンス>

───鉄爪魔法<ファイテング・ベアー>

───針魔法<キルニードル>

───切断魔法<ムラクモソラミヤビ>

───糸魔法<マーダースレッド>

───月魄魔法<アビス・キルゾーン>

───…


 裁きの刃を放つ魔法、剣を複数召喚して空中で踊らせ、虚空から生えた熊の腕が爪撃を飛ばし、ぬかるみから針が無数に飛び出、雲を断ち空を割る斬撃で全てを消し去り、ダメ押しとばかりに斬糸と月閃を同時多発。

 物理的に、魔法的に、複数種類の斬撃を放つ。

 これは繋ぎ。事実、期待してた通りヴォービスは斬撃の対処に精一杯だ。流石にね。物量というか、斬魔の勢いで切り抜けるのは時間がかかる。

 それを利用する。


「っ!ならば!」


───斬魔一刀流・朽白雅


「あん?チッ…」


 あっ、斬撃全部躱せる技……あれって、回避できる余地ないとできない筈じゃ。は?できますってか?ふざけんなぶったたっ斬るぞ。

 最低限の動きで斬撃を対処し、こちらに駆け寄る斬魔。

 ウザったいけど、仕方ない。少し工程を省いて、余裕をもって。


「魔加合一───<空征斬夢>ッ!!」


 触れれば即切断、斬撃特化の魔加合一。夢属性により、切断面から悪夢が身体に、精神に伝播していき……肉体をバラバラにする魔法。

 薬草園を更に切り刻み、斬魔の剣術をも切り裂く。

 この技で、あの妖刀……アマツトジだっけ?その刀身を削る。


「むっ!これは躱しきれぬ!!」


 見極めも速い。でも、予想通り。

 斬糸の表面は恐ろしい程に斬れやすい斬撃属性の魔力に覆われている。その斬撃は流動性を持っている。多方向に伸びるような斬撃が、常に斬糸の上を駆け巡っている。

 なんていうの?右向きと左向きの回転が、交互不規則に斬糸にまとわりついてて、刀を押し当てたりすると、その回転に巻き込まれて……

 具体的に言うと。


「んなぁ!?」


パキーン───…ッ!


 こうなる。

 結果はまぁ、僕の目論見通り。妖刀が糸に触れた途端、耳に痛い金属音が奏でられて……刀身を離すよりも速く、綺麗にへし折れた。

 驚きに目を見開くのは無理もない。

 可視化できないからね。どうやっても見えない、そして感知できない。そーゆーふうに、隠蔽の魔法を重ねがけてやった。


「なんと!」

「もっと表情崩せよ───さて、そろそろ閉幕と行こう。死ぬ覚悟はできたか!?」

「っ…」


 得物が壊れたのに興奮した様子のヴォービスを煽って、仕込み杖に大量の魔力を込める。

 さっさと切り抜けて、次に行かないと。

 なんて、僕の思惑はバレバレだったのか。妖刀が折れて劣勢に陥ったヴォービスは、その瞳に込められた闘志を、再熱させる。


「……これはまた、困りものでござるなぁ。アマツトジの有無程度で、セッシャとの戦いが終わったと思われる……かなり、心外でござりますな」

「ふーん?それじゃ、君は他に何ができるの?」

「愚問でござろう───セッシャは確かに剣術一筋。師の剣術が最も強いのは、言うまでもないでござるが。ただ、それだけでは無い!!」

「あっそ」


 ヴォービスは熱を帯びた目で、好戦的な表情で、折れた刀身に手を添え、すーっと撫でながら……流れるように、腰につけた鞘に納刀する。

 もう、使わないのかな?

 なんて楽観的に思って、面白半分で見守っていると……ヴォービスは、僕からの視線なんか気にも留めずに、間髪入れずに、抜刀。


キィィィンッ───…


 元通りになった刀身を、僕が視認した瞬間……迷いなく斬りかかってきた。


「へぇ!」

「我が妖刀、アマツトジ。その真価は、鞘内部に存在する異空間で高速修復、若しくは鍛造による刀身の再構築……日頃の手入れもいるにはいるが、それ以上に。常に最新、永久不滅の影打なれば!!最高でござろう!?」

「なにその鞘。解析と分解するからちょっと貸してよ」

「嫌でござるが!?」


 面白い構造だな。妖刀の刀も刀で剣圧放つは血を啜るは特殊効果持ちなのに、鞘もあるのか。これはこれで面白い研究対象だけど、まだ前座。

 手品めいた妖刀の機能復活は、前座に過ぎない。

 そう言わんばかりに、ヴォービスは僕の首筋を斬って、胸板を蹴って後退。


 そのまま、詠唱を開始───ここで初めて、魔法を僕に披露する。


雷遊(らいゆう)魔法───<剣雷群魚(けんらいぐんぎょ)(ユニ)>」


 ヴォービスの足元の影から、“魚の形をした影”が次々と浮上し始め、彼女の頭上で渦を描くように回遊する。さも海中かのように、当然の如く。

 魚影と言うしかない、真っ黒な小魚が宙を舞っている。

 よく見れば紫電を纏っている。雷属性の魚影を、大量に召喚する魔法、かな。


 名前(漢字表記)は絶対先輩に寄せたろ……


「是非、御照覧あれ」


 魚影を従えたヴォービスは、妖刀を煌めかせ。僕の方へ歩み始めた。


コポポポポポポポポ…


 先行するのは魚影の群れ。水中を泳ぐかのように空中を進む魚影は、何処か幻想的に見えるが……パチパチと嫌な音もついでに立てて、僕に迫る。

 うーん、小魚が中心だな。地球でも見たことある魚影がたくさんだ。

 取り敢えず、斬ってみよう。


「<崩泉華>!」


 連続突きに伴う質量を伴った斬弾。当たれば切断……というよりは、内側から切り裂かれたかのように破裂する、そんな剣技なのだけども。

 放った斬弾は、幾つも魚影を貫いて……

 そのまま。

 何も、変化は起こらず……黒い影をすり抜けて、意味を成さない。


「あー、影は影か」


 こいつの爺の硝子金魚と要領は一緒だな。すり抜けるは祖父孫共通ってわけね。面倒臭い……あっちは悪夢由来のユメエネルギーでどうにかなったけど、果たして。

 浴びてみたいところだけど、まだ“呪い”の影響がある。

 下手に当たって痛い目見るのは僕の方。どちらにせよ、避けるべき、か。


「魔加合一、<神隔封護>」


 一先ず防御。透明な硝子を境界とし、空間を断絶させた防護障壁を前面に展開。壁を作ってから後退する、が……せっかく張った壁を、魚影は透過。

 更に、歩くヴォービスの剣閃に容易く切り裂かれた。

 おいおい。そんな簡単に切り裂かれちゃあ、防御特化の魔法少女が泣いちゃうでしょ。

 んー、怠い。


「全て無駄でござる───さぁ、セッシャの小魚たちよ。狂瀾怒濤の突撃を、我が道を遮るモノに見せつけ。共に、月を落とそうぞ!!」

『コポポポ…!』


 そう面倒臭がっている間に、ヴォービスが魚影群に追加命令を発令。すると、プルプル震えていた魚群は、水泡を立てることもなく、僕の方へ加速。

 まったく、落とせるモノなら落としてみなよ。

 残念ながら、君には───モロハ先輩の弟子程度では、無理な話だけど。


「いいよ、来い」


───月魄魔法<ルナレッジ・レイン>


 こちらが放つは、横殴りの雨。短剣の形をした魔月は、悪夢をふんだんに含んでいる。超加速して突っ込んでくる魚影なんて、取るに足らないんだから。

 次々と、月の短剣と雷の魚影が激突する。

 やっぱり、悪夢由来のユメエネルギーを内包しているとすり抜けられないらしい。流石は【悪夢】。世界の癌とは言い当て妙だ。


 ……でも。全てが対消滅とはいかない。中には、短剣を逆に切り裂く魚影までいる。

 成程、雷属性に斬撃属性を帯びた魚影か。

 当たったら感電するどころか斬られるわけね。いやー、怖い魔法だな?


 余計当たりたくなくなった。だから、悪夢の塊を強引にぶつけて消そうとした。

 その時。


コポポポポポポポポ───…!


「ッ!?」


 僕の背後から、音もなく───大量の魚影が、気付けば迫っていた。


 いつの間に。


 魔力感知にも引っかからなかった?成程、すり抜けた。物理的だけじゃなくて、探知網にまで通用する透過性……いいなぁ、欲しい。

 防御は間に合わない。攻撃も言うまでもない。

 加速する思考の中、背後を振り向いた体勢のまま。僕の右半身に、魚影は殺到して。


 着弾。


ズガガガガガガガガガガガガガガ───ッ!!!


「っ、ぐっ…かはっ!」


 突き刺さる。身体に雷鳴が走る。皮が裂け、肉が弾け、意図も容易く切り刻まれる。

 魚影の形をした影は、僕の体内へ。

 っ、危なかった。中身が悪夢だったから消せたけど……生身だったら、身体の内側から食い破られてたオチだったヤツだ。


「…殺意が高いな……」


 身体が痛む。

 魔力回路がまた焼かれた。でも、いい。逆に傷つけて、処刑人がくれた悪夢殺しの残滓も吹き飛ばして……あとはいい感じに調整するだけ。

 追加の魚影が飛んでくるが……これ以上はいらない。

 【悪夢】をぐいっと引き伸ばし、怒涛の勢いで食いつく魚影共を霧散させる。ついでに、好機と見て斬り掛かったヴォービスの頭を掴んで、大理石の通路に叩き付けた。

 あ、ごめんつい。


「ごぺぱっ!?」

「見誤ったね?」


 そのまま重力魔法で磨り潰してやろうと思ったが、すぐ拘束を解かれて逃げられた。顔面は大☆陥没して凄まじい有り様になったが……

 うん、鼻血でも出してろ。

 即座に治癒魔導具で顔を治されたが……おっ、ちょっと腫れは残ってるね。


 ……これが一番の大ダメージになるとかマジ?すっごい複雑なんだけど。


「ぐぬぬ、ワンチャンに賭けたのでござるが……やはり、甘くは行きませぬか」

「悪くはなかったけど、ね」


 会話の傍ら、肉体を修復させる。ズタズタになったが、今はゆっくりとはいえ、直るのだから問題はない。正直、この身体のままで活動する意味はないのだけど……なんていうの?好きな形好きな姿になれるからね、今の僕は。

 元の姿に固執する必要は、本当はないんだ。

 でも、まぁ。気に入ってるからね。いつも通り身綺麗なラピスになって。


 吹き飛びかけていたハット・アクゥームを掴み上げて、頭の所定位置に戻す。


【ハットス…】

「ハット・アクゥーム、オマエ空気すぎ。少しはあの魚影食べるとか貢献しろ」

【ハッ!】


 魚影は今ので終わりでは無い。

 次から次へと、ヴォービスの魔力が尽きるまで、影から溢れ出ている。


「面妖でござるなぁ」

「安心しなよ。運が良ければ、君のこともこいつのお腹に入れてあげるから、さ」

「ふむ。怪獣狩りは得意故、大した問題ではござらんな。この身が食われようとも、腹の中から斬り破って、其方の心臓を穿つのみ」

「いい度胸だ」


 それじゃあ、場も温まって来たことだし……いい加減、終わりにしよっか。


 魔星親衛隊総隊長、討ち取るよ。


次回決着

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