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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
月下星王大戦

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336/378

308-空折り、空落ち、空結び

詰め込みすぎた…

新年二発目だけど主人公はいません。

明明後日まで待ってちょ。


それと、頂いた支援イラストです。

https://x.com/i/status/2006663451230482811


あの日、うちの主人公が正体バレする瞬間です。重ね重ねありがとうございます!うちの主人公のかっこいいとこ、もっと見たいですよね?その、書けたら書きます笑。

では、本編です。


───帝都ステアリル聖ポリマ大聖堂。

 宇宙最大宗教、ステリアル星教会の新たなる総本山……ウィル・ゴー家が元締めとして、あまりにも得難い大罪を背負いながらも、過去を振り返りながら進み続けることを選んだ組織。聖座ポリマと、将星スピカの加護。そして、命を司るデミアを新たな代表の一人として迎え入れ、皇帝ニフラクトゥの威光のよって栄光を約束された星教会。

 そんな聖座を讃え、ポリマの居城としても建築された、星教会の大聖堂は、今。


 魔法少女、“力天使”のエスト・ブランジェとの決戦場に変貌していた。


「<ヴィルゴスシエラ>ッ!!」

「<エンジェル・キッス>!!」


 “空”を掴み、操る魔法、天掌。将星スピカの固有にして世界に干渉するその力。相対するは、ブランジェの重力を自在に扱う星の力。

 空間、若しくは空の力。

 合力、若しくは星の力。

 コシュマールでの辛酸を払拭せんと、2人の天使が矛をぶつけ合う。


 重力が全てを押し潰し、“空”が全てを捻じ曲げる。


 優勢なのはスピカの魔法。重力下を無視して通り抜ける空間攻撃は、確かにブランジェに届く。

 だが、それだけで傷を負う程、かの天使は弱くなく。

 身体を巻き込むように空間ごと抉る魔法を、ほいほいと軽やかに避け、無傷。

 日本における魔法少女の序列、第三位は伊達ではない。

 腕っ節の第一位と技巧の第二位、攻守双方が万能である第三位。三人揃ってこれでもかと言うぐらいのゴリ押しの権化ではあるが、二人に負けずとも劣らない、その評価に嘘偽りのない実力を持っている魔法少女だ。

 全てを打ち砕く“天砕(あまくだ)きの槍”。

 全てを守り抜く“天守(あまも)りの盾”。

 マジカルステッキを分離させたことで生まれた武器は、ブランジェの戦いにおいて一度も刃こぼれはなく、一度も守りが砕けたことはない。

 リリーライトの聖剣と異なり、破壊されたことがない。

 絶対防御に嘘偽りはなく……なんと、スピカの防げない空間の槍を防ぎ止めた。


「なっ…」

「魔法はイマジネーション。でも、信仰とかが力になって強化に繋がることだってある。この矛と盾は、その象徴。私だけじゃなくて、私を信じてくれた人たちの思いが、形作った魔法の盾。一度も壊れないでみんなを守ったのを、みんなが褒め讃えて、この盾はすごいんだって言って……そうして、いつの間にか。絶対に壊れない、悪夢の女王の攻撃さえ防げる、天使の盾が完成したの」

「ッ、それはもう、神器の領域でしょう……!」

「へぇ?あるんだ、そーゆーの。ラピスちゃんが欲しがりそうだね」


 信仰を形にし、人々の想いによってその領域まで至った天守りの盾。それは偏に、彼女が多くの人を救い、守り、導いた嘘偽りない証。

 空間を捻じ切ろうと、折り曲げようと。

 概念的な守護力を有する盾を構えれば、ありとあらゆる攻撃が無意味と化す。ある意味でインチキすぎる相棒は、後輩たちとの戦いでは効力を封じていたが……

 決戦たるこの場において、それをする必要もなく。

 ブランジェは、本気で勝ちに来ている。絶対負けない、その自負を持って。


「本気ですね…」

「そりゃそうでしょ。あなたは違うの?」

「……ふっ、まさか。私はいつだって本気です。なにせ、手を抜ける程、器用じゃありませんから!!」

「ならよかった!」


 ブランジェが本気なら、スピカだって本気だ。絶対に、この試合には負けられない。強い意思をもってこの戦場に立っている。

 皇帝への為、だけではない。

 自分自身の為にも。ここで負けて惨めを晒すなど、己が許さない。


「肉塊にして差し上げます!!」


───天掌魔法<ヴィルゴスシエラ>


 ぐいっと“空”を掴んだ手を引っ張り、景観を巻き込んで歪めながら、身体ごと回転してブランジェに差し向ける。景色を巻き込みながら向かってくる“空”を、ブランジェは冷静に天守りの盾で防ぐ。

 轟音を立てて盾に激突する空間。

 ギリギリ、ゴリゴリと音を立てて突き刺さるが……盾が傷付くことはない。盾を覆うように展開されている障壁は削れても、本体である盾にまでは届かない。

 だが、防ぐことしかできない。

 盾から発生された魔力障壁が、ブランジェ全体を覆って守っているが……スピカの“空”の勢いは一向に収まらず、次の動きに移行できない。否、移行させない。防御に専念する以外の手段を、ブランジェから奪う。

 ゴリゴリと魔力障壁に“空”がめり込んで、盾のない側を破壊せんと襲いかかる。


「くっ……重力で押し潰したい、けど……守る手緩めたら圧縮されちゃうよなぁ……」


 汗を垂らしたブランジェは、視界いっぱいを覆い尽くす空間の歪みを睨みつける。今更重力魔法で“空”を押し潰す手段を選ぼうにも、遅すぎる。使おうとした瞬間、“空”が魔力障壁を突破してくるだろう。

 盾が守れるのも正面のみ。それ以外は……些か防御力が落ちてしまう。


 普通の魔法少女であれば。


「んでも、まぁ。問題ないね」


───重力魔法<ヘブンズ・グラビティドーム>


 自分を中心に、強力な重力場を発生させ……超広範囲を押し潰す。魔法行使の瞬間、一瞬の緩みをついて全障壁を破壊した“空”も、丸ごと押し潰される。

 破壊される瞬間、全てを破壊してしまえばいい。

 その理論を、ドーナツ状のクレーターを造る形で天使は証明した。


「やはり、それぐらいはやってのけますか……」


 そんな光景を見ても、スピカは黒い双眸を細めるだけで動揺一つしない。

 想定はしていたことだ。

 魔法少女ならば突破できる。魔法少女ならば、きっと。上澄みだけを見てきたスピカは、魔法少女への認識を少し高めに設定している。並の魔法少女にとってはふざけんな一緒にするな案件だが。

 その期待を一心に背負うブランジェは、重力圧を解いて歩みを再開する。


「あーあ。綺麗な聖堂、見るも無残なのになっちゃった」


 聖座を讃える白亜の大聖堂。帝都の色である黒がない、神聖さに満ち溢れている筈の静謐な空間は、戦いの匂いで今や見る影もない。燦々と輝くステンドグラスは砕かれ、壁に彫り込まれた細かい装飾は削れ、荘厳な宗教画は額縁から外れて。未だ健在である聖像の存在が、逆に場違いなモノとなっている……荒れに荒れたポリマの大聖堂。

 戦場に選んだのは、彼女たち姉妹だが。

 後から幾らでも修繕はできるとはいえ……重力と空間の猛威は止まらない。


 その事実にスピカも苦笑しながら、妹に怒られる未来を遠くへ押しやって、ブランジェへ言葉を投げる。

 傍にあった白亜の石柱に手を添える。

 戦場となったこの大聖堂において、聖像と同じく、未だ無傷の石柱に。


「ねぇ、ブランジェ」

「なぁに、スピカちゃん」

「技には技を、力には力を。それは、チキュウでも変わらないことだとは思います。確認ですが、違いますか?」

「んー、違くはないなぁ。その認識でいいと思うよ」

「そう、ですか。では、安心しました───私がこれからやることは、そういうことですから」

「へぇ?」


 触れていた石柱───14本の聖なる柱。星教会創立の時代から存在する、古の構造物。地球でいうコリント式、葉や蔓を模した装飾が施された神秘的な石柱であり、聖柱でもあるその一つに、スピカは力を込め始める。

 ゴゴゴゴと、不穏な轟音が聖堂全体に響き渡る。


「ちょっ、壊す気?」

「壊れませんよ。ご覧の通り、先の攻防でも傷一つない、この聖柱……これ、実を言いますと五千年以上は昔の代物でして。その分、大量の魔力に満たされてるんです」

「五千年?それ、信ぴょう性あるの?」

「将星リブラ、彼女の過去を視る魔術で遡ったところ……建造された年代まで遡れなかったそうです。できたのは、本日に至るまでこの宇宙に存在し続けた、その光景のみ。つまりは、彼女が視ることができる年代よりも前からその逸話通りに存在していたということです」

「過去視かぁ。成程ぉ……で、その歴史ある石ころので、何をする気なのかな?」

「それは勿論」


 五千年以上の歴史を持つ聖柱。時を得て、この大聖堂の支柱として利用されている十四本の内の一本。その聖柱は壊れない。砕けない。五千年間、綺麗にする以外の修繕は一度も行っていないそれ。

 名を、“ステイラ・ゴーンの十四聖柱”。

 不壊の聖柱に、スピカは魔法を行使。

 天掌によって空間を歪め───その柱に、静かに右手を埋め込んだ。


「わお…」

「絶対に壊せない盾と、絶対に壊れない柱。矛盾で勝負と致しましょう」


 そして、そのまま……力任せに、天井と地面の接続部を破壊し、大聖堂から聖柱を引き抜いた。

 轟音を立てて、瓦礫が天井から落ちてくる。

 聖堂倒壊一歩手前の所業を仕出かしたスピカは、聖柱を大剣のように肩に担ぐ。スピカの身長に対して、明らかに不釣り合いなサイズの聖柱を。

 対面するブランジェは、マジかと目を見開き、頬をヒクつかせるしかない。


「絵面がすっごいなぁ……いーよ、それで相手したげる。そのおっもいのがハンデにならないといーね?」

「ナメないでください。今の時代、女はパワーですよ」


 2人は笑顔だ。

 笑顔とは、本来攻撃的なモノである。その謂れの通り、天使たちの笑みは殺意に満ちていて……

 予備動作もなく、2人は同時に駆け出し。

 ブランジェの聖盾と、スピカの聖柱が、凄まじい轟音を立てて激突した。


ガッッッ、ダァァァァァァァンッッッッ!!


 空間に響く激突音。二つの不壊物は、どちらも欠けずに天使たちの手の中に。衝撃で仰け反りあった2人は、尚も笑顔を絶やさずに激突する。

 勿論、空いた手で魔法をぶつけながら。

 重力砲が放たれる。聖柱が薙ぎ払う。空間が屈折する。聖盾が真っ向から受け流す。至近距離で、中距離で、時に遠距離で。空天使と力天使は大立ち回りを繰り広げながら大聖堂を駆け回る。

 意外と、2人は接戦を繰り広げている。

 埒外のパワーを活かし、重そうにしながらも壊れないと実証し続ける聖柱を振るうスピカに、ブランジェは身体を痛めながらぶつかり続ける。

 既に、天守りの盾の魔力障壁は機能していない。

 幾ら張っても砕かれ、そのままぶん殴られ、盾ごと壁にめり込んでしまう。同時に重力で潰しにかかるが、“空”が足を殺しにかかってくる。


「ハァ、ハァ……楽しい、ねぇ!!」

「ごほっ……そう…です、ねぇ!!」


 スピカは吐血しながら、ブランジェも口から流血して、負傷を隠さず。殴って、叩いて、抉って、穿って、折って曲げて捩じ切って。

 どちらも流血して、血肉を失い、深手を負いながら。

 生者と死者、交わることの無い正反対の天使。こんなに傷付いても、絶対に止まらない。止まれない理由がある。あるからこそ、抗い続ける。

 だが、スピカは勘違いしていた。

 過去の戦いで、ブランジェは他者頼りの回復でしか傷を癒していなかったから。少なくとも、魔導具以外の回復はできないと。その隙も与えない攻撃量を、現時点で彼女は成立させているから。


「……あぁ〜、そういえば」


 今、思い出した顔で。頭から血を流したブランジェは、首を傾げる。


 脳裏に思い浮かぶのは、自分を動かす術式の持ち主から聞かされた、緊急時の再起方法。

 戦闘不可能状態まで身体が傷付いた時。

 周りに治癒できる者がいない時。

 万が一、ボロボロになった時に───死人だからできるやり方で再生する。


「確か、そう」


───set、<ネクロ・アゲイン>


 傷付いた身体を再構築して、更なるもう一度を。自分の意思でもう一度の奇跡を起こす、“虚雫”の術式を元にして造られた再生能力。

 撃鉄を鳴らすように、核である心臓のそれを動かす。

 魔力検知で漸くわかる術式の、ブランジェたちを動かす根源が脈動する。大元であるフルーフ曰く、たった一度の使用がベストなやり方。

 魂を材料に、死肉のボディを再構築。

 スピカの目には、その瞬間が見えた。一瞬、身体全体を魔力とは違う輝きが包んで、晴れた時には、もう。眼前の魔法少女は元通りに。

 ただでさえ損傷していたツギハギの魂を犠牲にしての、高速再生。


「っ…」

「私、さぁ。こういうのに躊躇い、ないんだ。魂を代償にするとか、正直……どうでもよくって」

「バカなんですか、あなた…」

「そうだよ?だって、次なんていらないもん!」


 魂が無事でなければ、来世には行けない。輪廻の輪から外れたまま。一生癒えない傷を魂に負うことは、自分から来世の選択肢を捨てるも同然。

 しかし、ブランジェは躊躇わない。

 自分は自分だからこそ。次の為に残そうなどと、欠片も思わない。微塵も考えない。狂っているとか、そんな陳腐なモノではない。ただ、今の為にと。次はいらないから、死体のままでもいいから。

 後輩の手駒として。悪夢の大王の手勢として、この世に残り続ける。


 悪霊だ。天使ではない。でも、それでもいい。なにせ、彼女はもう堕天しているのだから。

 悪夢の六花として、エスト・ブランジェはここにいる。


「それじゃ、振り出しに戻ったけど……ふふっ。ここまでやっても、私の盾もあなたの柱も、ぜーんぜん壊れない。ある意味本物だって証明できたわけ。でも……」

「ッ、まだ、終わりではないですよ!!」

「そうだけどさぁ〜」


ガンッ!!


 傷一つない力の天使は、傷だらけの将星が振り下ろした聖柱を、片手で容易く受け止めた。

 重さなど感じていないのか。

 最初からできていたことを、ネタばらしするかのように披露する。


「ッ!?」

「対等になれたと思った?渡り合えてると思った?もう、ダメだよ?私は死人なんだよ?生きてる人だったら絶対にやんない回復方法があっても、あっさり使っちゃうぐらい倫理観終わってるんだよ?それにさ……あなたたちが一番警戒している魔法少女は、私の後輩。あの子たちが舞台に上がるまで、私が最強やってたのには、変わらないよ?」

「ッ…」


 ここでスピカは、ブランジェに初めて恐怖を感じた。


 理解のできないバケモノだ。自分の推し量れる領域にはいない、観測もできない異常であると。理解も、共感も、なにもできない相手。

 死して尚生きる理不尽。

 余裕を失わず、余裕を奪えず。理性を消さない怪物は、世界に笑う。


「……それでも。そうだとしても」

「うん?」

「こんなところで……あなたに勝ちを許す程、私は。将星スピカは、落ちぶれていませんッッッ!!」

「へぇ!言うじゃんね!それじゃあ、やって見せなよ!!乙女ちゃん!!」


 だが、決して折れることはなく。

 恐怖を押し殺して、それ以上の忠誠心と、殺意を魔力に流し込めて。


 スピカ渾身の魔法が、聖柱を起点に発動し───世界を軋ませる。


「天掌魔法ッッ!!」


───天掌魔法<ヴィルゴス・ディヴァイーラ>


 最大出力。

 最高火力。

 周囲一帯の“空”を、大聖堂どころか、帝都広域を纏めて巻き込んだ絶技。広範囲を丸ごと空間歪曲して、文字通り全てを一つに収束させて。

 その収束した“空”を、スピカは前方へ解き放つ。

 折れ曲がった空間、建物へのダメージはそこまでない。代わりに、圧縮されていた空間が元に戻る力が、指向性をもって放たれる。


「お?」


 凄まじい地響きを立てて、いつの間にか、ブランジェの視界は歪んでいて。


 圧力解放の余波で、身体は跡形もなく消滅する……


 そんな、本来ならば起こり得る光景を、スピカは、半ば期待していて。その期待が、希望が、裏切られることも、本当はわかっていた。

 なにせ。

 焦燥する彼女の目には───ぐちゃぐちゃにもならず、盾一つで攻撃の八割を防いだ“力天使”が、残念そうな目を向けてくる未来を、予期していたから。

 嫌な予感は付かず離れず。現実となって、スピカの目に叩き付けられる。疲弊から膝を着いてしまったスピカは、悔しそうに仰ぎ見ることしかでかない。

 聖柱は、手から転がり落ちた。


「そっか、終わり?じゃあ…」


 そう首を傾げた微笑んだブランジェが、少しだけついた傷をそのままに、右手を差し出して。

 白魚の如き掌から、黒い球体を生み出す。

 重力という重力を押し固め、全てを破滅への導く漆黒に形作って。


「重力魔法───<ブラックホール>。お別れの言葉は、少なくていいよね?」


 放たれた黒球は、大きな渦を巻き、空間を抉り取ながら身動きの取れないスピカに襲いかかる。

 肩で息をするスピカは、逃げきれない。

 頭の中を巡るのは、今までのこと。320年の、スピカの全てを懐古する。否応にも脳裏を駆け巡るそれらが、己の末路を暗示しているかのようで。意地で動こうと、

 避けられない破滅が、恋に生きる将星の命を奪わんと、高速で打ち出され。


 終わりを迎える───…


 そう思われた、その時。




「祈聖魔法ッ!」

「死告魔法…!」




 スピカにとって聞き馴染みのある声が二つ───ここにいない筈の妹たちの魔法が、背後から飛来する。

 聖なる祈りは姉の壊れた身体を瞬間的に癒して。

 死のお告げは、姉のすぐそこまでいたブラックホールを殺した。


「ねぇね!!」

「っ、はァ……来ちゃったわ」

「ポリマ!?デミア!?」

「わお」


 力天使の魔法は掻き消され───二人の天使が、聖堂に殴り込む。


 つい数分前まで大陸惑星にいたポリマが、姉に寄り添いその背中を支える。己が非力であると理解していながら、避難が完了した筈の帝都の隅に潜んでいたデミアが、姉と妹を守るように前に立つ。

 決戦の場に不相応な弱者たち。未だ包帯塗れのデミアやその妹の登場に、ブランジェは目を見開いた。

 闖入者への殺意は、今の所ない。


「何故ッ!!」

「わたしは直感!姉妹の絆っていうか?ヤバいかも!って思って。慌てて来ちゃった!」

「私は、まぁ。あなたの魔法に巻き込まれて」

「はい???」


 姉の危機を察して戦場をほっぽり出したポリマと、内心何してるんだろ私と建物の影にいたせいで、遠くの聖堂の空間巻き取りに巻き込まれたデミア。

 どちらにせよ、死に瀕した姉を助けようと咄嗟に魔法を使ったのは事実だ。

 ちなみにポリマは私情で大陸惑星から離れる前に、自分そっくりの聖像に魔法をかけ、自分の代わりに祈りをして兵士たちのバフをするように施してからここに来た。

 本物の聖座がいなくとも、暗黒王域軍は敵に勝てる。

 そして、デミアは…お供のフラミンゴモドキを懐の中に隠し持っている。ブランジェには特に気付かれないよう、内心ドキドキしながら。


「久しぶりね、エスト・ブランジェ」

「やっほやっほ〜。元気してた?」

「えぇ、ぼちぼち……それで、悪いのだけど。この戦い、邪魔するわね」

「えぇ〜?」


 自分を助けてくれた恩人の一人と敵対する。その事実に思うところがないわけではないが……それでも、ここまで来てしまったのならば、やるしかない。

 姉は止まらないだろうから。

 妹も傍に居続けるだろうから。

 それと、二人を手にかけるのならば……それは、自分がやりたいことだから。魔法少女に譲ってやる程、デミアの世界への殺意は、身内にも向く敵意は生半可ではなく。

 だから、仕方ないから。

 自分の殺意を受け止めてくれる家族と共に、魔法少女に刃を向ける。


 その後ろで、立ち上がったスピカの腰を掴んだポリマも吼える。


「初めまして、ポリマです!色々お世話になってます!」

「ブランジェだよ〜。そっかぁ、うん。似てるね。本当に姉妹なんだねぇ……それで。ここに来たってことは、私にぶん殴られる覚悟があるってことで、いいんだよね?」

「ひゃわわ!こわ、こわ〜。でも、違うよ!恩を仇で返すようなことになっちゃうけど……あなたに、わたしたちの命は奪わせないから!!」

「一丁前に言うじゃん。これ、もっと手ぇ抜いとけば楽に終わったかな〜?」


 星教会の罪を明るみにし、次女を救ってもらったことの感謝を述べながら。それとこれとは別だと、将星として、この場に立つ。

 恐れがないわけではない。

 それでも、聖座として、将星として、妹として、ここに舞い降りたのだ。瞳に力強く意思を込めて、弱々しい姉の背中を叩く。


 相手が誰であろうと。力が弱かろうと。頑張ることは、できるのだから。


「……すいません、二人とも。その、ありがとう」


 妹たちの存在に不思議と鼓舞されたスピカは、両の手でパシンッと頬を叩く。気落ちしていた意思を、姉の自負と痛みをもって浮上させる。

 こてんぱんにやられたけれど。

 まだ、戦える。このチャンスを、スピカは掴み取って、勝つ。


「…エスト・ブランジェ……第2ラウンドの申し込みは、今からでもできますか?」

「んふふ、仕方ないなぁ。いいよ。その負けん気、誰かの存在があって、ちゃんと立ち上がれる子は……私は、絶対無碍にしないから」

「そうでしたか」


 仕切り直しを宣言して───“恋情乙女”と、“聖印乙女”、そして“死天使”との激突を了承して。

 先程まで垣間見えていた狂気をしまったブランジェは、相対する三姉妹を見る。自分よりも格下だが、自分に通用する力を持っている、3人。今の一瞬で、魔法を見て……感じ取った、事実。

 人数不利ではある。実力差は、まだこちらが上。

 そして、相手の本気に応えるのならば───こちらも、本気で行かなくてはならない。


「でも、その代わりに───ギアを一段階、上げるね」


 聖柱を背負い直したスピカと、聖槍をぷるぷるした手で持ったポリマと、憂鬱そうにしながらも、目に力を宿したデミアの拳銃を眺めながら。

 宣言したブランジェは、魔力を高鳴らせる。

 魔法少女の最高地点。世界で初めて、その領域に至った始まりの魔法少女であり、ラピスでも奪えない一位の座を手にした、一番目。


 夢を力に、勝利をその手に。


「“Kyrie eleison”───救済、執行」


 それ即ち、ドリームスタイル。

 天上の輝きを味方につけて。覚醒を遂げた“力天使”が、裁きを下す。


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一度再生するだけで輪廻から外れる可能性があります。では、自分の魂に乱れた「蒼月」回はどの程度の狂気ですか?彼女の一部の記憶が曖昧になった今、問題の一部が見えるようです。 また、能力から見ると、「力天…
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