307-ユメ色の星の子たち
───「星の回廊」中継塔。
星の子供たち、ジェミニスター兄妹の「発生」に伴って構築された、星々を繋ぐ異空間ロード。何故そこにあり、世界の裏側と呼べる空間を繋げているのか。その謎めいた特殊構造は、未だ解明されず。
今のところ、危険生物や怪奇現象は起きていないからと利用されているが。
“星喰い”に力の一部は譲渡され、無駄な魔力を消費する必要性が減り、皇帝の支配地の視察はより円滑に、そして侵略先の惑星への直下皇帝顕現も容易となった。
そうして、皇帝のサポートとして二百年の歳月を捧げた双子座の将星。
カストルとポルクスは、今。忌々しい蒼月の後輩たる、新世代の魔法少女と激闘を繰り広げていた。
“祝福”のリリーエーテ。
“彗星”のブルーコメット。
“花園”のハニーデイズ。
そして、“陽だまりの妖精”ぽふるん。悪夢と共生する、仮初の上に成り立つ平和な時代に生まれた、最後の世代の魔法少女たちと。
「夢想魔法ッ!」
「星魔法───ッ!」
「花魔法っ!」
三色の魔法。夢となる願いの桃色、星の青、豊かな命を意味する黄色……地球の代表たる新世代。彼女たちが持つ光の魔法が、“双星銀河”を下さんと放たれる。
悪夢を晴らす光が、「星の回廊」を美しく染め上げる。
「崩星魔法ッ!」
「奏星魔法っ!」
魔法少女に対抗して、カストルとポルクスも得意の力で迎え撃つ。滅びの運命が決められた星を無から創る崩星、予め「星の回廊」に取り込んでいた星々を自由自在に操る奏星。星を思うがままにする魔法と、正面から激突。
あまりにも大きな、星そのものが二つも降ってくる。
しかし、そんな危機的状況であっても、新世代の3人は臆さない。
「まだまだ!」
「この程度かしら!?」
「ナメないでよね!」
「そっちこそ!」
「ぶち壊す!」
彼女たちは鍛えられた。
アリスメアーに、リリーライトに……ムーンラピスに。未だ一年にも満たない戦闘の歴史は、うら若き戦士たちを急激に強くした。
悪夢に負けなくなった。
死なないように、身体も心も、全てが高水準になるまで鍛え上げられた。
死んで欲しくないから。生きて欲しいから。そう祈った先輩たちの願いが、形になった戦乙女。
その力は、悠久の時を生きる将星にも通用する。
どちらも敗北を許されない環境下。魔法少女も将星も、背負うものがある。それ故に、絶対に負けられない戦いに5人は挑む。
「全ては、陛下の為に!」
「そして、私たちの為に!!」
───崩星魔法<ディスインテグレーション>
───奏星魔法<メテオリック・ブラスター>
星の命を熱源に、特大の破壊光線がエーテたちを狙って撃ち放たれる。回避は不可能。逃げるには足が遅すぎる。3人の行動範囲を埋め尽くすように、光が宙を突き破る。
普通であれば、並の強者でも塵に変える魔砲。
だが、この場にいる魔法少女を相手取るには……少し、頼りない。
「強い圧…」
「でも、この程度なら!」
「なんとかなりそ!」
「だね!」
意気揚々と、3人は宙を突き進む。それも、自ら光線に目掛けて宙を飛ぶ。目にも止まらない速さで落ちてくる、とてつもない規模感の星の光。迫り来る破滅に、新世代は各々のマジカルステッキを重ね合わせる。
三色の宝石が、同時に煌めいて。
力を合わせた少女たちの力。自称三人で一つ、一丁前の魔法少女であると、何の憂いも躊躇いもなく叫ぶ3人は、魔法を放つ。
「“蒼天に坐す光よ”!」
「“あまねく希望をその手に束ね”!」
「“世界を照らせ”!」
「「「───夢幻三重奏!<シン・マギアトリコロール・ハイドリーミーライト>っ!!!」」
絶対に負けない、確固たる意志を込めた三つ色の光が、天上高くまで打ち上げられ。
彼女たちの今までを築き上げた光が、星の光を穿つ。
拮抗もしない。
抵抗も少ない。
悪夢と戦い、魔法少女と戦い、異星人と戦ってきたその経験値が背中を後押しする。経験に裏打ちされた強さを、将星に見せつける。
二つの光線は、対消滅という結果で霧散した。
文字通り、余裕を持って。双子の放つ星のエネルギーを打破してみせた。
「ッ、んにゃろ!」
「これが……やはり、あなたたちも魔法少女……ですね。そう易々と墜ちてはくれませんか!」
「当たり前でしょ!」
真正面から打ち砕かれたのにも関わらず、双子の将星に焦りは少ない。それどころか、それぐらいやってくれねば意味がないとでも言うように笑っていた。
双子にとって、これは憎き蒼月を討つ為の下準備。
先のエネルギー砲など、小手調べの一手でしかない。
こんな所で足踏みはしてられない。そして、それは……魔法少女たちも同じこと。
どちらも次のリベンジを懸けた戦い。本調子を出すにはまだ早いのだ。
「でもな!」
「だけど!」
カストルとエーテの声が重なって、二人は驚いたように顔を見合せてから……
ニヤリと笑って、宣言する。
「全力で!」
「本気で!」
「おまえたちをぶっ倒す!!」
「私たちは、あなた二人に───勝つッ!!勝って、その先に進むんだ!!」
「やれるもんなら!!」
「やってみなさい!!」
何度目かの宣誓をすることで、自分たちの想いを、敵に向ける想いを再確認して。
鼓舞して、力を高め、息を揃えて。
両陣営幹部陣の中で、一際輝く若き強者たちの想いが、またしても激突する。
エーテの魔杖の打撃や突き技、コメットの星槍の刺突や薙ぎ払い、デイズの花斧の振り下ろしや力押しが。
カストルの星拳の乱撃が、ポルクスの星剣の斬撃が。
至近距離でぶつかり合う5人は、その整った顔を戦意で笑みに変え、闘志を燃やして、互いに一手も譲らぬ死闘を演じる。
「星拳突きッ!」
「星剣よ、輝け!」
「ったー!?」
「デイズ!防御を過信しすぎよバカ!」
「咄嗟に張ったのを褒めてほいかなー!!てか、あんなにスパッといけるの怖っ!」
「緊張感ッッ」
カストルの星拳をデイズが受け止めた瞬間、真横に突然現れたポルクスから斬撃をもらった。間一髪魔力障壁の盾を展開したことで直撃は免れたが、盾を斬られて被弾。
肩を斬られたが、比較的軽傷で済んだ。
打撃、斬撃、そして魔法。複数の攻撃が織り成す攻防は目にも止まらない。
全員が大小様々な傷を負い、それでも止まらない。
疲れてはいる。早く休みたい気持ちでいっぱいになる。それでも、ここで少しでも手を抜いたら負けだと、全員が理解している。
「お兄様!」
「あぁ!」
その時、ポルクスが突然攻撃の手を止めて、宙高くへと飛び上がった。追いかけようとするエーテたちだったが、カストルが割り込んで邪魔をする。
遊ぶように、誘うように、拳の連撃は止まらない。
「身体は温まったか!?」
「お互いに、ね!」
エーテの杖術と、カストルの星拳が激突し、またしても火花を散らす。追撃として襲いかかるコメットとデイズの攻撃も受け止めて、妹の方に向く攻撃を抑える。
3人もわかっている。
つい先程戦闘から離脱し、遥か上空で魔力を高まらせるポルクスを相手しなければならないのは。
だが、双子の兄がその行く手を阻む。
以心伝心、妹のやりたいことを兄は理解して、最大限の援助をする。その為に、魔法少女たちの視線を独り占めにするのも吝かではない。
そんな兄の想いを汲み取って───ポルクスの魔法が、空間を繋げる。
「“星を結びて、宙と成す”───「星の回廊」、疑似天体スケールと接続。星天航路、確保。対象惑星及び流星群の誘致、完了。天体操作権の掌握、完了───…
奏星の名の元に、天よ、宙を突き破らん!」
───奏星魔法<ホロウコール・メテオスプラッシュ>
詠唱を完了させて、目標の星を掴み取って。ポルクスは魔法を起動する。
「星の回廊」を開き、そこにある星々を呼び込んで。
天上に開いた超巨大スケールの虚空から、恒星、惑星、衛星、彗星といった、暗黒銀河の外側にあるどうでもいい星々を、指向性を持たせて落とす。
流星群でもあり、流星群ではない惑星降下。
被害規模など考えない、ポルクスの魔力の六割を使って漸く完成する、銀河破壊攻撃。千を超える星々は、魔法で耐久力や推進力を強化済み。確実に魔法少女たちを葬らんとする勢いで、星空を象った回廊の中に降り注ぐ。
逃げ場はない。
空間転移で跳んだカストルが、脱力するポルクスの背を掴んで、飛翔。より上層へと、被害規模を考えて魔法少女から距離を取った。
そして、カストルを取り逃し……その場に取り残された魔法少女たちはというと。
「“死”じゃん」
「うわーお、なにあれすっごい」
「やっぱ将星ってヤバいのしかいないのね……ぽふるん、魔力の貯蔵は大丈夫?」
「問題ナシぽふ!」
達観した目付きで宙を見上げていた。迫り来る流星への危機感はある。あるにはあるが、彼女たちは、より脅威を感じる攻撃をその目に映してきた。
規模はこちらの方が大きいが……
あの日、悪夢との決戦の日。地球を呑み込まんとした、あの蒼い輝きの集合体と比べてしまえば。どうしても……負ける気がしてこない。
油断はない。
慢心もない。
ただ、できるのだと───心の底から、自分たちの力を信じている。それだけの自信を、暴力的な先輩たちの手で彼女たちは培った。
例え、地球程度跡形も残さない流星群を前にしても。
その規格外な攻撃が相手でも、歩むことを、進むことを諦めない3人が、臆することはない。
各々のマジカルステッキを天に掲げ、重ね合わせ。
「“願いの夢”!」
「“誓いの星”!」
「“祈りの花”!」
「「「───“想いを束ねて、あなたに届ける!”
夢色三重奏!<ホープ・ホープ・マギアトリコロール・カノン>ッッ!!」」」
満たされた人々の想い。穢れのない祈り、希望を一つに束ね上げて。
絶対に勝つという誓いを、ここに。
二人で一つの将星、その片割れの力に。三人で一つの。そして、契約妖精の応援の力も後押しして。将星に勝つ、みんなで地球に帰る。そんな思いを実現する為に考案した必殺の夢光。
出し惜しみはしない。ここで乗り越えられねば、お話にならないのだから。
「ッ!?これは…」
その光景を、カストルは見た。
魔法少女たちの輝きを。真正面から、星の雨を打ち砕く夢色の奇跡を。
ありえないと否定したいのに、できない。
できっこない。
妹の渾身を───たった一条の光が、魔法少女の全力が消し去っていく。
恒星の爆発も起こり得ない。
全て、等しく。魔法少女の暖かな光が、星空に染まった世界を包み込んでいく。
数分間、カストルとポルクスは動けなかった。
回廊に降り注ぐ星々が、次々と浄化の光に当てられて、光の中で消えていく光景……ただの魔法では説明つかない光景に、目を奪われる。
将星は知らない。暗黒銀河は知らない。
ユメ色の祈りは、従来の魔法の威力を遥かに上回り……世界に届く、強大な力となる。宇宙にも負けない、絶望を軽々と乗り越える、希望の力となって。
魔法少女の全力を、全身全霊を。
ジェミニスター兄妹は、その目に焼き付ける。新時代を生きる星の子たちを。
やがて、宙を埋め尽くしていた夢光は収まって……天を揺るがしていた轟音も、避けられない破滅も、終幕という形でさえも。
全てが、幻のように消え去った。
残ったのは、泰然として空間を維持する「星の回廊」と双子の将星。そして、息を切らして呼吸を整える、3人の魔法少女と妖精だけだった。
打ち勝ったのは、魔法少女。
ポルクスの惑星召喚連降星は、魔法少女の魔力と体力を奪うだけに終わった。
「ふぅ、はァ……うん、勝てた」
口元を拭ったエーテの、勝ち誇った顔。他の2人からも同じような顔をされて……打ち破られたポルクスと、その光景を見せつけられたカストルが、黙っていられるわけがなく。
疲れを無視して、魔法少女の元へと蹴り込んでいく。
「魔法少女ォ!」
「よくやりました、と褒めてあげます!」
「でも!こんなんで勝った気になんなよ!僕たちはまだ、負けてないんだからな!!」
「お兄様の言う通りです!!」
双子にとって最大級の魔法が打ち破られた。それでも、まだ負けではない。余力は豊富。失った魔力の回復自体はポーションで補えばいい。
まだ戦いは始まったばかり。
大技が封殺された程度では、将星が止まるわけがない。そう吼える双子からの星拳と星剣を回避しながら、3人の魔法少女は笑う。
「そうだね、その通りだ。まだ、完全勝利とは言い難い。だから、まだまだ行くよっ!」
「逆に降参された方が、願い下げってヤツよ!」
「こっちだって、やる気いっぱい!勝つ気満々!いーよ、最後まで相手してあげる!!」
「ぽふるん、回復!」
「はいぽふー!」
戦意を漲らせて、敗北なんて知らないと力強く吼えて。回復要員のぽふるんを片腕に抱き締めたエーテが、双子へ真っ直ぐ指を突き付ける。
自信満々に。額から流れる汗を気にせずに。
気の抜けた勝利宣言をもって───双子の将星に最後の喧嘩を売った。
「お姉ちゃんとお姉さんに褒めて貰えるから!私たちは、負けないよ!!」
鍛え抜かれた新星の躍動は、翳ることを知らない。
次話と次々話は年始年末の特別番外編です。
本編開始は1/2からです。




