303-似たもの同士
───黒灼炎星ヴォルカモンスター。
極光と魔壊暴牛、二つの最強がぶつかり合う、恒星でも一位二位を争う危険地帯。生半可な強者でも立ち寄ることを許さず、即座に焼滅させてしまう程の熱波が、星全体を覆っている。
岩石とマグマ、炎しかない生きた星。
伴星の固有種なのか、意志を宿したマグマが龍となって襲いかかって来るなとの、常識では測れない“自然現象”が平然と起こる。そんな異常が普通とされる伴星で、2人の魔力が火花を散らす。
ガキンッ!!ゴォッ……ズガンッ!!
聖剣と魔戦斧の連続激突。両者互いに一歩も譲らない、物理一辺倒な叩き合い。
二人揃って獰猛な笑みを浮かべて、牙を剥き合う。
「ハハッ、そんなもんかァ!?」
「まさか!ナメないでよね!!」
爆光を纏った聖剣が、エルナトの皮膚を掠める。だが、彼女の強靭な肉体は剣閃を掠り傷にすらせず、一切を防ぎ無傷に収めてみせる。元より肉体が異常に硬く、並の攻撃では傷一つ付けられない。それは、リリーライトの聖剣であっても同じこと。
プラネット・ラグーンでの攻防では、リリーエーテたち新世代の攻撃を、最後の一手を除いて防ぎ切り。そして、リリーライトの極光斬撃と、エスト・ブランジェの重力砲でのみ軽傷を負ったぐらいには、彼女は素で硬い。
内臓破壊攻撃だろうと、エルナトには小さきモノ。
それは、聖剣という浄化の魔力がふんだんに込められた斬撃であろうとも。
「効かねェなァ!!」
加えて───この伴星は、エルナトの魔法特性を活性化する、あまりにも彼女に有利な独壇場。溶岩は傷を癒し、筋力を増幅させ、魔力を脈動させる。
マグマを浴び続け、偶然口に入った飛沫を舐める。
それだけでエルナトという超生物は強化され、戦場にて無類の強さを誇るバケモノへと変える。リリーライトをも苦戦させる、最強のバケモノへ。
「かったいなァ!」
聖剣を煌めかせるライトは、頬を上気させたまま斬撃を幾度も繰り出す。
斬撃が効かない?
極光が弾かれる?
───それがどうした。
「あはっ!楽しくなってきた!!」
リリーライトの戦績に、やたら硬く、やたら強い強敵を討伐した実績は幾つもある。地球という魔境には、速度も兼ね揃えた強敵もたくさんいる。そんな硬すぎる怪物も、光り輝く斬撃をもって下してきた。
ならば、この暴牛も討伐できないわけがない。
暴れ狂う溶岩を魔力防御をもって防ぐ。全身から灼熱を浴びようと、最早、ただ熱いなとしか思わず。余裕で熱を耐えて、ライトは暴力に訴える。
剣閃が煌めく。
爆光が劈く。
「“聖剣解放”ッ!!」
───極光魔法<リヒト・エクスカリバー>
溢れんばかりの持ち得る魔力を聖剣に注ぎ、膨らませ、背後を取ったエルナトの背に打ち付ける。気付けば背後を取られていたエルナトは、無防備に極光を受け止め。
全身に伝わる衝撃に目を見開く。
何故ならば、僅かではあるものの───背中に、薄らと切り傷ができたから。
痛くはないが、驚いた。
「へぇ!」
「やっぱ、こうでもしないと傷付かないかぁ……ホント、すんごい身体だね!!」
「ハハッ、やるじゃねェか!!」
聖剣解放による魔法の一段階ブースト。それだけで力は底上げされ、エルナトの強靭な身体に掠り傷を与えることができた。たったそれだけの結果でも、エルナトに驚愕を与えた。並大抵の攻撃では傷つかない剛体。皮膚が鋼より硬いエルナトは、歓喜に目を見開く。
以前の戦いでもわかっていたことだが……やはり、己の相手は素晴らしい強者であると。
歓喜に震え、より苛烈に圧を垂れ流す。
……ライト的には、並の怪人なら即殺できるブーストでここまでしか傷付けられないとなると、より力を込めねば勝てやしない。
だが、ライトは怯まない。なにせ、それぐらいやって、漸く戦いの土俵に立てる相手と戦うことは……
むしろ、喜びでしかないのだから。
「行くよっ!」
「迎え撃つ!!」
声を弾ませて斬り掛かるライトに、エルナトは獣めいた獰猛な笑みを浮かべて反撃する。
今、一番傷を負っているのはライトだ。
少ない傷ではあるが、無傷に程近いエルナトと比較して痛々しい。それでも、光魔法で身体を回復させて継戦する丹念に、エルナトはある種の敬意を表する。
リリーライトは強い。エルナトが過去戦ってきた、どの強者よりも強い。
だが。
「オレの方が、強ェ!
───闘神魔法ォ!<ウォーゴッドアーツ・ブーティス・ヒヤドゥム>!!」
ここで初めて、エルナトは魔法を詠唱して───轟音が黒灼炎星を支配する。噴火を塗り替える、凄まじい規模の大爆発が戦場を一新する。
とんでもない爆風を浴びて、ライトは腕で顔を遮って、熱波による目の蒸発を防ぐ。後輩の新世代は、今の覚醒で一瞬意識を飛ばしたが……ライトは、一切動じない。
大地を捲り、ただでさえ暑い世界を、更に加熱して。
一段階ギアを上げたエルナトは、チリチリと肌に刺さる紅い闘気を身に纏う。
「よく耐えたな。今の余波で死ぬヤツは五万といるが……テメェら魔法少女は違ェ。期待する分だけ、いい具合いに返ってくる。最高だなァ?」
「いやぁ〜、魔法少女もみんな強いわけじゃないけどさ。んまぁ、ここにいるのは……上澄み中の上澄みしかいないから、安心してよね!!」
「ハッ、そいつァよかった、なッ!!」
余程嬉しいのか、エルナトは豪快に笑ってから、ライト目掛けて突進。轟音を立てて大地が捲れて、溶岩が天高く舞い上がる。雷速には劣るものの、エルナトは最高速度でライトを轢きにかかる。
父、タウロスの重突魔法を彷彿とさせる、新路上の一切合切を轢き殺し、消滅させる突進の極地。その力の一端がライトに向けられた。
目で追いかけるのも難しい急接近を、ライトは勘で対処する。
「光魔法───<ソレイユブレイカー>!!」
正面に爆光を放ち、エルナトの爆進の邪魔をしながら、咄嗟に身体を右に逸らす。
防御は間に合わない。攻撃を挟んで、衝撃を和らげる。
その目論見は、半ば成功した。爆光を浴びたエルナトの突進は、ほんの少し押されたことで弱まり……直撃をギリ回避したライトは、少し掠めただけで吹き飛んだ。錐揉み回転で空を舞い、聖剣を大地にぶっ刺す形で遠くまで吹き飛ばされずに済んだ。
「っ、たた……いや、つよ」
蒸気を噴き上げて立ち止まったエルナトが、断崖絶壁を粉微塵の瓦礫に変えた光景を見ながら、ライトは心からの本音を漏らす。
衝撃を減らすのも難しかった。
最悪、掠めた腕が引きちぎれる未来が見えていたが……どうにか五体満足で生還できた。骨は折れたし、筋繊維は断裂したが。
「光魔法、<リザレクト・ライト>…」
頭から溶岩を被ったエルナトが、髪をぐしゃぐしゃして払っているのに隙をついて、ライトは治癒の光を全身へと浸らせる。瞬時に骨折が治り、完全断裂も即座に修復。
高速治癒の腕前を披露しながら、聖剣を肩に担いで足を進める。
「強いなぁ、本当に!!」
そのまま、相手がこちらを見たのを確認してから───足から魔力を放出させて、聖剣を構え、エルナト目掛けて突進を仕掛ける。
先程の巻き直し、もしくは仕返し。
ロケットのように加速をつけて、より輝きを増した剣を突き刺す。
「っとォ!!」
「やだなぁ、防がないでよ。どーせ硬いんだからさ!」
「無理なこと言うなよ!オメェの強さは、今更言うまでもねェんだからよォ!攻撃の一つ一つ、警戒しなきゃ戦いもつまんねぇだろ!」
「確かに!でも安心して!私、毒とか仕込まないから!」
「おっ、最高じゃねェか!そんなら、安心してぶちのめせるなァ!!」
魔戦斧で聖剣を受け止め、迸る光がエルナトの肌に傷を作る。薄皮一枚、未だ流血はないが……だんだん、痛みを意識せざるを得なくなってきた。
その事実に、エルナトは認めざるを得ない。
わかっていたことだが───“極光”の魔法少女は、己を倒せる可能性を持つ、強者であると。そう易々と、圧倒的強者たる己に膝をつかない、“本物”であると。
理解して、心躍る戦いに期待を寄せて、笑う。
エルナトは最強を自負する。歳だけ食った天魚や弓術が馬鹿げている天馬とは、年季の差だけが彼我の差であると理解している。それでいて、彼女に敵う強者はあまりにも少ない。立ち向かう者も、見込みある強者も、彼女の前で焼き焦げる。あまりにも退屈な終わりに苛立って、鬱憤を晴らすかの如く殲滅先の惑星を消し去ったのは、一回二回では済まない。
だからこそ歓喜する。自分の熱に負けない、闘気を前に正気を保って、繊維を喪失しない本物の強者を歓迎する。
魔法少女リリーライトは、まさに理想だった。
そんな理想の塊へ魔戦斧をぶつけて、蹴りを放ち。首を狙う聖剣の殺意を退ける。
「楽しもうぜェ!───闘神魔法<ウォーゴッドアーツ・ネッカルハンマー>ッ!!」
斧を持っているのとは反対の空いた拳で、自慢の灼拳をライトに食らわす。轟音を立て、周囲を流れる溶岩を蒸発させながら迫る拳を、ライトは聖剣で咄嗟に防ぐ。
大地を叩き割り、星に衝撃を放って噴火を起こす拳。
その一撃は、聖剣というマジカルステッキで防ぐには、あまりにも強大すぎて。
「ッ、ヤバっ!!」
本能的に防御に出たのが悪かった───ライトは回避をできず、真正面から拳を浴びてしまって。
聖剣に拳が当たる。
邪悪を浄化、滅殺する極光。勇者の光を宿した聖剣は、嫌な音を立てて……
バキンッ───…粉砕された。
刀身から聖剣は破片となって、光を纏った残骸が空中を舞い散って。
暴牛の拳が、ライトの柔いお腹に突き刺さる。
「ぅッ、かはっ───!?」
身体の中が軋む音が鳴る。血反吐が宙を舞い、肺の中の空気が口から飛び出す。口から内臓が飛び出そうな、壮絶な痛みがライトに襲いかかる。
そのまま、拳が振り抜かれるのに合わせて吹っ飛んで。
意地で刀身を失った聖剣の柄を掴み、落とさないように耐えながら、大地と激突。溶岩の滝を突き破り、ゴロゴロ燃える大地を転がる。
無意識に張った魔力障壁で、なんとか衝撃をカバー。
腹部のダメージと、地面と衝突した後頭部のダメージは凄まじいが……まだ大丈夫。口元の血を拭って、ライトは立ち上がる。
「ごほっ、げほっ……ッ、ハァ……ふぅ。キッついなぁ。んん、オエッ……ぺっ!」
ライトは口内に溜まった血を吐き捨て、凄まじい強さを見せつけてきた強敵を睨みつける。
想定はしていた。これだけのダメージで抑えられたのは奇跡である。身体は重いが、あの日夢貌の災神にトドメを刺された時よりかはマシである。
幾ら治癒しても無駄かと思いながらも、気休めで腹部に治癒の光を当てる。
「うーん、私の聖剣、別に脆くないのになぁ……んもう」
四人目だ。リリーライトの聖剣が砕けたのは。将星では二人目。カンセールに続き、二人目の破壊者。エルナトの脅威を再確認して、柄に魔力を込める。
その様子を、エルナトは黙って見つめている。
彼女は知っている。リリーライトの聖剣が、その程度で終わりではないことを。戦いを楽しむ為、殺し合いで飢えを満たす怪物は、再起の時を待つ。
膨大な魔力を斧に流して、何時でも迎え打てるように。
油断でも慢心でもなく、強さへの敬意から猶予を与える敵に、ライトはらしいなぁと苦笑いを浮かべながら聖剣の刀身を再構築する。
元を辿れば聖剣もマジカルステッキ。本体が無事なら、魔力がある限り、何度でも使い回せる便利グッズだ。
妖精たちが聞けば怒るようなものの見方だ。
言い始めたのは誰かなど言うまでもない。幼馴染揃って反省部屋行きだ。
そう自嘲しながら、ライトは笑う。
戦場には似つかわしくない、日常の延長戦にあるような笑みを浮かべてから。
「まったくさぁ……もっと楽しくなっちゃうじゃん!?」
豹変する。
リリーライトは自他ともに認める戦闘狂だ。殺し合いが好きなわけではないが、身体を動かして、物理で強い敵と渡り合うことに、高揚感を覚える。
人間としては、その反応は何もおかしくはない。
人を傷つけて喜ぶ者など、この世には五万といる。その中でも、ライトは極めて善性が高く、善いことの為に力を発揮しているだけだ。
戦いは好きだ。戦い終わった相手と健闘を称え合うのが好きだ。無益な殺し合いより、そっちの方が余っ程いい。ただ、その好きが許される環境ではなかっただけで。己の強大な力もまた、生かすよりも殺す方が楽だっただけで。
アリスメアーとの戦いは、殺すか殺されるか、逃げるか逃げられるかの二択しかなかった。
悪夢に染まった幼馴染も、生かす選択肢を許さず。
異星人との戦いも、安全面を考えて葬る以外に選択肢が狭められていて。
窮屈だった。
不満だった。
苦痛だった。
だが、それも今日で終わり───今、目の前にいるのは怪物中の怪物。神話の怪物たちのような、英雄に殺される為だけにいる都合のいい敵役でもない。
殺しても死なない、必ず立ち上がってくれる強者。
自分を苦戦させられる、それでいて対等な力の持ち主。期待を寄せてもいい……否、絶対に期待を裏切らない最強の女将星。
どうしてもワクワクが勝る。勝るからこそ口惜しい。
彼女と最後まで戦えないことが───強すぎるせいで、引っ張りだこな自分のせいで、彼女との決闘を、少しだけ先延ばしにしなければいけなくなることが。
だが、その心配も今はいらない。
時が経てば、その時が来れば、改めて嘆けばいい───故に、今はただ。
何も考えずに。万が一倒してしまったら、謝ろうと軽く笑いながら。
聖剣を握る。
「邪念はいらない───お待たせ!それじゃあ、元気よく行こっか!!」
サン・エーテライト。今思えば、姉妹の名を冠する光の聖剣を再構築して。作り直せば作り直すほど、より最強の刃となることを祈りながら。
輝きを取り戻した聖剣に、早速とばかりに発破をかけて魔力を解き放つ。
その眩い輝きを見て、魔力を沸騰させていたエルナトは笑みを零す。
「いいねぇ、いいねぇ!こりゃ、楽しくなりそうだぜ……だからこそ!!オレは、“宣誓する”───【エルナトは、最後まで倒れることなく暴れ続ける】と!!」
「ッ、魔力が…!」
宣言と共に、エルナトの魔法出力が増大。可視化できるオーラが、一際大きく膨れ上がる。重みを増して、更なる輝きをもって、天上という高みへ覚醒する。
覚醒し、宣誓し、世界の頂点を目指す闘神の祈り。
ステージをもう一段階上げたエルナトは、終わることのない戦いにその身を捧げる。
喜悦に塗れた笑顔で、最高の敵を視界から逃さない。
「我慢ならねェよなァ……精々、死ぬまで楽しもうぜェ!なァ、リリーライトォ!!」
「いいよ!時間が許す限り、満足させてあげるッ!!」
瞬間、2人は示し合わせたかのように───同時に剣と斧を向け合って。
「闘・神・魔・法ッ!<ウォーゴッドアーツ・メルガドンクエーサー>ァァァッ!!」
「真・極光魔法!<リリー・ホーリーカノン>ッ!!」
紅き熱線と、白き光線が、煮え滾る世界を貫いた。




