302-歌と祈りの応援バトル
───主戦場、“大陸惑星グロードシェルフ”。
特別な通行証を目印としたワープによって入場できる、“極黒恒星”の手前を陣取る一枚岩。あまりにも広い荒野は平坦でありながら、その重力は球体惑星の重力と変わらず同じ環境下という不可思議に満ちた星。
恒星異空間では実施できない軍事演習や、宇宙怪獣らの放し飼い、決闘の場など、多岐に渡る運用が成される大陸なのだが……
その星で、今。史上最大の銀河戦争───たった五万の兵力を相手取る為に、暗黒王域軍の全てが、総力をもって出撃していた。
夢星同盟軍と暗黒王域軍。双方の軍は、どちらも揃って怒号を上げ、咆哮と共に激突する。
彼らが勝つか負けるかは、代表たちの勝敗で決まる。
勿論、こちらでの勝敗も重要だが……どちらが多く生き残るかでも、運命は決まる。どちらの軍が多く残るのか。圧倒的総数を誇る暗黒王域軍か、少数精鋭ながらも強大な力を有する夢星同盟軍か。
いつの日かの叛逆を。革命を夢見て計画してきた獅子の軍勢は、比較的他の軍と比べて練度が高い。ウルグラ隊はその筆頭。魔法少女という明確な指標も相まって、彼らは更なる強さを追い求め……乱戦の場でおいても、そう易々と死なない耐久力を、戦闘能力を、そして生存能力を獲得するに至った。
更に。
「さァ、行くッスよぉ〜!アクゥーム軍団、出撃ィ!!」
魔法少女と同盟を結んだことで齎された、地球の悪夢。多種多様、人を象った夢魔の怪物たちが、アリスメアーの指揮下の元、一斉に戦場に現れた。
人呼んでアクゥーム。
暗黒銀河だけでなく、宇宙全体で見ても地球でしか確認できていない、異形の悪夢兵が戦場を蹂躙する。数多くの魔法少女を苦しめた実績を持つ怪物たちは、各々の特性を活かした攻撃方法で異星人をも苦しめる。
討伐方法は不明。そも、悪夢の塊である怪物に、好んで戦いを挑む者は少なく。命知らずが立ち向かっては、黒い魔力に当てられて死んでいく。魔法少女が持つ浄化の力、若しくは悪夢を消滅できる程の強大な力が無ければ、かの夢魔と相対することも許されない。
そんな、この戦場においては無敵に等しい夢魔の軍勢。彼らを率いるのは、悪夢の案内人。アリスメアー三銃士の時使い、“逆夢”のペロー。
ウサギ型のぬいぐるみを巨大化させたZ・アクゥーム、マーダーラビットの頭部に器用に搭乗して、ペローは夢魔軍団に指示を下す。
戦場全体に散開させて、影響を受けない機械獣と組んで敵兵を蹂躙する。
そして。
「マーチ・オン・ステージ!!戦場特別LIVEだよー!え、不謹慎?なんのことかわからないかなー!?」
「取り敢えず歌でバフ!バフバフバフ!!」
:唐突な生配信
:えっなに、もう最終決戦!?
:事前告知とかないんでつか
:緊急速報で草ァ!!
:うわー、アクゥーム大乱舞…
:すっげぇ…
戦場の上空。総旗艦ネオ・ズーマランドの眼前に、特設ライブステージこと、ウタユメドームに乗ったアイドル系魔法少女、“王国”のマーチプリズが戦場にバフをかける。
ラピスが増設した魔力ラインで、配信魔法も接続し。
告知無しで地球に生配信を送りながら、夢星同盟軍へとバフをかけまくる。
「うおーっ!!」
「身体が軽い!力が入る!やっぱスゲェ!」
「姐さんの歌を聞けェ!」
「野郎共ぉ!この歌聴いて負けようもんなら、一生モノの恥晒しだからなァ!!」
「応ッ!!」
彼女の歌声は、夢星の戦士たちの士気を上げ、攻撃力や耐久力など諸々を上昇させる。突発的な身体強化はあまり推奨されないが、夢星同盟軍は事前演習でマーチの歌声に順応している。強すぎる身体強化に身体が追いつかない、なんてお粗末な結果も起きない。
皆等しく歌姫のファンとなって、戦場を駆け抜ける。
重低音が鳴り響き、後付けのBGMを必要としない音楽が戦場に響き渡る。
異星人の軍勢、アクゥーム、機械獣、宇宙怪獣、そして王国の歌声。
「クソッ……なんなんだ、こいつらの強さは!?」
戦況は、夢星同盟が圧倒的に有利であった。
だが。
「えぇい、怯むな!所詮相手は烏合の衆!!我ら王域軍に勝る者ナシッ!!」
「然りッ!!者共続けェ!!」
「我らが皇帝に、勝利を捧げよッ!!」
「夢星がなんぼのもんじゃい!!こちとら暗黒王域じゃぞボケェッ!!」
暗黒王域軍も負けやしない。将軍たちが声を張り上げ、兵士たちの士気を保つ。この程度の勢いに呑まれるなど、笑止千万。劣勢など、今まで何度も味わってきた。
暗黒王域軍は、多くの戦場を経験してきた猛者が多い。
年齢が短すぎる地球人の倍はある異星人は、その分長く軍人として生き、多くの戦場へと駆り出されてきた。故、ここにいる軍人たちは皆歴戦の猛者。新兵よりも中堅層の兵士が多い。古参の兵士たちも、役職に拘らずに戦場へと躍り出る。
数週間前までは同じ釜を囲んでいた敵兵たち。統率者の意向で敵対することになったが……元は味方であろうと、敵になったのならば容赦しない。
悲壮感はない。あるのは、使命感と戦闘欲。
心置きなく戦える今に感謝して、好戦的な笑みをもって対峙する。
しかし……その高揚感を遮るように、彼らの前に無数の翠が突き立てられた。
「ッ、“深碧”だァ!!」
戦闘狂ばかりの戦場、両軍入り交じる戦地に、緑柱石が突然乱立する。何人もの兵士が、下から飛び出た緑柱石に腹を打たれ、空高く舞い上がった。
その魔法を有する者を、王域の将は知っていた。
ズーマランドの古株、数多くの戦場を無傷で切り抜け、勝利を捧げてきた屈強な戦士。
その名も“深碧”のムゴク。
大熊のズーマー星人は、年季の入った瞳で戦場を睨み、前進する。
「私が道を切り開こう……続けッ!!」
「ハッ!!」
魔法少女たちに負けてられないと、主戦場の前線指揮を任せられたムゴクは奮闘する。最前線にいることで、戦場の様子をリアルタイムで把握できる。敵将も同じやり方を採用している者が多いのだが……そのやり方の先駆者は、このムゴクである。
敵よりも早く戦況を掴み、情報を伝達し、的確に軍勢へ司令を下す。
大混戦。血煙が立ち昇り、殺意と敵意が乱立する戦場。煌びやかな星々に囲まれた中、兵士たちの怒号は、咆哮は収まることを知らない。
そして、夢星同盟の躍進は止まらない。
「ヒヒヒッ、早速だけど投下しちゃおっかァ……ぽきの、自慢の兵器たち!!」
総旗艦の機関部、破壊されてはならない最深部の手前に陣取る元将星、タレス・スコルピオーネの金の瞳が、暗い世界で妖しく輝く。
無数のコンソールに囲まれた技監は、始まったばかりの戦場に新たな機械兵器を投下する。
出し惜しみなんてしない。
タイミングを測っている間に皇帝が下されれば、自慢の兵器群を披露できずに終わってしまう。それだけは絶対に防がなければと、タレスは迷いなくそれらを起動する。
瞬間、ズーマランドの下部が開き───追加の兵器群が投下された。
ズガガガガガガッ───…!!
直径数百mは優にある、キャタピラの上に乗った超巨大機械要塞。魔法少女一の工芸職人ことムーンラピスの手を借りたことで、更なる躍進を遂げたタレスの自信作。
殺戮機動要塞“アンタレス”。
その完成系が、凡そ十機。大陸惑星の面積二割を手軽く占有する移動要塞が、味方の邪魔にならないよう最低限の配慮を心掛けながら発進する。
路傍の石のように、地べたを這う宇宙怪獣を踏み潰す。
魔法を跳ね除け、縦横無尽に戦場を踊り、数だけは多い王域軍を蹂躙していく。
「シャウラぁ!」
「全兵装問題無し。総旗艦への侵入者も未だ無し……凡そ順調、盛況で御座います」
「ヨシ!」
人工知能の支えもありながら、宙に飛ばした無線カメラたちから集めた情報を精査、タレスも戦場を思うがままに支配する。前線にいるムゴクの邪魔にならないよう、彼の指示が届かない遠地を中心に指示を出す。
この戦場にタレスの指示を疑う者も、逆らう者も欠片といない。仮にいたとしても……先の幼児虐待騒ぎで一通り排除されている。
戦場は踊る。魔法が、兵士が、機械が宙を舞い、双方に手痛いダメージを与えていく。
夢星同盟の勢いは、暗黒王域の想定を遥かに上回った。
確かに、彼らの予想は裏切られた。
それでも、王域軍の勢いは止まらない。負傷しようが、死にかけようが関係なく。何度でも、何度でも。血塗れの猛者たちは敵対者に牙を剥く。
何故ならば。
「んん〜、もうっ!みんな猪突猛進すぎ!奇跡にだって、限度はあるんだからね!んま、今日は仕方ないから、特別サービスしてあげてるけど!」
「陛下のお願いが無かったら、絶対にやってあげてないんだからね!!」
暗黒王域軍の最後方───魔法障壁で守られた物見櫓、その頂点に立つ少女が、声高らかに叫ぶ。夢星同盟からの躊躇ない攻撃は、彼女に一切届かない。
何故なら、あらゆる攻撃は、彼女が宿す“奇跡”の前では無力でしかない。
“王国”に対立する、暗黒王域のバッファー。この戦場を活性化させんと、将星の中で唯一、ここにいる天使。
ステリアル星教会の聖座、星天使。
“聖印乙女”、ポリマ・ウィル・ゴー。聖域に座す将星、暗雲に満ちた世界を平和に導く、希望の光。奇跡を宿した戦場の乙女は、犠牲者が絶えない戦場から、少しでも死を減らす為に奮闘する。
護衛たちに守られながらも、彼女もまた、躊躇なくその力を行使する。
「聖座様!負傷者が!」
「どうか!奇跡をッ!」
「んもぉ〜!普通に救護班のとこ行きなよ〜」
「申し訳ございません……ですが、聖座様のお力の方が、確実性が高く……」
媚びへつらう衛生兵たちは、敬意をもってポリマに頭を下げる。そこに、彼女を利用するだけ利用しよう、なんて邪悪な考えを持つ不届き者はいない。
そも、ポリマは他者にただで利用されることを嫌う。
ここにいるのは、偏に、自分の力を皇帝が求め、願ったからだ。勿論、傷ついてばかりの味方が明日を迎えられるように手助けしたい気持ちだってあるが……それ以上に、皇帝の存在がポリマの中で大きかった。
真摯に申し出る配下たちは、熱心な星教会信者ばかり。
聖座ポリマを天に御座す尊きお方だと、心からの信仰をもって願い申す。
そんな彼女たちの願いを、ポリマは断れない。仕方ないなぁと受け入れる。
「おだてるのが上手なんだから〜。んもう、手っ取り早く奇跡の押し売り、やっちゃおっか!」
「“恋、祈れ”!」
───祈聖魔法<オラクル・ホーリーライト>
祈るように手を組み、拳に宿った光を、宙へ打ち出す。星々の隙間を拭って天上へと飛び立った光は、あまりにも美しい爆光をもって、戦場を照らし。
宙から降り注ぐ光の粒子が、雪のようにしんしんと。
暗黒王域軍の兵士たちの身体にのみ、光は落ちていき。彼らの身体に、スッ…とやさしく浸透していく。その光を身に宿した瞬間。
「ッ、ウオオオオオォォォォォォォ───ッ!!」
力が漲る。目が冴える。魔力が活性化し、より力強く、より素早く動けるようになる。
目に見えてわかる程、全兵士の動きが格段に向上。
それだけではなく……瀕死の重傷を負っていた兵士が、光の粒子を浴びた途端一斉に立ち上がり、傷の無くなった身体で再び戦場へ躍り出る。中には、光の粒子に触れれていない、機械兵器の下敷きになっていた者すらも、重機を活性化した腕力で押し退け、復帰する始末。
劣勢を強いていた夢星同盟に、怒涛の快進撃を食らわせていく。
「んなっ!?」
「ッ、こいつらッ…」
「聖座だ!ヤツを狙えッ!!ここは戦場!この際四の五の言ってられるかぁ!!」
「テメッ、聖座ちゃんを襲う気か!?」
「ぶっ殺すぞクソ野郎!!」
「なんでだよ!!」
唐突な逆転劇。外的要因が齎した強化は、死に急ぐ戦士たちの躍動に大きく貢献する。
異邦の歌声に負けず、奇跡を起こす。
これぞ、聖座ポリマの固有魔法、“祈聖”。祈りを捧げ、奇跡を齎す魔法。致命傷を即座に癒し、精神の崩壊すらも無かったことにする。力無き者に勇気を与え、その勇気に見合う力を授ける。勝利を求む者には、勝利を獲れるよう導いてやる。ポリマ個人に向けられた信仰を、ついでに、星教会へと集まる信仰を糧に、奇跡を起こす魔法。
祈りの光は絶えない。ポリマがこの世にいる限り、光は世界を照らし続ける。
「みんな、がんばれーっ!」
ちなみに、夢星同盟側にも星教会の信仰者は多い為……戦場であろうと、彼女に手出ししようと者は少ない。
実質、現人神の信仰対象である為。
奇跡を起こす彼女は、星教会という一大組織を制御する要としては、まだ欠けてはならない存在。あのレオードも殺すのを躊躇してしまう程だ。
ある意味守られた存在。
聖座の名声、そして奇跡の力、本人の好かれやすい気質などが、ポリマを守る。
「ッ、あっちにも優秀なバッファーがいるみたいだね……これは負けられないなー!!」
「ふふん!わたしの祈りに勝てると思わないでね!!」
“王国の歌姫”と“聖座の乙女”───二人の力が、主戦場を二分する。
───聖座ポリマが、自らの意思で決戦場から離脱する、その時まで。




