298-夢より継ぎし刃
vs将星視点は暫くお待ちください
だってほら、他の面々の対戦カード、まだ記述してないんですから。
今より二年前───星を斬る剣士、ヴォービスは唐突に生死を彷徨った。何の前触れも、切っ掛けもなく。突然、彼女は深い眠りから覚めなくなった。
それは、未だ親衛隊の一隊員に過ぎなかった頃の話。
その異常は、かの元将星と類似の現象から成る悲劇。
品行方正ではなく、強者がいれば斬り掛かるあんまりな精神性の持ち主ではあったが……若しくは、その残念にも程がある在り方が、【悪夢】を引き寄せたのか。
ヴォービスは、一度悪夢に取り込まれた。
魔星親衛隊の前進、“王下星辰隊”の全盛期。隊長だった大連蠱毒の死亡によって再編されたあの時とは、少しだけ異なる悪夢の浸蝕。されど、肉体が悪夢の主導権に陥り、支配される。
その寸前に、彼女は助けられた。
夢の中───あの世のこの世の境目に近かったのが原因なのか、運良く夢と繋がったその先にいた、摩耗した魂の持ち主に。
ただの通りすがりで、困っていそうだったから。ただ、それだけの理由で、彼女は助けられた。
真っ二つに両断された悪夢が、塵と化す光景。
和装の少女。他の戦士の例に漏れず、和装でありながら魔法少女らしさを損なわないコスチュームを纏い、刀身が欠けていながらも、鋭さを損なった様子のない、見慣れぬ片刃の剣を振るう姿。
その全てが、あまりにも鮮明で。
ヴォービスの瞳に焼き付いた。忘却されようと、決して忘れられぬモノとして。
───あなたは…
───なぁに、名乗る程の者ではないでござる。っ、と?うーん?ん?おろろ???
───えっと…?
人間を助けたかと思えば、どう見ても人ではない風貌の持ち主。驚いたその侍は混乱に陥ったものの、すぐにそういうこともあるかと自分を納得させた。
それよりも、自分の知らぬ種族に目を輝かせた。
あわよくば、それに連なる強者との出会いを求め───自分が死んでいる事実を思い出して、無理かぁ、と心から残念そうに膝を着く。
それが、ヴォービスと彼女の───魔法少女、“斬魔”のモロハこと、切太刀彩雨との出会い。
夢から醒めて、また夢を見て。
一度繋がってからは、何度でも夢は繋がり───二人は交流を深めた。
やがて、ヴォービスはモロハに志願し、“斬魔”の剣術を受け継いだ。まだ若く、力に焦がれていたヴォービスは、何度も頼み込んで、頭を下げ、どうにか師弟関係を結ぶに至り、モロハから全てを受け継いだ。
邪念のない透明な殺意を。
技の一つ一つ、元より剣術を飯の種としていたからか、その習得速度は異様に速かった。適性があったのだろう。従来の剣術よりも、ヴォービスの身体にモロハ我流の剣は合った。
祖父も知らぬ、皇帝も知らぬ、他の魔法少女も知らぬ、二人だけの秘密の師弟関係。
文字通り、ヴォービスは覚醒した。
星を斬ることができる剣士として、既にその異名を轟かせていたが。地球の剣術を手にしたことで、ヴォービスの強さは右肩上がり。
より素早く、より鋭く、より強く。
総隊長への昇格試験では、勢い余って上座にいた皇帝も斬り裂いてしまうという珍事を起こしたが……その実力を高く買われる一因になったことは、言うまでもなく。
夢の中の出会いで、彼女は大成した。
最終的には、モロハの太鼓判で免許皆伝となり。本人が面白がって、“斬魔二世”を名乗ることを許すぐらいには、一番弟子を気に入った。
……口調や髪型までも自分に寄せて来たのには、かなり面食らったが。
「そういえば!お師匠様!」
「なんでござるか、弟子」
「つい先日、うちのモノがチキュウなる星と戦闘したとのことなのでござるが……こちらの“斬魔”とは、もしや…」
「おぉ〜、拙者でござるな。遺影でござる」
「んあー!?」
その馴れ合いは現在も続いており、現地入りした将星の情報から、自分の師匠が魔法少女であり、襲っているのがその故郷であるというびっくりもあったが。
逆に、彼女に連なる強敵と戦えることに、ヴォービスは胸を踊らせた。
……モロハは、後輩がすんごいのに進化していて、目を白黒させたが。
「気を付けるでござるよ、弟子。拙者の後輩、パクリ女でござるが故に……ほぼ確実に、剣術勝負になるでござる。拙者の刃で、お互いを傷付け合うことになろう」
「覚悟の上でござる!セッシャ、最強の剣士故に!!」
「その意気やヨシ!精々頑張れ!見て覚えた模倣よりも、拙者直伝の方が強いこと、あの魔法バカに目にもの見せてやれでござる!!」
「ハッ!!」
激励を浴びて、心を弾ませ───ヴォービスは、戦場に飛び出た。防御力が桁違いだった偽りの月を、真っ二つに両断しての登場は、目論み通り蒼月の度肝を抜き。
二世を名乗り、それが自称ではないことを、その剣術をもって理解させる。
目を見開いたムーンラピスと、好戦的に笑う剣魚の目が交わった。
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「んなっ…」
弾け飛ぶ火花。剣閃を受け止め、斬撃を逸らして───否、逸らし切れず。異星人の……否。モロハ先輩の剣が、僕の左腕を切り落とす。
宙に飛んだ腕が、視界の後ろで落ちる。
動揺を隠し切れない僕の前には、ヴォービスと名乗った侍が、してやったりと笑っていて……次手を放たず、刃を鞘に納めた。
「チッ、ヴォービス、テメェ…!」
「おやおや?これはこれは、レオード殿ではござらんか!まだここに居たのでござるか?あっ、そーいえば。剣術の技名言うの、今回が初めてでござったな!本邦初公開ってヤツでござる!びっくりした?」
「俺よりこいつの方がびっくりしてるよ。なァ?」
「……うるさい。こっちに振るな……チッ。クソ、綺麗に斬りやがって」
切断面から悪夢は流れ落ちない。本来なら、斬られたら血の代わりに流れ出る筈なのに。つまり、それが意味することは……切断面自体が、斬られたことに気付いていないということ。その分、接合は早く済むが……
間違いない。
ヴォービス、だっけ。こいつの剣術は、間違いなくあの人のだ。
「それ…」
「お察しの通りでござる。夢の中、あの世と繋がり、師と合間見えた。師に教えを乞い、受け継ぎ、我がモノとした斬魔の剣術でござる。如何でござろうか?」
「……最悪だよ」
何やってんだあの人……何時からだ?いや知らんけど、多分死んでからってことでしょ?何軽率に夢繋がってんだ意味わかんねぇ……
くっつけた左腕の感度を確かめながら、斬魔の後継者を睨みつける。
イライラするなぁ。イライラするぐらい、完璧な剣だと見てわかる。わかってしまったからこそ、苛立ちが腹の底から沸々と湧いてくる。ったく、なんでこんな女なんかに継承させてんだ……強いヤツならなんでもいいとでも?
もう意味わかんない。
このまま殺意に振り切りたい気持ちはあるけど、それは良くない。多分、ここで衝動的に動けば……次は首が飛ぶだろう。
「……あぁ、セッシャ、何も斬る為だけにここに来たわけではござらぬ。ムーンラピス殿、どうかセッシャと戦って頂きたい。無論、この場ではなく、城の中で」
「なに、予定を崩せと?」
礼儀正しく頭を下げたヴォービスは、顔を上げて願いを申し出る。僕が最初に相手取る予定の将星───リブラ・アストライヤーとの死合いを、先延ばしにして欲しいと。
先に自分と戦ってくれと、熱意を込めた目で見てくる。
我儘な……その要望を跳ね除けることは簡単だ。そも、僕とマッチするよう決めたのはこいつの王だ。王の決めた決定を私情でガン無視するとは。
こいつ、できる!!
「……メード」
「はい」
「予定変更。機密文書盗む作業と魔城破壊は取り止めて、リブラと殴り合ってこい」
「えっ」
気が変わったから、乗ってあげる。比較的楽な戦闘外の作業を任せるつもりだったけど、仕方ないよね。メードを対戦カードに移し替える。
魔法の撃ち合い勝負なら、メードでもできるし。
予定変更して、ヴォービスに付き合ってやろう。横槍もいいところだけど、許してやるか。
真っ正面から否定してやる。直伝よりも、模倣の剣術が強いってところ。
「! では!」
「望み通り遊んであげるよ……どちらにせよ、レオードが負けるまでの暇潰しにはなるだろ」
「俺らが負ける前提かよ」
「だって、ねぇ?」
僕が倒す予定のヤツと先に戦わせてあげるんだ。ここは負けてくれないと。そんなふうに敗北前提で話を進められても怒らないとこも、僕は嫌いじゃないよ。
傲慢だろうけど、この世は力が全て。
精々、準備が整う前まで皇帝の遊び相手になっていればいい。それまで僕らは、有象無象の将星を一人残らず撃滅させとくから。
それで。わざわざこの為だけに飛んできた、僕の小技をついでとばかりに斬ってきたこいつはどうするんだろう。まさか、このままついてくるなんてことはないよね?
そう不安に思っていると、ヴォービスは片耳に手を当て声を発する。
「もしもしー!リブラ殿〜。賛同を得れたので、このまま転移お願いするでござる」
「成程、人任せ」
「クフフ、適材適所でござろう?さて、ムーンラピス殿。場所はわかるようにしておくので……続きは、魔城にて。ではッ!」
ビシュンッ!!
瞬間、彼女の足元に魔法陣が浮かび、一瞬にして僕らの視界からヴォービスは消えた。言葉通り、リブラの魔術によるものだろう。そうか、見てたのか。
事前に了承も取ってたんけね。流石にそっか。
やろうと思えば妨害もできたけど、する必要がないから見送った。
「蒼月様…」
「ごめんって。そんな恨めしい目で見てくんな……流石の僕だって急だったんだ。適任がオマエしかいないのだってわかるだろ?受け入れろって」
「無期限のおやつ増量を申し出ます」
「それでいいのか」
「シッ!」
呆れた物言いのライオン丸は黙る!そんなのでいいなら得しかないし。こいつおやつ作りもロクにする気ねぇのななんて本音はしまっておく。
さて、いい加減出発しよう。
地上の虫ケラ共も、自分たちじゃ手の届かない相手だと改めて理解もできただろうし。たった五万の兵力しかない同盟だからって、ナメてもらっちゃ困る。
上位層が一人五万人規模の戦闘力があるようなもんなんだからね!!
「過言だろ」
一人黄金劇場がなんか言ってら。
その後、親衛隊トップの登場に荒ぶっていたウルグラの面々を鎮め、漸く僕らもネオ・ズーマランドから魔城へと出発した。
恒星のあちこちで、既に戦闘音が鳴り響いている。
大丈夫。どうせ死にやしない。不死身じゃないから心配なのが何人かいるが、それも問題ない。ヤバそうだったらこっちでカバーするだけ。
それに、信じてるからね。
ウルグラ隊、メード、アリエスとその護衛らを乗せて、特別製の夢奏列車は宙を駆ける。
恒星をすり抜け、伴星を通り過ぎ。
轟音が鳴り響く大聖堂を横目に───帝都の上層、断崖絶壁の上にある魔城へ。
さぁ、最終決戦だ。
今から行くよ。勝負と行こう───お望み通り、本気で潰してあげる。
蛇「はよ来て」




