297-開戦の星斬
最終章です。
過去最長文章───脅威の12531字。書きたいこと、全部詰め込みました。
つまりは情報量で畳み掛けます。
対戦、よろしくお願い致します。
王域歴601年───歴史の新たな区切りとなるこの年、世界を揺るがす大戦が幕を開けた。
その衝撃は、銀河一つで収まるモノではなく。
秘境の惑星からやってきた女戦士たちと、王を裏切った叛逆の星たちが起こした一大事件の、幕引きとなる最後の大戦。
悪夢と異星、本来交わることの無い筈の二つが、唐突に手を取り合った陣営。
───夢星同盟。
星を喰らい、夢を喰らう。暗黒銀河を平定する蛇の王が率いる、宇宙最大規模の大軍勢。
───暗黒王域。
銀河の中心、極黒恒星を舞台に振り広げられた決戦は、後に、こう呼ばれることとなる。
“月下星王大戦”、と。
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───ゴゥン…ゴゥン…
総旗艦ネオ・ズーマランド。王獅子の惑星は、五日間の行軍の末、目的地である主戦場を漸く視界に入れた。
遠望に浮かぶのは、漆黒に燃える恒星。
凄まじい存在感と威圧感を与える、暗黒王域の中心たる皇帝の象徴。
“極黒恒星”───皇帝のお膝元まで、夢星同盟軍は遂に辿り着く。
「わぁ…」
「……とうとう、か」
「頑張るぞ〜!」
「やるか」
獣戦士たちの熱気が湧き上がり、今か今かとその瞬間を待つ獅子宮の中で、銀河に挑む魔法少女たちは惑星の外に広がる景色に息を飲む。
近いのに暑くない、また眩しくもない、恒星というにはあまりにも不可思議な黒い太陽。銀河全体を照らすには、どう見ても心許ないが……それもまた、恒星を作り上げた暗黒王域の底知れなさ、宇宙の神秘だと理解する。
そして、彼女たちが一望する、恒星の手前。
漆黒の大地が視界に映る。平面説を体現したかのような平べったい星。逆さに生えた刺刺しい剣山の上に広がる、荒れ果てた岩の荒野。
大陸惑星グロードシェルフ。
極黒恒星の玄関口の一つであり、敵を迎え撃つ最前線。若しくは最終戦線。そんな、恒星の前にあっても存在感を放つ異様の荒野には……既に。
暗黒王域軍の軍隊が、荒野全域に展開されていた。
鍛え抜かれた兵士たち。宇宙怪獣。多種多様な異星人の軍勢が、地に、宙に、大きく展開されている。
迎え撃つ気満々の、闘気が立ち昇る宇宙の戦場。ここに降りてこいと、正面から迎え撃ってやると、異星人たちの覇気が獅子宮に突き刺さる。
「準備万端だね」
「血気盛んでご苦労なこと……正面から打破するなんて、バカ正直なヤツらだね」
「あっちもこっちも、ね」
「ふんっ」
甲板より戦場を睥睨していた魔法少女の頂点は、獅子の口腔から飛び出す宇宙船たちを見送る。先んじて集まり、待たれているのであれば。焦らしを加えながら、こちらもその正面衝突に乗ってやる。
宇宙船が、機械獣が、総旗艦より早く大陸に到着。
大陸に着陸した宇宙船から、続々と夢星同盟の、叛逆の戦士たちが降りていく。降り立った戦士たちは、相対する王域軍に倣って、自然と隊列を組んでいく。先頭に立つ、屈強な兵士たちが睨み合う。
敵の総数は、自陣営の倍の倍。
残念なことに、数的有利も、地理的優位もあちらにある───だが、戦力差は拮抗している。魔法少女という最高戦力が、総数に対して釣り合いを取る。
魔法少女は、アリスメアーは、将星はまだ降りない。
ネオ・ズーマランドから、数十分と経たずに集合し得た自軍が、相手と激突する瞬間を今か今かと待っているのを上から見下ろす。
「将星共の姿は?」
「ねェ、と言いたいところだが……成程な。どうも、聖座サマが最後尾にいるみてぇだ。後方支援、か。あいつなら適役すぎんな」
「無視でいいよ。バフ役でしょ。それなら、うちの歌姫に出張って貰えばいいし」
「だな」
甲板から顔を覗かせた一同。特に、ラピスとレオードの視線は、主戦場たる大陸の向こう側に注がれる。将星が、銀河皇帝が待つ恒星へ。
彼女たちの戦場はここではない。
この大陸惑星では二つの陣営の、大多数を閉める雑兵が雌雄を決する。最高戦力たちが激突するのは、恒星内部に広がる異世界にて。
主星と伴星、大小様々な複数の惑星が織り成す、王域の最終地点だ。
総旗艦はここに置いていく。戦士たちの最終防衛ラインである獅子の星は、同盟軍の背後でどっしりと構え、敵の降伏を今か今かと待つのだ。
獅子の睨みを後光に、夢星の軍勢はドンと構える。
両陣営いつでも開戦できるように、敵から目を逸らさず睨み合う。
「くくっ…」
早く始めろ。戦わせてくれ───果てなき闘争を求めた声なき声を、王獅子は確と聞き届けた。
目を見開き、喉を震わせ、銀河全体に届くように。
宣戦布告はとうの昔に済ませてある。ならば、やるべきことはたった一つ。
開戦を、宣言する。
「いいぜ───前演説なんざいらねェ。さっさと初めて、世界を勝ち獲るぞ、野郎ども。
───進軍、開始ッ!!」
オオオオオオオオオォォォォォォォ───ッ!!!
咆哮が轟き、相手を待つことなく。叛逆の星が、銀河に威勢よく喧嘩を売った。
最終戦争、開幕。
そして───ネオ・ズーマランドの甲板に、夢の列車が幾つも並んでいた。魔法の線路の上を、魔煙を吹き上げて駆け始める。
複数の路線には、魔法少女が、将星が、ウルグラの戦士たちが乗車していた。
「ゴーゴーピッド」
「───はいなのです!列車全車両、異常なしっ!目標、真っ黒な太陽!魔力炉心全開───夢星同盟、出発進行!なのですっ!!」
車掌、ゴーゴーピッドの合図で、夢奏列車たちは一斉に遥かなる戦場へ発進。極黒恒星を目指して、夢星同盟軍の最高戦力たちは飛び立つ。
勿論、大陸にいる軍隊がその進路を邪魔するが……
砲弾も、魔法攻撃も、空を飛ぶ宇宙怪獣たちの攻撃も、列車は全て弾く。
「おっ先〜!」
「露払いの必要もないたァ、ヌルすぎんな」
「行くよ、最終決戦だ!」
「負けたヤツは明日の晩御飯抜き!いや、目の前でアイス食べてやろっと!」
「頑張る」
極光、力天使、戦車、虚雫、祝福、彗星、花園、歪夢、禍夢、亡羊黒堊、星錬鉄破、星狼骸螺、赤銅が将星たちと対峙する為に宙を駆ける。遅れて汽笛も戦車のいる列車に飛び乗って、共に戦場へと向かう。
極黒恒星の燃える表面、漆黒の炎が眼前に広がる。
前準備も無しに、不用意に触れてしまえば瞬く間に炎に焼かれ、塵も残さない。だが、相対するのは汽笛の列車。夢星同盟一の最速且つ、安全な移動手段を誇る魔法少女の魔法は、燃える星程度に勝ちを譲らない。
ただ愚直に突き進んで、仲間を戦場に届けることのみを考えた設計の列車は、極黒恒星にぶち当たる直前、障壁を前面に展開し……
そのまま、最高速度で恒星をぶち抜く。
「熱っ!」
「強引すぎだよ───っ、わぁ〜お。なにこれ、すごっ。なんか、夢みたい」
「わぁ〜…」
灼熱の壁をすり抜けた、その先に。
魔法少女らの視界に映ったのは───恒星の中にある、もう一つの銀河。恒星の黒い炎を外殻に、星のような淡い煌めきが星空を象っている。
その中心には、黒い剣山を逆さにした土台の上に乗る、漆黒の都市群が見えた。
主星、帝都オルペント。
そして、その周り。恒星異空間には、無数の伴星か宙に浮かんでいた。更には、伴星の一つ一つから、見逃せない力の圧が列車へと放たれている。そこに、彼女たちを待つ強敵たちがいる。
一同は指し示すことなく、蒼月と星喰いに独断と偏見で決められた対戦相手を目指して、列車の舵を切る。各々の戦場を目指して、真っ直ぐに。
非戦闘員のいない街中に、それぞれの伴星に。
魔法少女たちを乗せた列車は───なんと、停車せずに突っ込んだ。
「バッッ!?」
「嘘だろッ!?」
「な、何考えてんの!?」
「ちょちょちょ、死ぬ死ぬ死ぬ!!戦う前に恐怖体験とか嫌なんだけどーッ!?」
「あはーっ↑↑」
バカンッ!!ドッゴーンッッ!!
乗客たちの悲鳴を無視して、列車は各星に衝突。頭から突き刺さり、列車は爆炎を上げて不時着する。
安心して欲しい。乗客は全員傷一つなく脱出できた。
念話通信で愚痴愚痴文句を垂れながら、待ち構えていた将星と相対する。
───黒灼炎星ヴォルカモンスター
溶岩ばかりの紅黒い伴星に、新たな爆炎が噴き上がる。大破した列車から飛び降りた光の魔法少女、“極光”の名を冠する勇者は、燃える大地を独り歩く。
天へと噴き上げる溶岩が、畝り、波打ち、龍と成る。
意志をもった溶岩龍が、次々とリリーライトを狙うが、彼女の極光の前では塵も同然。障害などいとでも言うかのように、剣閃が煌めいては溶岩が弾け飛ぶ。
ゆっくりとした歩幅で、彼女は進む。
溶岩に濡れても、焼けても、気にすることなく。悠然と歩み進んだ、その先に。
剣山に囲まれた溶岩湖に、彼女はいた。
「よォ、待ってたぜ」
「お待たせ。それじゃ、早速だけど……私の肩慣らしに、付き合ってもらおっかな?」
「ハハッ、言うじゃねェか!そんならよ、テメェもオレのウォーミングアップに付き合えよ」
「いいよ〜」
ケバルライ殲滅部隊の長にして、将星二世。気高き炎の破壊者、“魔壊暴牛”のエルナト・アルデバラン。
溶岩の滝を背に、魔角を濡らした暴君が笑い、大戦斧を肩に担いで立ちはだかる。
どちらも最強、相手にとって不足なし。
星の命が際限なく湧き溢れる世界で、紅き殲滅者が光を薙ぎ払う。
「それじゃあ、一局」
「死合おうじゃねェか」
夢星同盟、最強
───“極光の魔法少女” リリーライト
vs
十二将星、闘神
───“魔壊暴牛” エルナト・アルデバラン
激突。
───星海浄地ビューティーダスター
極黒恒星全体に浄化された水を送り届ける為に造られた超巨大スケールの水の伴星。球体状に丸められた清らかな水の頂点には、星全体を管理する浄水所がある。
銀河各地の水を掻き集め、収束させ、浄化させる星。
そんな清らかな清浄の地に、浄化とは正反対の存在たる紅き呪詛が降り立った。
「ふぅ…」
揺らぐ水面に立った彼女、“虚雫”のマレディフルーフは浄水所の麓を目指す。天へと立ち昇る、逆立つ滝の源泉。美しくも神秘的な光景に目を奪われながら、己を待つ青の雫と対峙する。
髪の毛が液体という、オーシェネリア星人の長。
厄災の如き最強の魔法少女に敗れ、呪詛で瀕死に陥り。それでも生き残った、奇跡の将星。
“溢水叛土”のメーデリア・アカリュリス。
紅き呪詛とは正反対の、青き清浄が、忌々しさを込めた目付きで敵を睨む。
「初めまして、呪いの魔法少女」
「こちらこそ、お会いできて光栄だよ。すまないね、またあなたを呪詛で沈めてしまうことになりそうで」
「やめて欲しいですがね……選ばれたのなら、私の全てをかけて葬るのみ」
「ふふっ」
度重なる呪詛の侵蝕により、メーデリアは歪魔法に強い耐性を獲得した。それ故に、他の将星よりも相手取ることができるだろうとフルーフの相手を任せられた。
そして、相対するフルーフは縛りプレイを強要された。
このビューティーダスターは清浄の地。穢してしまえば最悪、銀河全体に被害が広がる。故に、フルーフは呪いの魔法をある程度制限しなければならない。
……そんな場所で戦うなと言いたいところだが、ここを選んだのはメーデリア自身。ここでこそ本領を発揮できると選んだのだ。
「お手柔らかに」
「お互いに、ね」
夢星同盟、冥珠
───“虚雫の魔法少女” マレディフルーフ
vs
十二将星、宝瓶
───“溢水叛土” メーデリア・アカリュリス
侵蝕。
───星霜山脈チェインフォレスター
恒星異空間に浮かぶ山脈。文字通り、自然豊かな山々が連なるその伴星を、一人の人馬が闊歩する。自然と生き、自然と共にあれる世界を、狩人は蹄を鳴らして歩く。
自然保護区でもある山脈は、被害が広がらないよう先に分割されている。分割先にいる生き物たち、自然が魔法で侵されることはない。
そして、一番大きな山の連なりの中に、将星準最強たる狩人、サジタリウスはいた。
「よォ、待たせたな」
「いいや、十分早いよ───存分に戦えるよう、先んじて山脈も切り分けられたしね」
「マジかよ、ヤベェな」
「ふふふ」
そんな彼の元に、夢星同盟の代表たちがやって来る。
集団の先頭に立つのは、裏切りの将星が一人。黒山羊の呪詛使い、“亡羊黒堊”のカリプス・ブラーエ。先の戦いで負け越した、その雪辱を晴らさんと、自ら志願してここにいる。その背後には、彼の召使いであるダビー、ナシラも並び立って、“天弓闘馬”を討たんと続く。
そして。
「つい先日ぶりだな。よろしく」
アリスメアーの暴力担当。“禍夢”のビルが、万年筆型の武器を背負って対峙する。
この戦場に魔法少女はいない。
ここにいる代表たちは、実力差が凄まじくとも、絶対に勝つ気でここにいる。狩人なんざには負けてやらないと、好戦的に笑う。
「ふふっ、いいねぇ……血が沸き踊る。魔法少女と戦う、その前の前菜であっても……君たちと本気で戦うことを、ここに誓おう」
「おありがてぇ話だな」
「望むところですッ!!」
「バウッ!」
「ケッ、人数不利でも涼しい顔か……仕方ねェ、あいつに取られる前に、勝つぞ」
「だな!」
夢星同盟、黒詛
───“亡羊黒堊” カリプス・ブラーエ
黒山羊の子供たち
───“星錬鉄破” ダビー
───“星狼骸螺” ナシラ
アリスメアー三銃士
───“禍夢” ビル
vs
十二将星、狩人
───“天弓闘馬” サジタリウス
会敵。
───魔星古城
虚空に浮かぶ灰色の古城。それは、かつて“暗黒宇宙”と呼ばれていた時代の名残りであり、先帝の魔城の中心部を再利用したことで生まれた、星空の要塞。
蔦が這い、苔むした古城でも、列車は爆発四散した。
入り口で燃える鉄塊を他所に、彼との戦闘を任せられた二人は、城内を進む。
物静かな彼女と、兄貴肌な熱血漢。あまり接点のない、関わりも薄い面々だが……実力の高さと、背中を任せても問題ないことは知っている。
後は、現場で力を合わせて、勝利を掴むだけ。
少数精鋭で向かう先───チェルシーとリュカリオンの歩みは、ゆっくりと。罠も敵もいない、静寂に満ちた城を進む。
「こっちで合ってる…?」
「あぁ、問題ねェ。順路は前と変わってねェ筈───ッ、攻撃ッ!!」
「ん!」
記憶を頼りに進む二人の元に、岐路から挟み込むように流砂が飛んでくる。侵入者を捕らえんとする攻撃に対し、リュカリオンが焼き尽くそうとする……
それよりも早く。
前に出たチェルシーが、襲いかかる流砂に、夢幻を司る魔法を差し向ける。
「夢幻魔法───<ガット・ヴィジオーネ>」
夢色の魔力が、掌から解き放たれ───瞬間、迫り来る流砂の全てが、夢幻となって世界から消える。存在する、現実に在る全てを消し去る魔法。
あっという間に霧散して、無かったことになった攻撃。
物は試しにと放った魔法の主───玉座に座るクジラの王は、豪快に笑う。
「バッフォッフォッ!よかった、楽しめそうじゃもん……魔法少女で無かろうと、楽しめるのであればそれでヨシ!さぁ、戦おうぞ!夢星の戦士たちよ!!」
「そこまで、熱狂的にはなれない、かな……」
「先輩たちの雪辱、俺が代わりに果たさせてもらうぜ……行くぞッ!!」
「ん!」
“鯨貪呑禍”セチェス・バテン=カイトス。魔法少女との戦いを楽しみにしていた国王は、魔法少女が相手ではないことを嘆きながらも、仕方ないなと笑う。
クジラ森の国王は戦好きだ。
何の利点もない、ただの小競り合いであろうとも。
ただの暇潰しの戦争であっても、彼は心から楽しめる。
何処の誰が相手であろうと───勝利して飲む美酒は、格別に美味いのだ。
アリスメアー三銃士
───“歪夢” チェルシー
獅子の四魔牙
───“赤胴” リュカリオン
vs
十二将星、鯨王
───“鯨貪呑禍” セチェス・バテン=カイトス
戦闘開始。
───???
リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズ、そしてオマケのぽふるんを乗せた夢奏列車は、予定通り目的地の座標へと車輪を動かす。
だが、その進路には何も無い。
道中あった伴星を無視して、新世代の3人でさえ知らぬ新天地を目指す。
「あれ?」
「えっと……どこ行くのかしら、これ」
「わっかんなーい!ちょ、なんかヤバいんじゃ…」
「んもう!ラピスが説明渋るの、ちゃーんと追及しとけば良かったぽふ!!」
「いつもじゃん!?」
真っ直ぐ虚空を走る列車。私たち、もしかしてお払い箱なんじゃ───!?と見当違いの焦りは、眼前に開いた、虚空の門を視認したことで払拭される。
唐突に開いた穴、ワープホールへ、列車は吸い込まれるように突き進んでいき……
星空を縮小したかのような、薄暗い宙が視界に広がる。
目を見開き、感嘆とした声を漏らす一同は───異界の中心にポツンと浮かぶ、円環が連なる銀色に輝く電波塔を見つけた。
「───ここは、「星の回廊」の中継地。星と星とを繋ぐ異空間ロードの中心地」
「要は、迷子にならない為の目印です」
その塔の前に、双子の将星───カストルとポルクスが揺蕩うように浮かんでいた。
ここは「星の回廊」の内部。
中継塔を舞台に、星と星とを繋ぐ権能を持って生まれた双星児は、魔法少女と対峙する。
“双星銀河”。その名の通り、新たな銀河の種火となれる星の子たちが。
「さっさとお前らをぶっ倒して、僕たちはあの青いのを、陛下に仇なす前にぶっ潰す」
「えぇ、ですので。潔く負けてくださいな」
彼らの目的は相も変わらず。固執しているかのように、ただ一点のみを狙う。そんなふうに、暗に眼中には無いと言われようとも、魔法少女たちは笑うだけ。
そう易々と勝てると思われていようと。
あの先輩を引き合いに出されては仕方ない。そう一先ず受け入れた上で。
「ごめんね、無理っ!」
「そっちが潔く負けなさいよね!!」
「行っくよ〜!!」
「うちの子たちをナメるなぽふ!」
「私たちが誰か知ってる?あの2人の───勇者と魔王の後輩だよっ!!」
笑って、自分たちの勝利を叩き付けるのだ。
夢星同盟、新星
───“祝福の魔法少女” リリーエーテ
───“彗星の魔法少女” ブルーコメット
───“花園の魔法少女” ハニーデイズ
vs
十二将星、流星
───“双星銀河” カストル・ジェミニスター
───“双星銀河” ポルクス・ジェミニスター
衝突。
───帝都オルペント
たった一両、“力天使”の魔法少女を乗せた列車だけが、主星の街中に不時着した。伴星ではなく、皇帝のお膝元に降り立ったエスト・ブランジェ。
視線を上げた彼女の前には、漆黒の街並みに見合わぬ、白亜の聖堂が君臨していた。
厳かで、清純で、神秘的な空間。
帝都ステアリル聖ポリマ大聖堂へと、軽やかにその足で踏み入れる。
無人の帝都からの妨害はなく、あっさりと───天女が待ち構える最奥へ。
美しき聖像を背に、三天使の長女が挨拶する。
「前回の雪辱、晴らさせて頂きます」
「リベンジマッチだね〜。いいよ、楽しくやろっ。最高に楽しい戦いにできるように」
「えぇ、是非」
“恋情乙女”スピカ・ウィル・ゴー。今度こそ、忌々しい魔法少女に勝つ為に。
何処にでもある“空”を捻じ曲げ、武器とする。
偉大なる皇帝に、愛しき王に、文句のない最高の勝利を捧げる為に。
「では、お覚悟を」
「いいよ、おいで」
夢星同盟、天使
───“力天使の魔法少女” エスト・ブランジェ
vs
十二将星、天女
───“恋情乙女” スピカ・ウィル・ゴー
開幕。
───シニスター分子雲領域
恒星異空間の最上部。高密度のガスと塵、魔力が集まり形成された星間雲。低音の霞がかった足場のない領域に、最後の夢奏列車が到着する。
宙に浮かんだ車両、その屋根の上に魔法少女は立つ。
“戦車”のカドックバンカー。
“汽笛”のゴーゴーピッド。
魔法少女の中でも稀有な、人類の叡智をそのまま武器とする魔法少女たち。
極彩色の雲間から、彼女たちが任せられた、最強最大の将星を探す。
「……いねぇな」
「ポックリ逝ったのです?」
「あ〜、お歳だからな。そーゆーこともあるか。若しくは寝落ちしちまったか」
「かもなのです!」
何処にもいない最強に、早く出てこいと、煽りを込めた声色で呼びかければ。
突然、2人の肌が粟立つ。
来るッ───そう理解した瞬間、雲間という雲間から、黄金の雷が迸る。
落雷が、天雷が、分子雲領域を貫き、煌々と彩る。
「───全くのぉ〜。年寄りの扱いがなっとらんぞ?ちと躾が必要なようじゃな?」
最後に、特大の雷鳴が鳴り響くと同時に───今まで、気配も魔力反応もなかった怪物が、2人の前に現れた。
特徴的な髪色の、可愛らしい美の集合体。
“天魚雷神”。そう呼ばれる以前は───“破壊神”とまで呼ばれ、恐れられていた老兵士。
アルフェル・トレーミーが、魔法少女たちの上澄みたる13魔法を相手取る。
「ハッ、そいつァ悪かったな。なんせ、全然オレらの前に顔出してくれなかったもんで」
「自業自得なのです。悔い改めろばーかっ!」
「えっ、めっちゃ言うじゃんお主……まぁよい。それも、お主らの個性じゃしな」
「ふーん?」
嘲る2人に、アルフェルは老獪さを垣間見せながら軽く受け流した。その反応に、面白くないなとカドックは鼻を鳴らして、改めて敵と向かい合う。
右手に持ったサブマシンガンの銃口を突きつけ、不敵な笑みを浮かべる。
「それで?お主らで儂の相手は務めるのか?」
「───いいや?まさか。うちの後輩を一発で蹴落としたアンタに、オレらみてぇな死人が勝てるわけねェだろ」
「夢でも見てるのです?現実を見ろなのです!」
「いや、なーんで儂が責められてるんじゃ……ふむ。で?要はお主ら、捨て駒か?」
「Exactly!」
カドックとピッドは理解している。自分たち程度では、この雷神に歯が立たないと。よくて重傷、戦闘不能まではできっこないと。
故に、彼女たちの役目は決まっていた。
今この場にいない、一等目にかけていた後輩、若しくは先輩に繋ぐこと。
「安心しろよ。退屈はさせねぇ」
「ほぉ?」
左手を掲げたカドックは、植え付けられた、もう一つの魔法の出力を放つ。
それは、青い輝きを纏った───雷の魔法。
仇討ちを、死に別れた妹から継承したその力を見せつけながら、古英雄は笑う。その隣で笑う、補佐としてついて来た車掌と共に、最強に挑む。
「そうか、そうか───良かろう!地球の戦士共よ、精々儂を楽しませてくれよ!!」
「望むところだ!来いッ!!」
「ぶち轢くのです!」
夢星同盟、軍師
───“戦車の魔法少女” カドックバンカー
夢星同盟、車掌
───“汽笛の魔法少女” ゴーゴーピッド
vs
十二将星、最強
───“天魚雷神” アルフェル・トレーミー
開戦。
───そして、視点は大陸惑星へ。クロードシェリフにて勃発した大戦場の頭上、総旗艦ネオ・ズーマランドにいる残りの魔法少女たちは、恒星に入った列車を見届けた。
眼下の戦場では、既に怒号が響き渡っている。
兵士たちの怒号が、宇宙怪獣たちの咆哮が、機械獣から鳴り響く異音が。
魔法、武器、あらゆる全てが激突する、血煙が吹き荒ぶ戦場がそこにあった。
「それじゃ、僕たちも行こっか」
夢星同盟の盟主、ムーンラピスは、先んじて将星たちと鎬を削り合いに行った仲間たちよりも、一足遅れて戦場に向かうと決めていた。
何故なら、主役は遅れてやってくるもの。
嘘こいた。正確には───皇帝と初手でぶつからんと、唸り声を上げる王獅子が目立つように。わざと際立たせて宙を目指す。
「チッ、余計なお世話だ……ムゴク、こっちは任せたぞ。俺がいない間、兵たちを任せる」
「ハッ!レオード様も、ご武運を」
「あぁ」
ウルグラ隊の幹部、“深碧”のムゴクはこの地に残って、夢星同盟の総指揮代理として動く。といっても、最前線で直接指揮する前線指揮官だが。
仕える獅子に頭を下げ、その勝利を祈る。
部下の期待に応えんと笑うレオードは、隅っこに潜んだ同星を怒鳴りつけた。
「おいタレス!テメェはサボんじゃねェぞ!!」
「ひぃっ!ねぇ!もうちょっとぽきのこと信用してよね!あんまり酷いと泣いちゃうよ!?」
「日頃の行いだろ」
「ご安心ください。マスターは馬車馬の如く働かせ、必ず勝利に貢献致します」
「あぁ、頼んだぜ」
「味方がいない…」
“魔蠍狠妖”タレス・スコルピオーネ。彼もまた総旗艦に陣取り、夢星同盟軍の後方支援や破壊活動の応援などを、機械の手腕を活かして務める。
戦場に出すより、後方で機械弄りさせていた方が味方の犠牲も少なく済む。
お留守番を喜びながらも、容赦のないシャウラの睨みに怯えているが。
「相変わらずな……ふぅ。んじゃ、ペロー、マーチ先輩。いい感じにやっといて」
「お任せくださいッス。正直、戦争とか怖くてしゃーないですけど!頑張りますよ!仕方ないんで!早く帰ってきて凱旋してくださいよ!!」
「うんうん、こっちは任せて!マーチ・オン・ステージ!リサイタルしちゃうもんね!」
“逆夢”のペローと“王国”のマーチプリズも、この戦場を担当する。アリスメアー幹部として、ペローはアクゥームの陣頭指揮を。マーチは歌魔法による支援を行い、敵陣にいる聖座、“聖印乙女”との支援合戦を試みる。
命令と同時に、2人はそれぞれの持ち場へ。
戦場に投下されていく夢魔たちと、天上に打ち上がったウタユメドームを見届ける。
ラピスとレオード率いる残りのメンバーは、帝都最奥の魔城ドゥーンビーレルを目指す。魔星親衛隊を蹴散らす為のウルグラ隊の精鋭たち、彼らを指揮する秋陽と吊喰。
悪夢の住人として、残夢と夢幻包羊。
大役を任せられたアリエスは震えながら、護衛役として傍にいるシェラタンに縋り付く。ラピスから直々に同行を命じられたメードは、気合を入れた無表情で並び立つ。
……リデルとグゥの姿はない。どこに行ったのか。
そんな誰かの疑問に耳を傾けず、ハット・アクゥームを目深に被ってラピスは前へ。
自前の列車で飛び立つ前に───恒星に目掛けて、月の魔法をかける。
「何を…」
「嫌がらせと、試し撃ち。若しくは挨拶」
「あ?」
周りの疑念を無視して、ラピスは代名詞たるその魔法を天上より撃ち出す。
目標、王域の中心軸、極黒恒星。
漆黒の太陽に風穴を開けんと───魔法で作り上げた、月を落とす。
ゴゴゴゴゴゴッ…
「月魔法───<セレスティアル・ムーンフォール>」
それは、蒼く染まった魔法の月。かつて放った悪夢とは異なり、幻像てはあるものの……その質量は、本物と寸分違わぬ力を誇る。
恒星程度であれば、対消滅できる威力の魔法。
やりやがったと口を開く一同を無視して、蒼く輝く月が落ちていく。恒星を目指して、真っ直ぐ斜めに落ちていく満月に、大陸惑星にいる軍勢たちは、どうにか迎撃せんと攻撃を飛ばす。宇宙怪獣たちも飛翔して攻撃を当てるが、月は微動だにせず。
「小手調べだよ。さぁ、どうする?」
危機を察知して、皇帝が飛び出るのか。それとも、それ以外の戦力が顔を見せるのか。
結果を待ち望むラピスは、冷たい目付きで睥睨する。
魔法少女でさえも対処に手間取った蒼い月は、あらゆる障害を無視して落下して……
遂に、恒星表面の熱波と、蒼月表面の冷たい魔力が接触する。
その時。
───キィィィィン…
甲高い金属音が。刀を鍔から引き抜いた、特徴的な音が世界に響く。
極黒恒星の表面から、一つの小さな影が飛び立つ。その小柄な剣士は、恒星周辺のデブリの上を駆け、飛び跳ね、自信を持って満月の前に飛び上がり。
引き抜いた刃を、カンッ!とわざと鳴らして。
皇帝が動くよりも速く、誰よりも速く、女剣士は、その刀身を輝きに晒す。
「あれは…」
……ラピスは知らない。彼女以外の、誰もが知らない、彼女の強さ。皇帝はおろか、祖父を相手にさえ語られずに秘匿された、彼女の新しいルーツ。
見覚えのある構え。
見覚えのある圧に、蒼月は目を見開く。そんな馬鹿な、有り得ないと。きっと、源流が違うだけの似通りだと強く否定する。
だが、その想いを嘲るように───暗黒銀河に刻まれ、継承された刃が煌めく。
「…斬魔一刀流───闇一重 “極”」
漆黒の一閃が、上から下へ、縦に振り抜かれ───月を透り抜けるかのように、斬撃が、宙から宙へと震撼する。戦場にいる誰もが声を失った、一瞬の静寂の後。
手の届かない脅威が。
あの偽りの蒼い月が───綺麗に両断され、真っ二つに裂けた。
「なッ…」
「あ、あれって…」
絶句する魔法少女たちは、光の粒子となって消えていく片割れ月を茫然と見やり……
侍の亡霊を背負う剣士の到来を、見逃してしまう。
音もなく甲板に降り立って───ピンクが混じった白い髪の持ち主は、ポニーテールを揺らし、“斬欲”に呼応して輝く妖刀で、ムーンラピスへと斬り掛かる。
ラピスは、咄嗟に仕込み杖の刃で妖刀を受け止めて……特攻してきた剣士を、見る。
「オマエは…」
「───お初にお目にかかる。セッシャ、王をお守りする親衛隊の刃でござれば」
「ッ、僕が聴きたいのは…!」
「クフフ!そう逸るでない───人呼んで、“斬星儚魚”。魔星親衛隊の総隊長。
そして!!」
意気揚々と。
その名を、相手の記憶に刻まんと。天魚の孫娘にして、刀の後継たる彼女は笑う。
「免許皆伝ッ!尊敬する師、“斬魔”より剣術を継承せし、辻斬りでございますれば!!」
───魔星親衛隊、総隊長
“斬星儚魚”、若しくは───“斬魔二世”
ヴォービス・トレーミー
剣参。




