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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
新たなる星々の輝き

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星語りの秘話-古神


 十二将星の最古参。暗黒銀河の黎明期より、今を生きる天魚の怪物。星雲を掻き分け、宙を泳ぎ、世界の果てまで雷鳴を轟かせる、戦の神。

 “天魚雷神” アルフェル・トレーミー。

 暗黒銀河の前身、暗黒宇宙の時代から最強の一人として宇宙に名を轟かせる彼は、今、史上稀に見ない大戦を前に精神を高揚させていた。もっと言うのであれば、ドキドキワクワクしていた。年甲斐もなく胸を踊らせ、滅びへ進む運命に足掻く子どもたちに、どうしようもない愛らしさと愛おしさを感じてしまう。

 それが場違いの感情であっても、アルフェルにとっては関係の無いこと。一度でもそう思ってしまったのだから、もう仕方がないのだ。

 自分よりも遥かに歳下で、遥かに弱いのに。

 僅か数年で、自分と同じ領域の強さに近付いた早咲きの戦士たち。称賛すべき強さだ。敬意を表すべきだ。新たな強者を祝して、迎え入れるのもまた一興。まぁ、相手方がその申し出を断り、鋭い殺意を向けてくるのだが……

 アルフェル的には、それもまたヨシ。ただで従属せず、刃向かってくる気概の持ち主。それに見合った力の持ち主という時点で、言うまでもなく最高だ。

 だからこそ、アルフェルは魔法少女を肯定する。

 地球を守る戦士。それに連なる、アリスメアーなる悪夢すらも肯定する。


 肯定した上で───正面から叩き潰す。それが、天魚の力故に。


「懐かしいのぉ…」


 花が舞い散る。

 天まで届けと、華美なる歌声が響き渡る。舞い、踊り、役者たちの“魂”が注ぎ込まれた舞台。人生までもを一つの作品に組み込み、劇として成立させた役者の本気。

 演劇にして演劇に在らず。喜劇にして悲劇、役者たちの祈りと願いを込めた天魚への捧げ物。

 美しい演舞を鑑賞するアルフェルは、動作の一つ一つに込められた熱き想いを汲み取り、父の抱擁をもって全てを受け入れる。


 アルフェルは演劇が好きだ。人が作る作品を、目で見て嗜み、楽しみ、心で掴む。

 戦いとはまた違う、アルフェルの人生の楽しみだ。


 特等席から劇を見下ろすアルフェルは、役者たちの動き一つ一つをその目に焼き付ける。

 題材は『暗黒銀河創世記』───暗黒宇宙の時代から、皇帝ニフラクトゥが覇権を握るまでの過程。暗黒銀河へと生まれ変わるその瞬間を舞台にした物語。

 伝説を後世に伝える詩。アルフェルは“劇”という一つの作品になった思い出を想起する。当時、ニフラクトゥの父に当たる宇宙の皇帝に仕えていた時。既に最高戦力ならぬ最強戦力として名を馳せていたアルフェルは、当時退屈を抱いていた。自分と同格のいないツマラナイ戦い。面白味なんて欠片もない、一撃で全てを粉砕する以外に脳のない若かりし頃。尚1000歳。退屈で、刺激を求めて、喜悦を追い求めて戦いに出る。例え、鬱屈とした景色が変わらず広がっていようとも、形のないそれに期待する。

 ……悠久にも近いそれが終わったのは、曲がりなりにも彼を配下として支配下に置いていた皇帝から、彼の息子を紹介された時。


───オマエがそうか。

───あ?生意気なガキじゃな。ぶっ殺すぞ。

───老魚がよくほざく。食い出も無さそうだな。本当に強いのか、貴様。

───ガキが。


 当時、ニフラクトゥくん7歳───やんちゃ盛りだった子蛇との出会いは、老耄したアルフェルに刺激を齎した。死闘の末、当時はまだ将星最強格程度の強さしかなかったニフラクトゥを勢い余って昏倒させたアルフェル。そんな彼の胸中は、過去稀に見ないレベルの高揚に支配された。

 楽しかった。愉快だった。退屈じゃなかった。

 久しぶりに、本当に久しぶりに……アルフェルは、瞳に輝きを宿したのである。


 ───その日から、子蛇の隣に小さな魚が並び、強者の世界に殴り込む。小さな身体に大きな力。後に子蛇が魚の背を追い抜いても、二人の関係性は大して変わらず。

 配下であり、友であり、そして、兄でもある。

 やがて、彼らは二人で先帝を下し───新たなる世界を造り上げる。


 暗黒宇宙滅亡の原因は、若くして最強となった子蛇が、先帝のそれを大きく上回っていたこと。そして、最強たる天魚が、息子に味方したこと。

 たったそれだけの裏切りによって、国は瓦解した。

 どちらに強者が味方するかで、世界は呆気なく、パッとひっくり返る。


「くふっ…」


 アルフェルはそれを知っている。知っているからこそ、この大戦でもそれが起こり得る可能性を見出して、少しの覚悟を決めた。


 新たな盟主にならんとする黄金の獅子も、未来を生きる魔蠍も、死の森の体現たる黒山羊も、夢の支配者となった夢羊でさえも、アルフェルにとっては十分な脅威である。

 ニフラクトゥをも一度殺し得る者たち。

 そこに、魔法少女や悪夢といった強者が列聖する───その恐ろしさがわからない程、アルフェルはまだ衰えてはいない。


「いいのぉ、楽しみじゃのぉ……年甲斐もなく胸が踊る。なぁ、お主もそう思わんか?セチェス」

「バッフォッフォッ!否定はせんわい!」


 隣に座っていた古い友人。つい最近、将星として同格の地位を確立した国王。セチェス・バテン=カイトスと酒を酌み交す。砂漠と樹海の王。全てを飲み干すクジラの王もまた、魔法少女という強者との戦いに胸を躍らせる。

 生憎、彼の相手は魔法少女ではないが。

 それでも、十分に楽しめる価値のある───その確信が既にある。


「そうだ、聴いとくれ。最近孫が冷たくての。やはり王になってはくれないらしい……余、後何百年王様をならんといけんのじゃ?泣きそうじゃもん……あっ、酒うま」

「仕方ないじゃろ。普通王なんざ誰もやりたがらん。政治なんぞやってられるか、じゃな」

「悲しいのぉ」


 後継に恵まれないセチェスを見ても、アルフェルは共感などしない。力ある者は好きに生きるに限る。政治やらの束縛は望むべきではない。血筋で縛られているセチェスや王を継いだ形のニフラクトゥには、選びようがないが。

 それでも放棄せず、王を全うしているだけマシだろう。

 支配者としての地位に興味がないアルフェルは、自分は将星の位で十分だと笑う。それ以上の支配者の地位など、自分には重すぎると。いらないモノを背負ってまで、彼は強者の座には座らない。それこそ、暗黒銀河の隣に新たな銀河を作り、治める力を持っていたとしても。

 アルフェル・トレーミーに政治力はない。

 あるのは、一切合切森羅万象を灰燼に帰す究極的な破壊能力だけである。


「儂は最強じゃ」

「そうじゃな。それは疑いようがない」

「最強故にわからんくなる。あの子蛇までもが、己の血に縛られて生きておる。先帝のグズの真似をし、それ以外の生き方を知ろうともせん。それがどうにも気に食わん……かといって、儂がそれを指摘するわけにもいかん。それはあやつの成長に繋がらんからのぉ…」

「ゲプッ……意外と考えとるんじゃな、オマエさん」

「はっ倒すぞ」


 君臨すれども統治せず───地球という星の、国家元首とはまた違う象徴としての在り方に、アルフェルはいたく感銘を受けた。それこそが理想。皇帝としての生き方に、支配者としての地位に縛られ、現状を良しとするのでは、きっと彼は満足に生きられない。求められるまま王になるのではなく、求められる理想を体現してやるのではなく。

 ただ好きなように力を振るって、自由を謳歌する。

 きっと、その方がまだ楽しい。無表情なのはデフォルトだろうが……まだマシだ。人生を謳歌できる。今の、ただ周りにかしづかれて支配するだけの生き方よりも、アレは生き生きとする。 


 そんな狭められた、人生という名の岐路のない一本道を彼は勇歩している。選択肢のない道を歩んでいることを、本人が気付いていないのも痛ましい。

 変えられたくても変えられない。

 その事実が、アルフェルの悩みない人生に一匙の瑕疵を滲ませる。


 考えたところで、当人に変える気がないのも救いようがないが。


「……劇が終わりそうじゃもん。今日は、このままお開きでいいんじゃもん?」

「構わん。明日が一番忙しいからの」


 終盤に入った役者たちの舞に、2人はカチンとグラスを鳴らす。


 いつ死んでもおかしくない。既に、一族の寿命を大きく上回っているアルフェルは、特に。だからこそ、年老いた戦士は好きに生きる。まだまだ先のある若者が相手でも、まだまだ譲らんぞと笑みを突き刺す。

 生涯現役。この命尽きるまで、派手に暴れ続ける。

 それがアルフェル・トレーミーの長生きの秘訣であり、強者としての強みである。


 終局、カーテシーを見せる役者たちに拍手を送り、劇の終わりを見届ける。


「よかったの」

「いい劇じゃった」


 目をキラキラとさせて喜ぶ天魚に、役者たちは心からの笑みを返して、観劇感謝と再び頭を垂れた。彼らにとって劇とは人生。自分たちの演劇を楽しみにしてくれる天魚を相手するのは、いつも以上に気合いが入る。

 今宵も彼とその御友人を満足させれたことに喜び、皆で安堵する中……


 突然、アルフェルが後ろの首筋に魔力障壁を展開した。


───瞬間、煌めきが世界を一閃して、何某からの斬撃が障壁に突き刺さった。


「おろ?」

「こらこら……行儀が悪いぞ、ヴォービス。お爺様をもう少し労るのじゃ」

「無理でございますれば!」

「んも〜」


 下手人は、天魚の孫。魔星親衛隊総隊長、ヴォービス。ピンクが混じった白髪という、不思議な色合いを持つ髪の持ち主は、なんてことないように笑う。

 ある日突然、辻斬りの剣士として覚醒した孫娘。

 目に入れても可愛い幼子との戯れに、アルフェルは心底困ったように微笑む。


 どうせ暇になって、手頃な強者に喧嘩を売りに来たのであろう、我が孫。あまりにも危険である。こいつを遺して死ぬわけにはいかない。矯正せねば…

 そう言いながら後回しにする辺り、天魚雷神の怠け癖が垣間見える。


「なぁなぁお爺様っ!セッシャ、戦の一番槍を賜ることができたでござるよ!」

「…なんじゃと?あ〜、そういう。しくじるでないぞ?」

「当たり前でござる〜!ムフフ、お爺様の出番が消えたらごめんでござる!」

「なんじゃと〜!?」

「バッフォッフォッフォ!活きがいいのぉ!これは天魚も安泰じゃなぁ!!」

「何処がじゃ…」


 日本刀をブンブン振るうヴォービスを窘め、酔っ払いの戯言を適当に払い除けて。それでも、アルフェルは笑みを浮かべるのだった。


 将星最強、彼の悩みが払拭される日が来るのかは───神のみぞ知る。


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― 新着の感想 ―
「365話完結は無理そうなので、思い切って将星の秘話でも載せたいと思います。過去話ではなく、現在進行形の話になりますが。現将星だけでなく、離反組を先に書いて……だいたい十話ぐらいで戦争編に入ろうかなと…
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